なんでもおいしいって言うから
なんでも好きなのかと思ってた。

一昨日のヨルゴハンのメニュー、
ホンマは嫌いやってんやろ?

今日聞いたよ
元カノさんから。

おいしいおいしいって食べてたのに
「嫌いやってんやろ?」
…って聞いたら重いやろ?

はよ嫌いなもの 全部覚えたいな…




「なぁ、嫌いな食べ物ってなに?」

帰ってきた彼に思いきって聞いてみる。
ちょっとびっくり顔…から だんだん困った顔…。

もしかして
嫌いなものばっかり作ってたんかな。
毎日無理して食べてくれてたんかな…。

言うてくれたら良かったのに…

だんだん、見上げてた彼の顔が見れなくなってきて
今はフローリングの上の 自分の裸足の爪先が見えてる。

「…なんやろ」

気 つかわんで。これからに活かしたいん。

「…何が嫌いか忘れてもーたわ」
「え?…」

一昨日のヨルゴハン、嫌いやったんやないの?
他にも好き嫌い、ホンマは凄く多いんやろ?

「作ってくれるんが みんなうまいから、何が嫌いやったか…忘れてもーた」

もっかい見上げた彼の顔は
アホの子みたいにぽかんとしていて…

嘘。

嘘やん。

ホンマは忘れてないのに 忘れたふりしてる彼。

ホンマに…
ホンマにもう…。


「…思い出したら 教えてよ?」

うん。思い出したらな。

って優しい顔で頷く彼に
ほわっとため息一つ。

甘やかされたら、離れられへんくなるのに。

でも今はただ単純に
ほわっとあったかいため息一つ。
かわいそう。

わー、それかわいそうやな。

むっちゃかわいそう。


何回かわいそう言うねん!
ってほっぺたを膨らませる。

買ってきた小さくて可愛くて綺麗なデコレーションのケーキ。

見せようと思って、ソファに座る彼に見えるようにってお皿を傾けたら、ズルズルってお皿の上を滑って、床にダイブしてしもうたの。

ホンマは最初から一緒に食べるつもりで買ってきたのに、

「一人で見せびらかしながら食べようとした罰やんな」

って、ちょっと嫌味に言うから、
ますますなんだか報われない。

「…ちゃうのに…」

ぽそっと反論。

「かわいそうや~。むっちゃかわいそう」

聞こえてないみたい…。


アホみたいに爆笑しながら、床に落ちたケーキと、泣きそうな顔を交互に覗き込んで、また爆笑。

「…もう…うるさい!かわいそうばっか言わんでや!」

少しクリームで汚れた、カラッポのお皿を持ったまま子供みたいに地団駄を踏む。



買い物いくまえに綺麗に掃除したばっかりのフローリングとくっついて
裸足のアシノウラがペタペタって音をたてる。

喚く声よりそっちが大きい。そんくらいの地団駄。

それがなんか、更に彼のツボに入っちゃったみたいで…

「んはっ!ホンマかわいそう!かわいそうすぎる!」
ソファーからずるずる落ちて、床に膝ついてまで爆笑しちゃってる…

もう…もうなんやの。
そんなに笑わんでも…
そんなにかわいそうがらんでも…

ただでさえケーキ落ちて悲しいのに
そろそろホンマに泣けてまうよ…

「かわいそう~」

「そう は言わんで!」

だん!っておっきい地団駄。

「へ? かわいそ… かわい…かわいー?…」

言われたままに返した彼が
いつもは言わない単語をぽろり。

かわいそう

から

そう

を取った、単語をぽろり。

「ちょ、おい。な…何言わすねんっ」

普段滅多に言わない言葉を
うっかり口にしてしまって慌ててる。

焦ってももう遅いよ。もう聞いちゃいましたからね。
なんて、冷静な声で呟きながら
ケーキ拾ってる顔 多分めっちゃにやけてるな…きっと。





ホンマのホンマは その単語を連発したかったんやろ?
知ってるから、言わせてやったんやからね。


そう やろ?
手 多分 繋いでくれようとしたんだと思う。
なのに、そんなんあんまり珍しいからわからへんくて…

上に向けられた大きな、ごつごつした手のひらに…
頭を大きく下げて、おでこを乗せてしもたんよ…。

自分でも何がしたかったかわからへん…

けど、おでこを乗せた大きな手のひらか
くっくっくっ って揺れる。

慌てて顔を上げたら、
白い出っ歯めの歯を見せて
声も出さずに爆笑してる彼。


アホみたい。

アホみたいに幸せや…。