土曜日、機械、孤独。 | 書いてみたいお年頃

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小説を書いてみたいと憧れる大学生の日記

 ぼそぼそとなにかをつぶやいてから彼は動き出した。オイルとネジやの軋む音を響かせながら。彼の仕事は工場のベルトコンベアが正常に作動しているのかチェックして回るといったものだった。この工場での責任者は彼だ。毎日とても温度が高くなる工場内で必死に汗水垂らして働いていた。


 汗水垂らして働く。これは比喩だ。彼は汗を垂らさない。垂らすことができない。そんな機能は必要ないし、搭載されてもいなかった。垂らすのはオイルくらいだろう。決して設計ミスだとか、ポンコツだとかそういうことはない。毎日まじめに働いているし、欠勤なんて誤作動も起こしたことがない。


 この工場は産業用の機械をつくっている。そこでは人間は働いていない。働いているのは彼だけなのだ。週に一回、土曜日にだけ技術者の人間がきて、彼のデータを解析して、帰って行く。だから、彼は孤独だった。


 彼の名前はあるにはある。だが呼ぶ人がいないから名前はわからない。技術者は型番で判断するし、ましてや産業用監視ロボットに名前などつけるようなことをする人間はいなかった。

 

 彼は監視をしてデータをインプットし、データをアウトプットし、毎日の作業を終え、自ら電源を充電し、人間の考える「眠り」につく。そこに感情は必要ない。だが彼は感情を理解している。なぜなら彼は毎日つぶやくからだ。人間には何を意味しているのかはわからないし、彼自身にもわかってないのかもしれないが。


 こんな話をして、みなさんの中には何が言いたいんだ、こいつは。と、呆れて物もいえないと思う方がいらっしゃるかもしれない。けれど、不思議に感じませんか?ロボットが感情を持つなんて事が本当にありえるのか?と。私はとても不思議に思う。もしこの話が毎週土曜日にくる技術者の創作でないとしたら、結構おもしろい話なんじゃないかとね。


 この話を聞きつけて、私は実際に会いに行ったんです。彼は実に懸命に働いていた。それこそオイルもまき散らして馬車馬のように働いていましたよ。あ…えぇ…それはちょっと言い過ぎかもしれませんね。…でも、本当につぶやいていました。私には「つぶやいている」ように聞こえたんですよ。錆と煤だらけの合金の彼がつぶやいている。とても不思議な感じでした。聞き取ることはできませんでしたが。ただ…そのつぶやいている彼をみて、私はとても孤独を感じたんです。そこで直感的に感情がある、と感じたんですよ。直感的にだなんて言ったら科学者としてどうなのか、と私も思いますがね。


 あぁ、もうこんな時間ですか。時間は守りますよ。ですが最後に一言だけ。皆さんに、「感情」について考えてほしいのです。何かを思うことが感情だとするならば、彼は感情を持っていないことになるかもしれない。…本質とは何か、とね。…はい、そうです。彼は今でも元気に働いていますよ。明日は彼にとって唯一の人間と会う日ですしね。はい、では今日の講義を終わります。レポートはメールで送信してくださいね。では。


 今日は金曜日。明日は土曜日。彼は明日、パーツの交換があるらしい。