「もはや登降訓練」 | 消防設備士かく語りき

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川崎の消防設備士、平成め組代表のブログ

 

本日私は1人、東京某市にある5階建て集合住宅の点検に。

 

「1人で点検?」と思われてしまいそうだが、そちらの建物、設備としては消火器と避難器具のみなのでここ1~2年は私1人で点検し、終了後はそのまま他の班に合流するのが定番となっている。

そちらの建物、点検云々は別として私としては「半年に1度の恒例行事」と化している。

 

と言うのもそこは避難器具の点検方法が少々特殊で、5階にオーナーさんが住んでいるのだが、先ずはオーナーさんの部屋のベランダにある避難器具(ハッチ)から降下し、そのまま階下のハッチから地上まで降下した上で、再度5階まで戻ってくるという点検内容。

 

恐らく契約時にオーナーさんからそうした希望があったのであろうが、ウチで点検を請け負う物件の中に在って、そうした方法で点検するのは現状そちらの物件のみ。

この避難ハッチ、降りるだけなら割と簡単だが、しかし逆に登って来るのは少々体力を使う上に「技術」も要する。

 

松本機工が販売するオリローブランドの避難梯子「ユレーヌ」などのように、梯子が揺れないタイプのものであれば良いのだが、一般的な構造の物は登降時に梯子本体の下部が自分から見て前方側に撓う(しなう・しなる)。

 

目の前が壁であればまだ良いのだが、しかし梯子の目の前がベランダのガラス戸というケースも多々ある

そうした場合、登降時にあまり梯子を揺らしてしまうと最悪の場合、揺れた本体がぶつかってそのガラス戸を割ってしまう可能性もあり、それゆえ単純に力で登降するだけでは非常に危険。

 

実際そちらの物件、3系統ある中の1つがまさに「梯子を下ろすと目の前にガラス戸」という構造。

なのでそうした場合、私は横桟に足の踵(かかと)部分を乗せ、もしも梯子が揺れても梯子本体ではなくつま先が当たる様にすることで少しでも破損のリスクを抑えるようにしている。

 

こうした「上階から地上まで梯子を降りて行く」という点検方法、私自身の20年に及ぶ消防設備士歴の中でもそちらの建物を含め過去に5~6件あった程度と記憶している。

 

地上まで降下した上で再度登って来るのは確かに体力を消耗する反面、各部屋をいちいち回る必要が無く一気に点検を終わらせられるので点検時間の短縮にもなり私は結構好きである。

「半年に1度の避難梯子の登降訓練」だと思い、それなりに楽しんで点検させて頂いている。

 

 

ところで先日、取引先の代表者の方から聞いたのだが、この避難ハッチ、東京では設置時、基本的に「建物側を向いて降下する形」になる様に指導されるとのこと。

 

恥ずかしながら私も知らなかったのだが、言われてみれば都内のマンションでは建物側に上蓋が開く構造のものが多いと感じる。

その様な形にすることで「降下時に地上が見てしまう恐怖感」を軽減するのが目的であると言う。

 

だが一方、お隣の神奈川県の場合、逆に「外側を向く形で降下」する様に設置時は指導されるのだと言う。

神奈川県の消防行政の見解としては、万が一、降下時に落下してしまってもベランダの柵を越え地上まで落下する危険性を無くす、という考えによるものらしい。

 

ただこれらはあくまでも「地域ごとの指導」であり、法的な決まりは無いので「全てがそうである」ということではないのだろう。

過去、記憶に残る限り2~3件、横向きに設置されていた建物もあったように思うが、それももしかするとその地域限定の指導であったのかも知れない。

 

 

ところで避難器具の中には「緩降機」なるものが存在しているが、しかし実際の火災時に「緩降機で避難しました」という方を私は知らない。

ロープ高所作業を行う中で思ったのだが、緩降機の調速機とロープ降下用の下降機は内部構造的には多分似ているのだと思う。

 

 

 

ロープ用下降機はレバーの操作で降下速度の調節、あるいは完全に降下を停止することが可能だが、私は緩降機の調速機にもそうしたレバーがあればより安全で降下しやすいと考えている。

 

緩降機は一旦機械に身を任すと途中で止まることなく降下し続けるが、しかしもしも降下中に降下経路の途中の窓から炎が噴き出してきた場合、そこを通過することになる。

もしもブレーキ機能があれば一旦降下を停止し、身体を揺らして壁沿いの雨どいなどを掴みながら降下経路をずらして降下することも出来るのでは? などと。

 

もちろん動きとしては少々難しいが、しかしどうせ「誰も使えない避難器具」なのだから「それが使えそうな人限定」の機能を持たせてしまった方がまだマシだ。

 

そんなワケで、無事に半年に1度の避難ハッチ登降訓練を終えたわたし代表村田である。