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if…〜scene20〜
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「明日美?送ってくわ」
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「えっ?電車で帰れるで、ええよ。うちまで結構距離あるし。タクシー代バカにならんやろ?」
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「あほ…んなん、気にすんな」
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『ゆっくり話ししたい』
そんなド直球になんて言えるわけない。
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「ええから、来いって」
半ば強引に彼女をタクシーに乗せて、隣に俺も座った。
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「ほんま、めっちゃかっこよかったで、彰吾。
それに、おもろかったよ、ライブ。みんな楽しそうやんな。お客さんもステージの上におる彰吾の仲間?友達?も」
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「メンバーな(笑)」
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「そっか、友達ってのとは違うか」
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「(笑)」
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そう、この空気感。懐かしくて…心地よくて。
このまま…って思ってたけど。
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俺には、ずっと気になってる事がある。
ひっかかってる事がある。
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青信号になって走り出したタイミングで『聞こう』って決めた。
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「なぁ、明日美?昔の事…今更なんはわかっとるけ。
でも、ずっと俺ひっかかっとんよ。
何があった?何で俺らになんも言わんで、おらんようになったん?
高校時代、あんなバイトばっかしてたん何で?
俺な?お前の話ちゃんと聞いた事ないって、おらんようになってから、気づいたんよ。
円も修二もそう言うてた。
円、泣いてたで?卒業式ん時。
『親友やと思ってたのに、悔しい』って」
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「ごめん…」
俯いたまま、たった一言謝ると、ふっと窓の外を向いた。
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「みんなと、一緒がよかったん…」
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「ん?」
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そこから話し始めた高校時代の話。
お父さんが病気で入院してる話。お母さんが亡くなった時の話。
今、仕事とバイトをかけもちしてる話。
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「…私も円の事は親友やと思ってる。それは今も変わらん。 修二の事も、彰吾の事も、大切な友達やって思ってる」
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「…ならっ、言うてくれたら」
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「普通でおりたかった。
学校行ってる時くらいは、みんなと同じとこにおりたかった。 彰吾に、変に心配されるんも、かわいそうって思われるんも、気遣われるんも嫌やったんやもん」
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「あほやな。
可哀想とか、そんなんないやろが」
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「壱馬くんにもそう言われた。『やましょーさんはそんな人やない』って」
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「話…したんか? 壱馬には」
そう言うと小さく頷くシルエット。
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『決定打やな』
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一番近くにおった…って、自信あった俺には言えんくて。
まだ会って数回の壱馬には、話した。
それが意味する事。
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「ありがとう、送ってくれて」
明日美のアパートの前、一緒にタクシーを降りた。
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「彰吾、乗って帰らんの?」
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「ん、ええわ。よ一考えたら、俺も金なかったけん」
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「はっ?(笑)あほなん?」
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「あほ、言うなて…」
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少しでも長く、明日美と話したかった。
やっぱりこいつと喋ってると、いい感じに力が抜けてって、何も考えんでただ踊ってたあの頃の自分に戻れる。
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「お前と喋っとったら、原点回帰できるんやって」
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「どういう意味?」
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「今日みたいな、よっけの人の前で眩しい位のライトが自分に向けられて、調子に乗るっていうんとはちゃうけど、『昔はこんなんちゃうかったなぁ』って俯瞰的に思う瞬間とかあって。
『かっこよく見えとるかな』とか、周りの目が気になるんよな。
でも昔はさ『楽しいな、踊るん』ってただそれだけやったなぁとかさ」
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「『これしかない』ってよぉ言うてたもんね」
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「『踊らん彰吾はおもんない』ってキレられたんとか、今でもトラウマやけんな、俺。たまに夢に見るわ」
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「(笑)だって。…踊っとる彰吾が好きやったんやもん、私」
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ちょっと不貞腐れたみたいに、俯きながらそう言った彼女。
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『言うてまうか…もう、今…』
タイミングなんか考えとる場合やないかも。
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その時、プップーってクラクションの音と同時に目が眩む程の車のヘッドライトに、思わず彼女の腕を引いた。
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体勢を崩して、ふらつく明日美を抱きとめると、彼女の黒目いっぱいに自分が映る。
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「っ、ごめん。ありがと」
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慌てて離れてくその感じに、
「相変わらず、どんくさいやんな」
って突き放すような事しか言えんかった。
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そんな風にしか言えん自分に、がっかりやわ。
結局、踏み出す勇気がない。
壱馬がどうとかやない、俺の問題や。
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…next
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