これも…恋物語(41) | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

これを走馬灯というのだろうか。思い出が一気に駆け抜けていく。普段は、思い出しもしない色々な事までも思い出せる。
フラッシュバックとでも言うべきこの現象に気分が悪くなった。
(何をしているんだろう……俺)
哲也は、頭を振り、周囲の状況に目を向けた。
まるで、死が目前に迫っているような嫌な感覚がそこにはあった。

麻奈は、何度も深い溜息をつきながら電車から降りた。正直に言ってまだ迷っている。一言で関係が変わる。良い方にも悪い方にも。それよりは、今のままの方が気が楽だった。でも、本当にそれでいいのだろうか。
昼間、会社の前にある喫茶店で高須と話した。他愛もない世間話から仕事の話までも。何よりも、一月後の人事で、本当に自分が上司になっても大丈夫なのか、知りたくて話をした。
すると高須は、「別に何が変わるわけでもない」と微笑んでくれた。それは、きっと本音なのだろう。たぶん、哲也が作ってきたチームの色がそうさせたのだろう。その色を継承するだけ…本当にそれでいいのだろうか、と疑問はあるが、この際なのであまり気にしない事にした。
メンバーが変わるのは一人だけ…。もっともその一人が、問題といえば問題なのだが…。同じ社内にいるとはいえ、部署や責任が変われば話す機会は減るだろう。そうなれば、きっと、今の関係は保てないだろう。
幾つかのたわいもない会話。いつの間にか話題に上がった恋の話。
気を抜けば涙がこぼれそうなほどに不安定な自分がいた。もしかしたら泣いていたのかもしれない。
「女は、度胸……だろ?」と高須は、何の心配もないと微笑んでくれた。
その度胸が足りない。少しの勇気が足りなく思えた。だからといって、この行動とは、我ながら安直なような気もする。でも、最初の、最後の一歩が踏み出せないでいる。ここまできて。
(お酒に…勇気でも……)
麻奈は、溜息をつき、深く肩を落として、社員名簿で確認した哲也のマンションに背を向けて、哲也につれてきてもらった『へんくつ』に入った。
「らっしゃい…」
「あっ、どうも…一人なんですが…」
「あいよ…お一人様、御案内…」
大将は、景気の良い笑顔で迎えてくれた。不思議と心の和む笑顔だった。
手で示されたカウンターの席、そこは、店の一番奥の席だった。
「飲み物は?」
「ん~喉越しが良くて、スーッと溶け込むような感じで……それでいて、ちょっと酔える感じの物…」
「ほう……そんな気の利いたものは…ないな…」
大将はそう言うと淡いピンク色のボトルを一本カウンターに置いた。『柚子小町』という銘柄のお酒だった。たぶん。それをグラスに乱暴に入れられた氷の上に乱暴に注いでいく。ソーダを注ぎ、菜箸で掻き混ぜた。
なんとも無骨な作り方だ。
普通なら気分を害するだろうパフォーマンス。だが、時折、見せる悪戯小僧のような笑みが悪ぶれた様子も包み隠し、味に興味を持たせてくれた。
「どうした?」
「えっ?」
「送り狼にでも襲われたか?」
「……襲ってくれなかったから、こうして…」
「ストーカー?」
「……そののりって関西方面?」
「多分に」
「東では受けないかも…」
「大丈夫…俺がいけてるつもりだからね…」
「自己中?」
「人は誰でも、ね」
「えっ…?」
「誰かのためにでも生きてるの?あっ呑んで」
「えっ…」
麻奈は、渡されたグラスを口に運びながら考えた。何かのために生きているのだろうか?誰かのため?自分のため?言葉だけが頭の中を駆け巡っていく。見付かる事のない出口を探して駆け回っていた。
「だったら自己中でしょ…」
「なんか強引…」
「かもね……今日のお勧めは、全然注文の入らないカマの粗煮…」
「それって…注文しにくい紹介よね…」
「あいよ~!」
「おい、注文してないよ~」
「でも、食べるでしょ?」
「それは…」

絵里は、チュウハイを一気に飲み干すとカウンターにドン!と戻した。本当に男の身勝手さに呆れる気がする。勝手な事ばっかり言って、勝手な行動をして、心配ばかりかけて…なんで、そんな男を好きになって、いつまでも思い続けているのだろう。
高須は、少し呆れたように絵里を見詰めながら冷酒をグラスで受け取った。
「ねぇ、高須さん……高須さんは、奥様を泣かしていない?」
「……どうかな」
「嘘でもいいから、即答してほしいよね…」
「それは無理だよ…」
「どうして?」
「俺は自分勝手に生きてきた…そのケツ拭きをしてくれるのはいつも女房で
…その事に気づかないまま、甘え続けてきた…きっと、女の多くは、結婚すると男を支え、立ててくれるんだろうね…男は馬鹿だからさ…それに気付かないままに、自分勝手に生きて、愛想を付かされる前に気付けばいいけど…取り返しの付かない時を亡くして、ふと気付いた孤独感の中で大切さを知るんだ…」
「…高須さん」
きっと、この話題は触れてはいけなかったんだろう。話をする間、高須は絵里の方を全く見なかった。真神の動きを目でおうように視線を漂わせていた。
「我慢も限界があるよね…我慢の限界に辿り着く前に、一言言ってくれればやり直せることは少なくないのにね」
「勝手な言い分だと思いますけど…」
「ん……言い訳だから…」
「……でも、高須さんは、奥様を愛してるんですよね」
「もちろん…」
「かっこいいですよ…」
「ありがとう…それよりさ」
「はい?」
「女は度胸…男は愛嬌…っていうだろう…物思いにふける前に電話したらどうだい?」
高須は、少し照れたように、躊躇してから、出された料理をがっつきながら絵里を見ることもなくいった。