第24話
いままでも多くの出会いがあった。これからも多くの出会いがあるだろう。
会うだけですぐに忘れてしまう出会いもあるかもしれない。でも、その一瞬に何らかの必要性が存在している。その現実を見ることを忘れてはいけないのかもしれない。もっとも忘れがちなその事を、何処か気持ちの上で、留めておく事の大切さを一真は栞に漏らすように伝えた。
「不思議な日ね」
「ん?」
「一真の色んな一面が見える日…」
「そう…」
「手は合わせないの?」
「ん?俺は…」
「そうなんだ…」
「ああ…」
「でも、意外ね…一真はお墓に話しかける人なんだ…」
「変か?」
「一真だからね…」
「?」
「似合っているし…似合っていない…」
「なんだ…」
「だから…変」
「別に霊的な事を求めているわけではない…魂とか解らないし…でも、ここに来れば、みなぎくんは、話を聞いてくれるような気がする…そこには存在していないけど…返事も帰ってこないけれど…よくさ、それは自分自身の言葉なんだって言われるんだけど…それもわかんない」
「そうなんだ…」
「と…陽が傾いたな」
一真は、西に沈み始めた太陽を眺めながら言った。
「そうね…日が短いよね…でも、綺麗よ」
「お前には負けるけどね…」
「えっ?」
「いや…何も」
「?」
一真は、フッと笑みをこぼすと溜息をついて立ち上がり、栞に手をさし伸ばしながら「もう少したつと…もっと綺麗になる…でも、その前に」と声をかけた。眺めていれば、沈むまで見ているだろう。少なからず一真はそれができる。いや、してしまう。変わり行く景色を眺めて、時の移り様を見詰めていられる。
変わらないものは何も無い。全てが一瞬一瞬に変化をしていく。それで当り前だった。だから、いまを必死に生きていかなければいけない。取り戻す事のできない時間だからこそ、悔いなく行動していかなければいけない。と、思いながらも、「明日でもいいか」と先延ばしする事も少ないのが現実なのだが…。
いま、この瞬間の行動こそが未来を創っていく。
考える間があるか無いかは別問題だが、その行動に自分が責任を持たなければいけない。少なくとも、責任を持つ事でしか、過去を見詰める事はできないだろう。
明日の為に…未来の為に、それを行っていきたい。と、一真は、今朝思いついた。
何の気なしにつけていたテレビで『いますぐに死ぬ事ができるか?』との答えに即答で『死ねる』と答えるシーンが映っていた。その答えに問いかけた人は『遣り残した事があっても悔いなく、か?』と尋ねかえした。返答する方は、答えが見付からないままに押し黙ったのだが、実際、自分でも黙る気がした。
本当に遣り残し無く生きていられるのだろうか。きっと多くの遣り残しがあるだろう。それでも満足で逝けるのだろうか。
なんとなく、夕陽にそう思ってしまった。
その夕陽の光に引き込まれそうな自分を立たせ、一真は、栞を立たせた。
「日が暮れるな…」
「?」
「もう一箇所…付き合ってくれ…」
「いいよ…何処にでも」
「そんな事を言っていたら、ホテルに連れ込まれるんだぞ…」
「あはは…それもいいけど…他の方たちは?」
「まいちまうか…」
「………本気?」
「だったら…」
「撒かれないようについていく」
「そうだな…次の機会に…」
「そうなの?残念」
「………したいの?」
「莫迦ァ」
「まぁ、残念だけど…時間がね」
一真は、腕時計のガラス面をトントンとノックしながら栞に笑いかけた。
「予定ね…」
「ああ…今日は、予定だから…」
陽が沈み始め、空を茜色に染めていくのを眺めながら、一真は、栞の手を握った。
(えっ?)
「行こうぜ…このタイミングを逃すのは…よくないからさ」
「?」
「早く」
一真は、墓地の隣にある教会に飛び込みように駆け込んだ。