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if…〜scene15〜
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何度も『ごめん』って繰り返しながら、今までの話をする明日美さんにかける言葉は俺にはなくて。
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彼女の事を何も知らない俺が言う言葉なんて、きっと表面的でしかない。
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『泣かないタイプ』
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勝手に見た目でそう彼女の事を判断してた自分はアホやと思う。
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『泣けなかった…』が正解やん。
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「ごめんね。なんかいっぱい話して。大丈夫。もう大丈夫やから。…これ、洗って返すね」
鼻をすすりながら、上げた顔。
真っ赤になってた瞳。
必死であげてた口角。
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「…泣いたらえぇっすよ」
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でっかい腕時計がはまる右手をぎゅっと引いて、俺の胸元へと引き寄せた。
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「泣いたらええやん…」
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ぴたっとくっつくと、息を止めたままの彼女。微動だにせん。
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「(笑)息せな、死ぬで?」
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「ほぼ、心臓止まっとる…私」
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「えっ?」
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体を離すと「ありがとうね、壱馬くん」ってさっきよりも3割り増しな笑顔が見えた。
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「明日美さん?…ごはん…行かん?」
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「やから、私バイトなんやって」
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「やから、それ終わった後。俺、待ってるで?」
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「いい…今日は。何か…色々おなかいっぱいやから。嬉しい言葉で胸いっぱいなんよ。お金もないし」
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「じゃあ、今度。ごはんいこ?」
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「お金、ないんやって言うてるやん」
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「じゃあ牛丼にしよ。なら、ええやろ?誰かと一緒のごはん、って何かええやん?」
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「…ん」
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だいぶ強引やとは今となったら思うけど…
『明日美さん』
そう名前のついた連絡先が俺のスマホに登録された。
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「大盛食べてもひかん?」
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「今更(笑)特盛でも、ひかんから安心してええで?」
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「サラダはごちそうしてくれるん?壱馬くん」
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「しゃーないから、デザートにアイスも奢るで?」
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「(笑)ラッキー」
そう笑いながら、すーって最後に流れた涙がキレイやった。
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『誰かとごはん』
この時はそう言うたけど、きっともうこの時には『誰か』じゃなくて『明日美さんと』になってたと思う。
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10月6日
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「誕生日おめでとうございます」
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キレイにラッピングされた紙袋を渡すと、「何やろな…」ってガサガサ中身を取り出して広げた。
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「ありがと。えっ、めっちゃええやん、これ。この色の感じめっちゃ好きなんやけど、俺」
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「一緒に選んでくれたん…明日美さんです。後これ、預かってきました」
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小さい紙袋ゆっくり逆さにすると缶バッチが3つ。
ピンクと、白と青。
かわいらしいイラストや、ロゴが描かれてる。
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「直接渡したら…?って言うたんですけど。恥ずかしいって」
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「ふふっ(笑)明日美やからな、そうやろな。…壱馬、ほんまありがとうな」
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「はい」
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嬉しそうに着て来たシャツを脱いで、缶バッチを3つ襟元につけてから、プレゼントのシャツを羽織るとえると「ええな、やっぱり。明日美、さすがやな」って鏡の中のやましょーさんはご機嫌やった。
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喜んで貰えて嬉しいはずやのに、心の中に何かひっかかる感覚。
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『明日美はそういうやつやから』って笑って言える。 それは、やましょーさんが、明日美さんをよく知ってるから。
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俺は、知らん。
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彼女の事、何も知らん。
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『泣いてる明日美さんに、やましょーさんなら、何か言えたんやろな…』
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…next
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3日程お休みします。himawanco