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if…〜scene21〜
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「えっ、やましょーさんは?」
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ライブが終わってマッサージしてもらって戻った控室、やましょーさんだけおらん。
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「あっ、今日来てた同級生送っていくって…。すんごい美人な人でしたね、前言ってた元カノって…あの人っすかね?」
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「やっ、ちゃう言うてたで?『友達』やって」
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「えー友達?ないでしょ?俺やったら絶対いくっすよ」
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スマホ片手に「さぁそろそろ車来ますよね?」って昂秀が荷物を片づけてる。
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『友達…ないでしょ?』
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俺も、今でもそう思ってる。
でも…もう俺の気持ちは引き返せんとこにまで来とる。
自分ではっきりそれがわかる。
もし、やましょーさんが、明日美さんの事を好きやったとしても…。
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「昂秀、すまん。俺、ちょっと先出るわ。タクシーで帰りました言うといて」
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「えっ?」
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「おつかれな」
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着替えもそこそこに、ジャケットを羽織って帽子を被って先に会場を出た。
向かった明日美さんのアパート。
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この時の俺が、話したかったのは彼女やない。
やましょーさんにちゃんと言うておきたかった。
『中途半端な気持ちやない』事を。
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『宣戦布告』
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…別に争うつもりではないけど、譲れないっていう思いは確かやから。
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明日美さんのアパートの近くでタクシーを降りて、角を曲がったとこ。
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『おった…』
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エントランスから少し外れた場所、街灯がぼんやり灯るその下に2人はおった。
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「やましょーさん」
意を決して近づいてくと、「壱馬?」ってこっちを振り返った。
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「えっ?どしたん?」
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「ちょっと、話しあって…おっかけて来ました…すいません」
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連絡も入れずにとんでもない事をしてるって自覚は、もちろんあって。
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でも、もう今のこの気持ちは、今伝えるってそう決めたらもう迷いはなかった。
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彰吾 side
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「やましょーさん」
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暗がりの細い道…急に名前を呼ばれた事の衝撃に背筋がピンっとなる。
でも、その声がすぐに壱馬だと気づいた。
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そして、何でここに来たのか、今からコイツが何を言うだろうかも想像にたやすい。
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『俺も、もう誤魔化せんな』
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♪~♪~
気まずい雰囲気の中、明日美のスマホが鳴り出して。
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画面を見た瞬間、「っ…」って一瞬顔が曇ると
「はい、本藤です」って静かに口を開いた。
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電話の向こうに聞こえる女の人の声。
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最後の部分だけはっきりと俺にも聞こえた。
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「すぐ、来てください!」って。
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明日美 side
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鞄の中、灯りともったスマホに浮かぶ名前はアイツがいる施設。
おじさんが間に入ってくれてる事もあって、私の元に電話がかかって来ることなんて殆どなくて。
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『何かあった』…のは直感的にわかる。
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「はい、本藤です」
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「もしもし?明日美さん?あのっ、お父さんさっき施設の階段で転んで頭打って、救急車で運ばれたんよ。今病院から電話あって、ひょっとしたら…な事もあるけ、ご家族の方をすぐ呼んでくださいって」
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『死ねばいい』って思ってたはずやのに、『死ぬかもしれん』って思ったら、手の震えが止まらんかった。
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でも次に私の頭の中にクリアに浮かんだのは、お母さんが死んだ時の事。
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『お母さんの最期の瞬間に、私は会えんかった。やのに、何でアイツの最期には会いにいかないかんの?』
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「…行きません、私。すみません、行けんのんで。ご迷惑おかけします」
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そう言って電話を切ると、「どした?明日美?」って心配そうな彰吾が私の顔を覗き込む。
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「お父さん、施設で転んで頭打ったって。 危ないかもしれんけ、すぐ来て下さいって」
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「っはよ、行かな!明日美!」
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彰吾 side
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「いや…行かん」
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「何でっ、何かあったら!」
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「私…お母さんの死に目には会えんかった。
あいつのせいやもん。今更っ。
…ええんよ。死んだら」
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本音やない。俺には、ちゃんとわかる。
今にも泣きだしそうにぐっと口を結んで、揺れる瞳には涙が溜まる。
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「後悔は、せんのか? それで」
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「ん、せん…」
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「そか…。じゃあ、もう俺は何も言わん」
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明日美がやりたいように、俺はそう思った。
それが明日美の望みなんやったら、もう何も言わん。
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ずっとがんばって来た。
自分の事、全部後回しにして、生きてきた。
明日美が、解放されるんやったら、それもええんかもしらん。
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…そう思った。
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…next
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