「結びの芸術」 | 消防設備士かく語りき

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川崎の消防設備士、平成め組代表のブログ

 

ロープ高所外壁打診業務で使用するロープとは別に、10mの短いロープを常時自宅に置いてある。

 

通常ロープ作業に使用するのはどれほど短くてもやはり30m以上

しかし30mなどという長さではそもそも販売すらされておらず、基本は50mから。

私も作業用に現場に持ち歩くのは60m程あり、一応10mの物も常時2本、現場に持ち歩くがその使用方法は限定的である。

 

ただ冒頭で触れた自宅に置いてある10mのロープは基本的に「ロープワークの練習用」、早い話が現場で必要なロープの結び方を忘れないよう時折自宅で練習する為だけに用意している。

正直なところ一旦覚えてしまえばそうそう「結び方を忘れる」ということはない。

 

しかし同じ結び方でも左右それぞれの向きから素早く結べるようになるには相応に練習も必要。

まして私の場合、メインの業務はあくまでも消防設備士であり、高所ロープ作業をメインに行うのは精々月に数回程度。

 

なのでいつでも練習出来るよう普段から手元に10mのロープを置いてある。

因みにこの高所ロープ作業に用いるロープ、太さは11㎜であるがこの1本で凡そ2トンの荷重にまで耐えられる。

 

1本で2トンまで耐えられると聞くと「どれほど丈夫なのか?」と思われるだろうが、しかしカッターで切ればいとも簡単に切断出来る。

「引張り荷重」に強いだけで鋭利な物には非常に弱いと言える。

 

買おうと思えば500mの長さのものも購入可能だが、ガラス清掃を専門に行う人々でもやはり普段持ち歩くのは100m前後の長さの物が中心だと思われる。

 

ところでその現場で使うロープの結び方。

決してそれほど多いわけではなく概ね3~4種類の結び方をマスターしておけば十分間に合う。

 

実際、「ロープ高所作業特別教育」の際も、講習時に教わるのは精々2~3種類で、結び方のごく基本の部分を教わるのみ。

中でもメインの結び方となるのが「エイトノット」と呼ばれるもの。

 

ロープワークの基本である「エイトノット」。非常に堅固な結び目が出来る。

 

これは恐らく高所作業を行う人々には必須の結び方で、もはやこれが出来なければ始まらない。

吊元(屋上でのロープの固定先)との接続には基本的にこのエイトノットを使う。

 

一先ずこの結び方を完璧にマスターしておけば「降りるだけなら何とかなる」というくらいに重要な結び方である。

過去この結び方で「ロープが緩んだ」などは一度も無い。

 

次に「インクノット」と呼ばれる結び方がある。

 

一見して簡単にほどけてしまいそうに見えるがこちらも意外に堅固。但しメインの結びには使えない。

 

これは基本的に吊元への接続だけでは安全面が少々不安なので吊元付近で再度カラビナなどで吊元とは別の固定物にロープを接続するために使用する。

 

万が一にも吊元のロープが何らかの理由で外れた場合の落下事故を防ぐためのものである。

「結び付ける」というより、どちらかと言うと「カラビナに上手い具合にロープを絡み付けている」という感じ。

 

次が「ラビットノット」と呼ばれるもの。

 

あまり使う場面は少ないが吊元を2箇所から取れるという意味では安全性は高い。前述したエイトノットの変形型とも言える。

 

ロープに輪っかを2つ作る結び方で、形が「ウサギ」に似ていることからこう呼ばれる。

こうして作った2つの輪っかをそれぞれ別の固定物と接続することで荷重を分散させることが出来る。

 

正直今までこの結び方を現場で用いたことはないが、しかし屋上の状況次第では吊元への接続にも十分使える。

 

最後に「バタフライノット」と呼ばれる結び方である。

 

長いロープの合間合間に「輪」を作ることで何かをぶら下げたりするのにも使える。結び方をマスターすると非常に便利な一方、手順は少々複雑。

 

実は本日のブログ、このバタフライノットがメインである。

ロープの途中に輪っかを1つ作るという一見シンプルとも思えるこのバタフライノット。

だがこの結び方、知れば知る程「何と素晴らしいのか!」と感心させられる。

 

と言うのもこのバタフライノット、その輪っかの部分にはほぼ荷重がかからない。

どれほどロープの両端を引っ張っても結び目がより強固になるだけで「輪」の部分には全くと言っていいほど荷重が伝わらない。

だが時に現場ではそれが極めて重要となる。

 

例えばメインで使用するロープのどこかに「ほつれ」、あるいは「既に切れかかった箇所」があったとする。

だがその箇所をこのバタフライノットで「輪」の部分に上手く持ってくればその部分にかかる荷重を無くすことが出来る。

 

そうすることで一先ず、そのロープで降下することも可能となる…

というのがこの「バタフライノット」の凄いところである。

 

しかし一方で私はこうも思った。

「仮にロープの切れかかった箇所などを「輪」の部分に持ってきたとして、もしも万が一その箇所が切れた場合」である。

切れたと同時にそのロープは「バタフライノットで2本のロープをつないであるだけ」の状態になる。

 

では果たしてそれでも尚、荷重に耐え切れるのだろうか?

理論上、このバタフライノットを用いれば「2本のロープを1本として使うことも可能」ということになる。

 

なので試しに2本のロープの端と端を仮固定し、その仮固定した箇所を「輪」の部分に来るよう先ずはバタフライノットで結び、その後その仮固定を外して両側から体重をかけて思い切り引っ張ってみることにした。

 

先ず2本のロープの端と端をビニールテープで巻いて仮固定する。因みに何故だか画像がぼけているが私に一切責任は無い。

 

一先ず仮固定した箇所が「輪」にくるようバタフライノットで2本を結ぶ。

 

その上で仮固定用のビニールテープを外しロープを左右から思い切り引っ張ってみた。

 

だが何と、やはり「輪」の部分はビクともしない。

もはや「結び方の傑作」、「結びの芸術」と評しても良いほどこのバタフライノットは素晴らしい結び方である。

 

去年のロープ高所作業特別教育の際にもこの結び方は学んだが、ある女性受講生は「この結び方考えた人天才です!」と興奮気味に話していたのが未だ強く印象に残っている。

確かに、知れば知るほどこのバタフライノットは「天才的」としか言いようがない。

 

他にも2本のロープを繋ぐ結び方はあるが、しかし「信頼性」という意味では私はバタフライノットこそが一番であると確信している。

 

もしも私がどっかのビルで強盗を働き、逃亡の際にたまたまビル内にあったロープで屋上から降下して逃亡を図ったとする。

しかしそのロープの中間にほつれ目を見つけてしまい、急遽その箇所をバタフライノットで結び、その後見事に(?)逃亡に成功したとしよう。

 

そして翌日、現場検証に訪れた刑事たちが逃亡に使用されたロープを発見、同時にロープのほつれ目部分をこのバタフライノットで結んであることを確認する。

すると彼らはきっとこう思うに違いない。

「これは普段からロープの扱いに慣れた者による犯行に違いない」と…。

 

カッコイイ… そう思われちゃうことが何だか妙にカッコイイ。

それにこの「バタフライノット」、数ある結び方の中でも恐らく一番難しく、適当に結んでも絶対に作れない。

正に「プロ仕様」の結び方である。

 

一方で先ず最初に疑われるのはやはり窓ガラス清掃の方々であることは間違いない。

試しに近所のビルの屋上の出入り口のところで警察沙汰になるくらいの途方もない量のルン子(うんちのネイティブな言い方)でもかまし、その後ほつれ目をバタフライノットで結んだロープで逃亡してみようかと密かに考えている。

 

果たして現場検証に訪れた刑事たちは私まで辿り着けるのかどうか…。

もはや1本のロープさえあればどこからでも逃亡出来る気がする。

今後、外出時は常に下降機だけ持ち歩いたりしちゃったりして。

 

さあ諸君、今日から私のことを「ロープマスターの村さん」と呼んでくれたまえ。

 

 

 

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