これも恋物語… 第3章 3 | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

第0章 第3話


上山綾乃は、五井物産第一会議室に来ていた。別名、役員会議室に。この会議室では、五井物産の事業戦略がよく話しあわれている。その為、携帯電話などの電波は一切遮断されている。たぶん、密室というのは、こういう部屋の事を言うのだろう。羽目殺しの窓にしても、他の部屋に行けば聞こえる微かな騒音すら、ここでは存在しない。

(凄い…)

考えてみれば、役員会議室に入った事など無い。アメリカにいる時には、いつの間にか会議が終わっていた。と、いうのも少なくは無かった。それほど当たり前のように行われるトップ会議が、日本では、会社の中で行われる。どんなにハイテクを駆使したところで情報は漏れるだろうに、決まった場所で会議をする。無防備というか、なんと言うか…。

「座れよ…」

「えっ、あっ、うん…」

綾乃は、手近にあった椅子に座ろうと手をかけた。

「ん。上山…お前の席はもっと奥、奥から2つ目だ」

「えっ?」

「常務取締役福社長…それが役職らしいぜ」

「……何の冗談で?」

「大真面目に…」

「……そうなんだ」

「よろしくな…」

「一真は?」

「ン…」

一真は、答えるのを戸惑った。実際には、もう決定されている内容だった。もう直ぐ開かれる会議で明らかになるのだから。

「っと、時間だな…」

一真は、ドアを開くと間も無く来るだろう新会社の役員達を迎え入れる為に廊下に出た。

(スマートな事…)

程なく、五井物産巣鴨大樹取締役を先頭に、如月元太、五菱商事大伴厳輔取締役、立川健介、五洋グループ柏木士十郎役員、浅生千尋、梅崎武、重友産業桜井隆取締役、菅沼保、新山啓介が到着した。事前に、各役員から、席は伝えられているらしく、誰もが予定されている席に座っていく。

「遅くなりました」

ドアを閉めようとする一真にこのはが声をかけた。

「頑張れよ…」

一真は、このはの頭をクシャクシャと撫でながらそう呟いた。

「また、子供扱いして…」

「…すまん…どうぞ…」

このはを部屋に通し、一真は、ドアを閉めた。鍵を完全にロックする。これで基本的に会議室内の音は外に漏れなくなる。

新会社ネクストの筆頭株主になる五井物産巣鴨取締役は、これまでの経過を話し、順を追って、目的を話しはじめた。会社の登記が完了する前に、4社の福利厚生部門の大半がネクストに移行される。それを中心としたサービス部門の統合が先に求められる終着点である事を語った。

その間、一真は、出席者の前に置かれている全てのPCの電源を入れて回り、このはが用意したコーヒーを出席者に配った。

「では…管理役の紹介をいたします…」

如月は、巣鴨が座るのを確認した上で静かに話しはじめた。このプロジェクトは、如月が思考したものであり、如月の呼びかけに応じた社によって実現したものだった。だが、その実現に至るまでの経過の中で、五井物産以外の会社役員が心底これに賛同しているとはいえない状況を作ったのも事実だった。実際、その事が原因で抜けていっている会社もあった。

如月は、計画を、できうる限り上役に持ちかけてきた。その結果、最終的に引っ張り出された役員にとっては面白くも無い部分も少なからず存在していた。


第1話へ

http://ameblo.jp/hikarinoguchi/entry-10006105694.html