めぐり・・・あい(1) | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

「だからなんだって言うのよ!!」
女は、繁華街の通りから外れた路地に入ると突然叫んだ。夜の静寂を突き破るように。でも、周りの人はそれをなんとも思わない。この街は、都会と呼ばれ、日本全国から、いや世界中から人が集まる街の一つ、日常の鬱憤を酒で晴らし、騒ぐ事など普通のことに過ぎない。ましてや、通りから外れれば、誰も関わろうとはしない。そういう街だ。
隣の人は、何する人ぞ。それを地でする街、東京。賑わいと静寂が通り一つ隔てた場所で共存する街は、別にここだけではない。
そういえば誰かが言っていた。東京は、銀の街。大阪は金の街と。それを確かめたくてこの街に訪れる者も少なくないのかもしれない。
女は、肩で息をしながら、停めてある自転車の荷台に腰をかけた。誰も通りかからない都会の片隅、そんな場所で、独り涙をこぼして。
(帰ろう…)
方言を使わなくなって久しい気がする。と、いっても高校卒業するまでは使っていたのだから、それほど使っていないわけではない。東京都圏内に部屋を借りて、仕事を始めた。何の気なしに応募した映画のキャストに抜擢され、芸能界と言われるところで活動を開始した。特別な思い入れがあるわけではなかった。ただ、なんとなく。流されたのかもしれない。でも、それは、きっと辿るべき道だったのだろうと思う。
仕事を選ぶ、とよく耳にするけれど、本当に仕事を選んでいるのだろうか。仕事に選ばれていないだろうか。それは、色々な柵が成す事なのかもしれないけれど、本当に自身の目的で、自身の望みでそれを手に入れたのだろうか。
この会社に行きたい。そう思っても、他の会社しか採用しない。気がつけば、重役になっていたりして、この会社に入ってよかったというようになっている。それは、きっと、仕事に選ばれていたのだろう。何かをするとき、確かにそれを選択したのかもしれない。でも、その選択が予め決まっていたのならば…そう考えれば、全てがつまらない物になっていくのかも知れない。今は、今を精一杯考えて悩んで過ごす事しかできないのだから…。
「あれ…」
女は、立てなくなっている自分にようやく気がついた。飲みすぎたわけではない。ただ、呑み屋で口論になって、悪酔いしただけだ。
独りでフラリと入った店、そこで声をかけてきた男達、その会話が何故か気に入らなかった。文句を言っても何も変わらない。それでも、文句を言いたくて仕方が無かった。一つ文句を言うと気兼ねしていた気持ちは何処かに旅立ち、次の文句が出た。二つ三つと文句を重ねると、相手からも文句が返ってくる。気がつけば喧嘩、さすがに男と女、殴り合いにはならなかったけれど店主に「早く帰りなさい」と窘められた。男を振り切るようにして走ったのが失敗だったのだろうか。酷く気分の悪い状態だった。
それでも、女は、立ち上がった。つもりだった。ガシャッ、と、言う音を皮切りにガシャガシャガシャとけたたましい音が上がった。
身体の下敷きになった左腕が痛い。ついでに腰も、胸も痛い。顔を打たなかったのだけが幸いなのかもしれない。でも、誰が直すんだろう。この倒れた自転車を。長さにして30mほど、綺麗なまでのドミノ倒しになってしまった。
「大丈夫ですか?」
「………(誰だ?また、ナンパ?)」
女は、男の声を無視して立ち上がろうと努力をした。が、腕にも足にも力が入らない。
はーっ。明らかに面倒臭そうな溜息が聞こえた。文句が言いたいが、何かを言えばまた気分が悪くなる気がして言えなかった。
不意に右脇に腕が差し込まれ、左の腰に手が添えられた。
(きゃあああああああああああああ、と叫んでも…誰も…)
ほぼ自暴自棄。女は、悪い酒を飲んだ事を後悔して、莫迦な自分を呪う事にした。
「飲みすぎだぜ……たぶん」
男は、女を抱き上げると、女の鞄を拾い上げ、歩き始めた。
「喋れる?」
「………(フン!誰が)」
「(このまま捨てようか…)……手が動くなら、俺のジャケットの内ポケットに名刺入れが入っているから、名刺を一枚どうぞ……入らなかったから、確認したら返してくれ…駅前まで行けばいいんだろう?」
「えっ…」
確かに向かう方向は駅だが、男が望む場所は、駅とはちょうど反対側にある。賑わう繁華街側、その周辺に幾つも聳え立つホテル郡。そこにあるはずだが…もっとも、酒臭くていつ吐くかもしれない様な女を抱く男は少ないのかもしれない。たぶん、今の顔色は蒼白なはずだ。
そんな邪推よりもいまは眠たくて仕方が無い。ゆっくりと暖かいお布団にもぐって眠りたい。そんな気分だった。


気が付いた人は読んで見る?
『これも…恋物語(22)~BarD』
http://hikarinoguchi.ameblo.jp/day-20050306.html
実は、こっちの方が先に出来ていました^^