.
.
if…〜scene17〜
.
.
.
やましょーさんの誕生日の日の夜。 
車を降りて、自宅に帰る途中のいつもの道。
.
.
《誕生日プレゼント、ちゃんと渡したから》
.
.
ほんまはどうでもいいような、LINE。
でも、用もないのに連絡できる程の関係でもないしな。
.
すぐに既読がついて、《ありがとう》っていう柴犬のスタンプが送られてきた。
.
.
『かわいい』
.
.
 明日美さんって、見た目がきつそうっていうか、黙ってたら冷たそうな雰囲気で。 
でもふわって表情が緩むと、目がキレイな三日月型になって、一気に親しみやすさが増す。
.
送られてきた柴犬がかわいすぎて、俺も同じスタンプをゲットして、送り返した。 
.
《お疲れ様》って。
.
.
次に来たのは《疲れた》ってぺちゃんこになった柴犬。 
そのお返しに《やっほーい》って飛び上がった柴犬を。
.
《怒》って頭の上に文字が乗ったのが返って来る。
.
.
「ふふっ。怒っとるわ(笑)」
そのタイミングで、右上の受話器部分をタップ。 
.
.
ワンコール鳴り終わる前に「もしもしっ」って『怒』な声が聞こえた。
.
.

「(笑)お疲れ」
.
「何で、私が疲れてるって送ったのに《やっほーい》なん!」 
.
「いや…何て返ってくるかなぁって思って」
.
「おちょくっとる?私の事」
.
「多少……(笑)」
.
「壱馬くん!」
.
.
年上やけど、見た目きつそうやけど、中身はかわいらしい人って知っとるから。
.
.
「明日美さん、おなかすいた」
「は?」

「仕事は?今日もう終わり?」
.
「ん…そうやけど」
「夜は?バイト今から?」
.
「今日はお休み。たまには休むから、私も。毎日は無理、死んじゃう…」
.
「(笑)やな。じゃあ、ご飯いこ。せっかくやから牛丼じゃないやつ」
.
「給料日前なの、勘弁して」
.
.
これ…やんわり2人で食事を断られてるんやんな。
避けられてる?って事?
.
.
「あっ…」
.
「何?どしたん?」
電話の向こうに聞こえる明日美さんの声と、ラッパみたいな音。
.
「壱馬くん?今どの辺?」
.
「どの辺ってもうすぐ家…」
.
「ラーメン食べたくない?」
.
「私、こないだの公園の近くなんだけど、屋台のラーメンやさん来てる!私、これにしよ一晩御飯。
来る?…来れる?」
.
「えっ?…ん。行く。すぐ行くっ!」
スマホを握ったまま、通りに飛び出して捕まえたタクシー。
.
ここから15分。
.
絶対、タクシー代の方がラーメンよりも高いよな…って思いながら、「来れる?」って聞いてくれた事が嬉しくて。
.
.
勝手に避けられてるとか思ってたけど、どうやらそうではないみたい。 俺の考えすぎ。
.
考えすぎる原因はただ一つ。
.
.
窓の外に流れてく光を見て、思う。
『しっかり好きやん、俺』って。
.
.
彼女の事が好きやから、考えすぎてしまう…そういう事。
.
.
.
.

明日美 side

.
.
レジを閉めて、リュックを背負ったタイミング、カウンターの上のスマホにLINEの通知。
.
相手は壱馬くん。
お気に入りの柴犬のスタンプを送ったら、同じのが返ってくる。
.
画面の左右に並ぶ柴犬に、「ふふっ」って自然と笑う自分。
.
リュックを背負ったまま、棚に凭れかかると、画面が切り替わる。
.
.
.
「お疲れ」 ちょっと低めの落ち着いたその声が、とっても耳心地がよくて、体の力がすーって抜けていく。
.
店の鍵を閉めて、階段を降りて空を見上げた。
毎晩、階段を降りたタイミングで月を確認するようになったのは、壱馬くんとのあの日以来の日課。
.
.
『明後日あたりが満月かな』
.
ちょっと左側のカーブが足りない月は、なんだか不格好で。
.
『ちょっとブサイク(笑)』
壱馬くんの声を聞きながら家までの道を歩き出す。
.
.
夜のバイトがお休みの貴重なその日、でもお給料日前でお金はなかったから、カップ麺だなって朝から思ってた。
.
.
いつもの牛丼屋さんを通り過ぎて、あの日の公園の近くを通りかかると、懐かしい音と、 東京では珍しい赤い提灯。
地元の倉敷では駅前でよく見かけたやつ。
.
.
何か懐かしいのと、その香りに一気にテンションがあがった。
.
.
誰かと…『壱馬くんと』って思った。
.
.
.
.
...next
.
.