「最も体力を使わなかった仕事」 | 消防設備士かく語りき

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川崎の消防設備士、平成め組代表のブログ

 

 

 

今日、不思議な仕事をしてきた。

 

現場は関東某所にある戦没者の為の「慰霊堂」。

一応建築関係の検査業務ではあるのだが、一方でその物件、先んじて頂いていた図面を見る限り、割と広い敷地の中にポツンと、極小規模な慰霊堂が建っているだけ。

 

果たして何を点検すれば良いのか疑問ではあるが、対象設備は敷地内にある「給排水設備」とのこと。

 

慰霊堂なので誰かしら管理されている方はいると思われるが、とにもかくにも現場へと向かった私。

しかしいざ現場周辺まで行くと、そこは丘陵地にひしめき合うように民家が建ち並ぶような場所。

 

殆ど「山道」という感じで、軽バンで何とか進める程度の細い道が続く。

だがナビの指示に合わせて散々走り回ってみたものの現場には着けず、やむを得ず一旦車を「山のふもと」のコインパーキングに入れ、そこから徒歩で現場を目指す。

 

もはや人一人が辛うじて通れるような狭く、そして傾斜のきつい石畳の道を登って行くとどうやらそれらしい建物が。

図面で見た通り、やはり敷地内にはポツンと慰霊堂があるだけで、その他に建築物と言えば公衆便所がある程度。

 

非常に静かで慰霊堂を含め辺りに人が常駐している気配も無い。

普通、誰かしらに挨拶をしてから作業開始となるが、しかし人が見当たらず、また点検対象が水道くらいしかないのでとりあえず便所や手洗い場の水をしばらく流し、流れ具合や排水に詰まり等が無いことを確認。

 

その後、どこからともなく慰霊堂の管理者の方が現れたので自己紹介をし、そして作業が既に完了した旨を報告。

「作業」とは言ってもやったことと言えばただ水道の蛇口を数ヵ所回しただけ。

 

業界入りして19年目にして「史上最も体力を使わなかった仕事」が今日である。

もっともそちらの慰霊堂、単体での受注ではなく、その地域の公共施設一式で受注された中にそこも含まれている、ということらしい。

 

わたし的にはほぼ「見知らぬ土地を散歩しただけ」であるが、最近は少々ハードな日程が続いている中、たまにはこうして「一呼吸出来る現場」の存在は有り難い。

 

内心、立入禁止の慰霊堂の内部にも足を踏み入れてみたかった私だが、管理者の方から「この中は何もない」と先手の言葉を受け、口から出かかっていた「念のため内部も確認させて下さい」の言葉を思わず飲み込んだ。

 

管理者の方と別れた後、車に戻ろうと歩き出すも何故だかさっき来たはずの道に迷い、5分程敷地内で迷子になった私。

不思議な仕事であると同時にそこは不思議な空間。

 

その後、無事に車に戻れた私は次の現場へ向かうべく車を走らせたのであった。