「少しでもマシであるために」 | 消防設備士かく語りき

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川崎の消防設備士、平成め組代表のブログ

 

 

これはこの消防設備業界、全ての会社に言えることであろうと思う。

 

皆何かしら作業について拘る(こだわる)部分がある。

例えばかつて付き合いがあったとある同業者の場合、普段の点検は超適当なくせして何故だか総合試験時の絶縁測定をやたらと念入りにやる。

 

受信機関係だけで1時間近く費やし、社内の人間同士で「あ~でもない、こ~でもない」と言いながらとにかく細かくチェック。

もちろん細かく点検するのは良い事だと思うが、しかしそちらの会社、繰り返すが普段の点検自体は超適当。

 

マンションの避難器具も蓋を開け閉めするだけで自分の身体で「荷重をかける」ことなど一切しない。

消火器も基本的に名前を書いて終わり。

にも拘わらず絶縁測定だけはいささか異常な程、入念に行っていた。

 

因みにそちらの会社、当時社内に二種の電工すら持っている人はおらず、半分素人みたいな連中であったが、しかし本当に何故だか絶縁測定だけは細かかった。

だがその様な「その会社独自の妙な拘り」というのは割と多い。

 

と言ってもある一つの会社に長く勤めている人の場合、あまりそうしたことを普段は気にすることも無いのだろう。

一つの会社のみで長く働いていると、傍から見ればその会社独自の「妙な拘り」も、しかし本人たちにしてみれば「それが普通」としか思わない。

 

つまり他の会社のやり方を見たことが無く、基本的に「自分たちのやり方が全て」という考え方に支配されてしまう。

しかし例えば私もそうだが、長らく「一人親方」という経験をしてきた者の場合、様々な会社の現場に参加する為、実に多くの会社のやり方を見る機会に恵まれる。

 

そうした自身の経験から言わせて頂くのであれば、ハッキリ言って「完璧な点検」を行っている会社など皆無と言って良い。

ここで言う「完璧」とは何も「点検要領に100%沿っている」などという意味ではなく、単純に「どこの会社と比べても下回る部分が無い」という意味での「完璧」である。

 

それこそ1~2回程度現場に参加したのみで終わった会社も含めるとこれまで20社以上の「仕事ぶり」を見てきた。

 

だがどこも何かしら他社にはない作業の拘り(つまり入念に点検を行う部分)がある一方、逆に他社と比べあからさまに手抜きな部分もあり、でも当人たちは「自分たちは凄くシッカリ点検している」と勝手に思い込んでいる… そんな光景に散々出くわしてきた。

 

「煙感知器の感度試験を行わない」のはどこの会社も共通していることだが、例えば「小さな点検口の中のエレベーターの感知器をちゃんと炙るのか?」、「緩降機をちゃんとセットするのか?」、あるいは「防爆感知器を試験するのか?」などは会社ごとにまちまちである。

 

そんな過去の経験から私自身が学んだことが一つある。

それは「とりあえず清掃を第一に考えておけば問題無い」ということ。

これは消火器だろうが誘導灯だろうが、あるいは消火栓箱だろうが、とにかく「先ずは清掃」を心掛けて作業をしておけばどこの現場でも基本的に間違いない。

 

何せ前述した様に基本的に消防設備点検はどこの会社も「適当」がベースである。

あくまでもその「適当」というベースの中で部分的に拘りを持っていたりするだけで、しかしそもそものベースが適当なのだからそんな拘り、もはや何の意味も成さない。

 

この際ハッキリ言わせて頂くが、「適当」が身に染み付いたこの業界は消防設備の専門知識、そして点検知識を持たない顧客を半ば騙してお金を貰っている様なものである。

 

「いや! うちの会社は断じて違う!」と声高らかに宣言して頂くのは誠に結構なことであるが、だが私はこの腐りきった消防設備業界に従事する以上、もはや「自分は詐欺師」くらいの気持ちを持たなければ少しもマシにはならないと考えている。

 

「点検要領」からすればほぼ100%の現場で結構な手抜きをしながら、でも「これで大丈夫です」と客を騙して利益を得ている。

その廉恥心を十分理解した上で「少しでもマシを目指そう」と思えるのか、それとも思えないのか、である。

 

手抜きと顧客騙しが横行するこの業界の中にあって、私は詐欺師なりに少しでもマシでありたいと考えている。

そうした考え方から導き出した私なりの結論が「清掃だけはシッカリやっておこう」なのだ。

我々の仕事は「安心」という目に見えない物の提供である。

 

ではその目には見えない安心をどうすれば少しでも可視化出来るのか?

それは目に見える部分を綺麗にすることでそれを見た関係者に消火器1本、そして誘導灯の1台から「あぁ…ちゃんと見てくれたんだ」と思ってもらうことである。

 

点検の中身は各社の拘りがあっても最終的にはどこの会社も「どんぐりの背比べ」どころか、もはや「ノミの徒競走」みたいなもの。

「完璧な点検が出来る人間」になどもはやなれるはずも無いのだから、ならばせめて「少しでもマシでいよう」と思うだけだ。

 

「良い点検」ではなく「少しでもマシな点検」を目指す。

その為に明日も明後日も私は消火器を拭き、そして誘導灯に絡みついたクモの巣を払うのだろう。