「理にかなった不条理」 | 消防設備士かく語りき

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川崎の消防設備士、平成め組代表のブログ

 

15歳の頃、地元の塗装会社で「塗装工見習い」として働き出した私。

 

その会社が抱える現場の大半が個人住宅の塗り替えで、もう半分がそれ以外の建物(ビルや倉庫など)であった。

 

また時折、建設中の一軒家の塗装工事等に行くことがあったが、そうした現場には決まって「親方」と言われる人物がいた。

と言っても現場の職人たちがそう呼ぶのではなく、どちらかという顧客側がそう呼ぶ、という感じ。

 

当時はまだそうした新築の工事現場などについての知識など全く無かった私は「親方」という存在が果たしてどういうもので、またそもそも誰が「親方」なのかさえよく理解出来ずにいた。

ただとりあえず「親方が現場で一番偉い人らしい」ということだけは皆の会話の中から何となく理解出来た。

 

まだ見習いであった私はその頃、ほぼ毎日「オガワさん」と呼ばれるベテランの職人に付く形で現場に入っていたのだが、ある時その「オガワさん」に聞いてみた。

「一体親方って誰のことなんですか?」と。

 

すると少々渋い表情を浮かべながらオガワさんは言った。

「親方ってのは大工の棟梁のことだよ…」と。

 

「大工の棟梁が親方?」

当時はまだ15歳ながらいまいち腑に落ちない自分が居た。

 

と言うのも、そもそも大工は大工であって塗装工とは違う。

だがその大工が何故だか新築工事の現場では客から「親方」と呼ばれ、あからさまに別格の権限を持っている様であった。

 

例えば「美味しいケーキを作ってくれ」と言われ、ケーキ職人が5~6人集まり、しかし現場を取り仕切るリーダーが「うどん職人」であったとしたら到底納得など出来るはずもない。

 

オガワさんも内心納得している感じではなかったが、しかしあまり多くを語ろうとしないその表情からは「納得出来ないけどそいうものだ」という、どこか諦めにも似た感情を抱いているらしかった。

 

私もそれ以上は聞かなかったが、しかし一先ず「現場のリーダーは大工の中の一番上の人間」ということだけは理解出来た。

 

だが私自身が今はこうして小さいながらも一つの法人を運営し、様々な現場、様々な人々と仕事をしてゆく中でそうした構図が自身の中で次第に明白なものとなってきた。

 

「よし! 来年土地を買って家を建てよう!」と決意した人がいたとして、では果たしてその人は誰に、そしてどの様にしてそれを注文するのか?

言うまでもなく色々な建設会社を調べ、その中で「良い」と感じた建設会社に「こういう家を建てて下さい」とお願いする。

 

そしてその際、「建物だけ建ててくれたら内部の電気工事や内装工事は自分が業者を別に手配します」などと言う客は普通居ない。

客はあくまでも「家を建てて」と言うだけで、それ以外の細かな要望も一括してその建設会社に依頼する。

 

その後、その依頼を正式に受けた建設会社から「電気工事はキミのとこ」、「内装工事はアンタのとこ」と、各業者に仕事を割り振る。

となれば当然建設会社のリーダー、つまり大工の棟梁が必然的に「偉い人」となる。

 

大規模な工事現場も結局は全く同じ構図で、後は単純にスケールの違いでしかない。

今から建てようとしているその建物が木造の一軒家なのか、あるいは大きな構造ビルなのかの違いである。

 

二次請け、三次請け、あるいは四次請け…

そうした「上から下、下から更にその下」という日本の建設業界の構図には何かと批判も多いが、しかし注文する側の客の立場になって考えると結局は「あるべき形に落ち着いた結果」であることも容易に理解出来る。

 

もしも客が建設、電気、内装など、個々の作業ごとに業者を選ぶシステムを構築しようとしたら、もはや国から特別な権限を与えらえた「現場管理官」みたいな存在がいなければ全体を取りまとめることなど不可能であろう。

 

15歳の頃、どこか不条理に感じられた建築工事現場のそうした現実。

でも今はそれが「理にかなった不条理」であることを受け止めている… と言うより受け止めざるを得ない自分が確かにいる。

 

当時「オガワさん」は確か45歳、そして今の私が47歳。

納得はしきれないけど、でもそれを認めるしかなく、やはり私もあの日のオガワさんと同様、それを語るなら渋い表情を浮かべるしかなさそうである。

 

「建設会社の責任者がこの現場のリーダーなんだよ…」と。

 

 

未経験者大歓迎!!