これも恋物語… 第3幕 64 | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

第23話

由美は、すれ違い様に一真の肩をポンとたたき、「初めてじゃないの?あたしに恋人見せてくれるのは」と言い残して、みなぎの墓石の前を空けた。少し照れくさい気もするが、由美にとっても栞の存在は、何故か嬉しいものだった。一真の最初の結婚を知っている。もちろん離婚も。そのどちらもこの場所で聞いた。偶然だったのかもしれないが、この場所だった。

一真は、何かの節目毎にここに来ている。ここで由美と会う事は少ないが、いつも一人だった。

以前は、連れてくる事に抵抗があったのだろう。気恥ずかしいというか、自分の全てを見せる事に何処か抵抗があった。尤もいまでも何かしらの抵抗はある。だけど、それなりに、自分を曝け出せていた。

自分という存在はここにある。それを創りだしているのは、過去の出来事なのだろう。何を考え、何を思い、どう行動してきたのか、までは記憶に留めておけていないが、それなりに生きてきた。その日々を否定するかのように隠す必要は無い。善いも悪いも全て自分の通ってきた道なのだから。

「どうしたの?一真」

「いや…会ってもいいかなって思っていたけど…実際に会うと照れくさいな…」

「あの人?…えっと安藤由美さん…」

「ああ…随分とみっともないところも見られてきたからな…」

「…じゃあ、仲良くなって置いて損はないわね」

「?」

「一真の色々が知れるじゃん」

「それはそうだけど…」

「ん?」

栞は、一真の顔を覗きこみながら聞いた。悪戯気に笑うその笑顔は何処となしか小悪魔に感じられた。

「お手柔らかに…」

「どうしようかな…あっ、そんなことより…」

「ん?」

「誰なの?」

「?」

「この人」

栞は、墓石の前に花を置き、一真を見上げた。

「安藤みなぎ……俺の………目標かな?」

一真は、はにかみながら答えると栞の横にかがみ込んだ。

「みなぎくん…上条栞さん…彼女も恋人と俺のこと言ってくれる関係だ…」

「…一真」

「彼はね………

一真は、みなぎとの事を話しはじめた。適度に割愛しながら。時々言葉を詰まらせ、時々苦笑を漏らし、時々微笑みながら、自分の思いを告白するかのように話した。

栞は、黙ってそれを聞き、時折、優しい柔らかな微笑みをこぼした。

出会った事には、必ず意味がある。そう思えたのは、社会人になってからだった。幾つもの成長を、幾人もの人が与えてくれている。男でも女でも。無駄にすれ違う人の存在など、本当はないのだろう。ただ、それに気付かずにいるだけで。

出会った意味は、すぐにはわからないだろう。必要だから、何かに働きかけるものがあるから、その出会いはおきる。

偶然と呼ぶのも、必然と呼ぶのも、それは、人それぞれの判断基準でしかない。

ただ、すれ違うほどの偶然の出会いであっても、そこには紛れもない必然が存在している。それは、きっと変える事のできない事実なのだろう。