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if…〜scene23〜
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「かっこ良すぎやし…壱馬。まぁ、俺もやな」
取り残された明日美のアパートの前で、ふふって、一人やのに笑ってしまう。
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俺と壱馬では、そもそもの考え方が違った。
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このまま時間と共に、辛さは薄らいでいくもんやと俺は思う。
人間の感情なんて、『うれしい』も『悲しい』も『むかつく』も、時間と共に落ち着いていくもんやと思うから。
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でも、壱馬は違う。
自分の中で消化せな、その感情の温度は下がる事はない。 壱馬はそういうやつ。
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明日美は、壱馬と同じって事。
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ずっと下がらない温度で、生きてきた。
ならどこかで、それを放ってやらな、あいつが潰れてしまう。壱馬にはそれがわかってるんやろな。
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「教えてやろか…」
もう新幹線も飛行機も終わってる時間。
こうなったら岡山に帰る方法なんて、1個しかない。
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東京に出てきてから、金がなくて。
その時実家に帰る時使ってたんが、夜行バス。
東京一岡山って、飛行機も新幹線もバカ高くて、しかも、最終も早い。
22時すぎて、帰る手段ってこれしかない。
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壱馬と明日美にLINEを送った後、通りかかったタクシーを捕まえた。
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「タクシー乗る位の金はあるけ、ちゃんと。
『お前ともうちょっと一緒におりたかった』
何で、それが言えんかったんやろな…俺」
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自宅までの車中。
『これでよかったんか?』って思う自分と『相手が壱馬なら、最高やん』って思う自分がおる。
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「友達…。ん…そうやんな」
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俺はそれを選んだ。
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壱馬 side
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閉じたカーテンの向こうに、明るさを感じて目が覚めた。
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早朝。
車内で灯したスマホの灯り。
ガサガサやってると隣の明日美さんからLINEの通知。
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《起きた?壱馬くん》
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《ん。明日美さん、寝れた?》
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《…あんま、寝れんかった》
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《そっか》
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《壱馬くん、岡山着いたら東京すぐ戻るんよね?》
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《ん…午後から仕事やから。駅着いたら、すぐ空港行く。飛行機、取れたから》
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《忙しいのに、ついてきてくれて、ありがとうね》
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《いや、無理やりつれてきたん、俺やし。…どうするか、決めた?》
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《会うてくるわ。言いたい事言うてくる》
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《そっか、わかった》
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『がんばる』って柴犬のスタンプが送られてくる。 ふふって頬が自然と緩む。
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《東京帰ってきたら、田崎さんのラーメン屋さん探そうな》
《やっほーい》ってまた柴犬。
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東京までのバスの中。 きっと色んな事を考えたやろうって思う。 それでいきついた答えが何なのかは、俺にはわからん。 何をお父さんに告げるんかも想像もできん。
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でも『向き合う』って決めた彼女はすごいって思うし、応援したいって思った。
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指先で小さく開いたカーテンの向こうからは、瞬間的に目を瞑ってしまう位の朝陽。
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『明日美さんが、前を向いて生きていけるきっかけに、なりますように』
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そのオレンジに、そっと願った。
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...next
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