「悪い出会いも」 | 消防設備士かく語りき

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川崎の消防設備士、平成め組代表のブログ

 

まだ独立して間もない頃、当時仕事に飢えていた私はたまたま求人サイトで見つけた都内の消防設備点検会社に連絡をし、半年程度働いていたことがある。

 

「面接」とのことで呼ばれた場所は何故だか駅前の喫茶店の様な場所で、現れたのは明らかに還暦過ぎた人物。

 

30分程話して「採用」となったが、しかしいざ仕事をしてみるとそちらの会社、もはや会社と呼ぶのも憚られる(はばかられる)様なところ。

聞くと社員が1名だけいるらしいが、残りの人員は私を含め基本全て外注。

 

早い話が「消防設備士派遣業」の様な会社で、日々取引先各社の現場に人員を直行させてはその人工代から多額のマージンを抜いて経営していた。

各社の人工代はまちまちであったと思うが、恐らく高いところの場合で8千円~1万円は抜かれていたと思う。

 

当時私の日当は12000円であったが、それらは交通費も全て込みで、一切の経費精算なども無し。

ごく稀にどこかの会社から「請け案件」も貰っていたが、大抵見るのは消火器と避難器具だけという、至って小規模なものが中心。

 

「会社」としての主な収入源が派遣した人員から抜くマージンなのは間違いないところで、「随分とせこい商売を考えたものだ」と感心するやら呆れるやらであった。

元々その社長との相性も最悪で、最後は私の方が「このボケ老人」と散々罵り関係が途絶えた。

 

しかしそれから2~3年後、相変わらず一人親方の状態ではあったが私にも少しづつ人脈が出来、ある時、某自火報メーカーの二次請け会社の人間から「ウチは応援の人には25000円出すよ」と言われ、一瞬頭の中で「1人25000円も貰えるなら人を集めてその会社に人員を毎日3~4人も出せばそれだけで食べていける!」などと、かつて散々嫌ったはずのあのボケ老人社長と同じ様な商売を思わず考えてしまった自分。

 

だが世の中にそんな美味い話があるはずもなく、結局はその会社も社長が相当に怪しい人物で、当初の25000円という話から突然22000円になり、その後はそもそも仕事自体もあまりなく、散々揉めた末にやはり最後は喧嘩別れの様な形になった。

しかし一瞬とはいえ「マージン抜き稼ぎ」に走ろうとした自分を大いに恥じた。

 

そうした過去の経験から「もしも今後法人化出来たとしてもやはり信頼出来る正社員を雇用しないことには絶対に業務は回らないだろう」と思い、とにかく自分のところの人員については「社員としての雇用」に拘る様になった私。

 

実際前述したその還暦社長、私が辞める直前に取引先の一社からの依頼でかなり大規模な現場の消防設備点検を請負う約束をし、日頃からマージンを抜きまくってる各外注の人物たちの予定を先に抑えようとしたものの上手くいかず、点検間近になって結局「やはり出来ない」と断り、元請会社を相当に困らせたと聞いた。

 

やはり外注は個人であっても「一つの業者」として扱うべき相手であり、業者である以上は他にも様々な仕事をしてるのだから決して「頼り切れる相手」ではない。

現在は私も多くの外注の方々に現場を支えて頂いているが、一方で頭の中には常に「あまり頼ってはいけない」と自分に言い聞かせながら日々仕事を依頼している。

 

最終的にその組織の言わば屋台骨となってくれるのは社員たちであり、それゆえ私の中の鉄則として「3人のベテラン外注より1人の新人社員」というのがある。

マージンを抜くことでチマチマと稼ぐことを考えていたのでは大きな仕事、そして目標など達成出来るはずもない。

 

かつて出会ってきたそうした「せこい人間」、そして「怪しい経営者」の存在は私の中で「きな臭い思い出の中の人」であると同時に、未来に向けた学びを与えてくれた者たちでもある。

「こんな人間になってはダメだ」という。

 

出会いには「良い出会い」もあれば「悪い出会い」も確かにある。

しかしそんな悪い出会いも己の考え方一つで人生の「肥し」にすることは出来る。

 

それを思えば、ロクでもない人間との出会いも中々どうして、捨てたもんじゃない。