これも…恋物語(6) | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

「本当はね…哲也の事を好きだったんだよ…」
(明日まで覚えてンのかな……)
1時少し過ぎ。店内は、既に他の客もいなくなり、片付けがコソコソと始まっている。
「ありがとう…さて、そろそろ行かないと…タクシーがいなくなるよ…」
「うん…」
「チェックして…」
「あいよ…お愛想~~」
「へい!」と、店員達は、片付けをする手を止めて笑顔でぺこりと頭を下げた。まさにお愛想をしてくれた。
「じゃあ…これで…」
哲也は、シャツのポケットから二つ折りにした一万円札を取り出し大将に渡した。
「毎度、どうも」
「ご馳走様…ほら、いくぞ…」
「うん…っと」
麻奈は、フラッと体勢を崩し、哲也の胸元に倒れ込んだ。トスッという感じだろう、が、みぞおちに真っ直ぐに肩が突き刺さった。
「……い、行こうか、ほら、手を貸してやるから…」
「うん…」
「送り狼は、いけないぞ…哲也君…」と、大将の一言。
「はいはい…」
哲也は、苦笑を残して店を後にした。本当は、男らしくお姫様抱っこの一つもしたいのだが、そんな腕力は持ち合わせていない。推定体重、45kg。落とさない自信は無い。
(送り狼か……それも選択の一つか…)
哲也は、麻奈を支えながら1分ほど歩くと、おんぶする事にした。既に足元のおぼつかない人を相手に支えるのには限界がある。
(ジムにでも通うかな…明日筋肉痛になったらいい笑いもんだ)
哲也は、ゆっくりと駅に向かって歩いた。
「駄目…哲也の家に行く…」
「えっ?」
「哲也の家…近いんでしょ?」
「それは…」
「あたしは、電車で30分掛かるもん…電車が出るまで呑ませた哲也が責任を取れ…」
「それは構わないけど……な…」
「けって………」
「…麻奈?」
「………」
「寝るなよ…」
哲也は、深い溜息をついた。
麻奈は、当り前のように安心しきった表情で吐息を立て始めていた。

(送り狼は…いけない……か)
大将の言葉が頭の中で何度も聞こえてくる。そんな事はわかっている。何せ相手には恋人がいるのだから。それに酔った勢いというにしても、自分はしっかりと素面に近い。多少なりとも呑んでいるから絶対という保証は何処にもないが、素面のはずである…。
少なくとも男として、理性を保つのか欲求のままに襲うのか判断すべきところにはいる。
送らなければ、狼になっても良いのだろうか。不意にそういう思いがよぎった。
それを不謹慎ととるかは個人の問題だが…。
はーっ。哲也は大きな溜息をついて歩みを進めた。
もし1ヵ月後なら、襲ったかもしれない。だが、今日は駄目だった。意志の問題で、それを自身に納得させる事ができない。
歩きながら携帯電話を取り出し、最も最近掛かってきた相手にダイヤルをする。
『もしもし…』
眠たそうな声の応答があった。明らかに寝ていたとわかる声のトーンだ。大体、夜中に起きている方が不思議かも知れない。遊んでいれば別だが、平日の、それも月曜の夜に遊び歩く確率は著しく低いだろう。
「あっ、俺…起きている?」と、当然、解っているのに尋ねる。
『寝ています!』と、当り前の返事が帰ってくる。
「だよな…」
『それで、何ですか?』
「ン、君の声が聞きたくて…」
『あはは、馬鹿!』
「…本気だったらどうするつもりだ?」
『本気なら……』と、少しの間を空けて、少し寂しげな声が『うれしいな』と続けた。その消え入りそうな声に、自分の迂闊さを呪いたくなった。
「ごめん…」
『いいですよ……で、何ですか?』
「頼みがあって…」
『もう……仕方ないな…起きていますから…来てください』
「ああ…ごめん…」
哲也は、駅を経由して自分の借りたマンションへと向かった。目的地は、その隣のマンションである。高校時代、告白をしてくれた一つ年下の女の子がそこで暮らしている。彼女とは、結局、恋人という関係になる事は無かった。何処まで思い続けても、その関係に至る事は無かった。ただ、友人として、ずっと傍にいただけだった。