これも…恋物語(42) <了> | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

絵里は、鞄から携帯電話を取り出して、溜息をついた。もう少し勇気が欲しい。後一つ何かが足りなかった。その何かを探しているゆとりはたぶん無いのだろう。何故かそんな予感がする。
「おっ、頑張ってみるか?」
高須は、手を休めて微笑みかけた。結局、最後にどうするのかを決めるのはその人自信に過ぎない。周りが何を言っても、それは変わりはしない。代わりに告白が出来るならしてやりたいような気もする。
答えがわかっている恋なんて存在していない。
「ん……度胸ですよね…」
「えっ?」
「女は…」
「ああ…女は度胸…男は、愛嬌で…てな…」
「高須さんの奥様はきっと幸せですよ…」
「ん?何故?」
「気付いてもらえたのなら…過ぎた時間は戻せなくても、新しい時間は、別の……きっと別の幸せな時間になったはずだから…」
「?」
「高須さんが気付かないまま進む時間よりも、もっともっと充実した幸せな時間がありますよ…」
「だと、いいな…」
(寂しそうな笑い方……)
絵里は、高須から視線を外し、哲也の番号を呼び出した。

哲也は、携帯電話をとりだして事故の連絡をしていた。警察に。
つまらない話だが、完全に囲まれた状態で事故は起きていた。
8台の車による玉突き事故。右回りのカーブに対して、左回りに弧を描きながら追突し、側壁にぶつかっている。事故車に囲まれているのは、哲也の他に車が一台。事故から免れたものの囲まれて動く事もできない。
一応、事故車の状況を確認しながら脱出経路を探してみたが見付からない。もちろん、バイクと共に逃げ出す事が前提である。バイクを置いて、逃げるのなら、車のボンネットの上を渡っていけば良いのだが……。
(それにしても……見事なくらい、立ち往生だな…俺の人生のようだ…)
車内に閉じ込められている人を助けるにしても、閉鎖されている方にしか引けなければ意味が無い。
(さて、どうするべきか)と考えていると、追突車両の最後部に飛び込んだ車のガソリンに引火したらしく爆発が起きた。ついでに事故が起きている事を気付かずにレースをしている奴がカーブでの進路封鎖に気付くのが遅れ追突をする。中にいる方は気が気でない。
(いよいよ持って……か)
哲也は、苦笑しながら側壁にもたれかかるようにして座った。じたばたしても何も変わらない。ジタバタするだけむなしく思えた。
なるようにしかならないのなら、事の成り行きを見守るのもひとつの方法だ。ほどなくサイレンが響き、緊急車両が到着をする。
(結局……このままなのか…俺って)
哲也は、近付く赤いライトを見詰めながら、少しの自己嫌悪に陥っていた。

麻奈は、大将に出された料理を食べながら、何度も溜息をつきながら酒を飲んでいた。いくらでも食べられる。いくらでも呑める。そんな感じの食事だった。
「カマの煮物もいけるっしょ?」
「ん…」
「塩焼きも良いけど…炊き込みもね…」
「?」
「同じものでも人の感じ方はそれぞれ…見方も、好みもね…」
「ん…」
「あとは、手を伸ばす勇気だけっしょ?」
「……それって背を押してくれています?」
「あっ、ストレートに確認されると返事しにくいね…」
「ありがとう…」
麻奈は、一息つくようにお箸をテーブルに置き、天井を仰ぎ見た。
「勇気か…」
「食べてみないと口に合うか会わないかは解りませんよ…」
「……そうだけど…」
麻奈は、苦笑しながら携帯電話を取り出した。

「手を伸ばせば変わるもの…それを得るために努力してこそ…」
携帯電話を見詰めたままの絵里に高須は優しく言った。
「……でも、どうして…」
「ん?…未来の部下のために…」
「えっ?」
「来月の異動で、営業に配属の予定だろ?」
「……なんで知っているんですか?」
「まぁ、順当にいけば……」
「そうなんだ…」
「まぁね……」
絵里は、微笑みかけてくれる高須を見詰めたままダイヤルをしてみる。
「さてさて、どんな男なのかな…絵里ちゃんの恋する男は…」
「…内緒……」
「だよな…」

3月14日。社内に人事異動が掲示された。大方の予測を裏切っての人事発表だった。
麻奈は、予定通りチーフに昇格し、絵里は、麻奈のチームに配属された。他に動きは無い。会社全体では、もっとバタバタ動いているが…。
そして、俺、結城哲也は、当初予定とは随分と違い、本来、大阪支社の管轄だった名古屋に新たに支社が作られる事になったために、単身、名古屋へと着ている。新居が決まるまでは、名古屋駅の上にある名古屋在住の人からすれば随分と高級なホテルでのホテル住まいが始まっていた。
とりあえず左手の薬指に指輪をはめ、買ったばかりのマンションの鍵を妻に預けて…。
とはいっても、プロポーズだけで、式も入籍もまだしていないのだが…。
                             了

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