おむすび(11) | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

リムジンは、教会についた。二度目のチャンスの到来だ。が、美紗は逃げ出す予定はないらしい。少々息苦しいのは、タイの所為だろうか。俊平は、見慣れた教会を見上げて息を呑んだ。
「怖気づくな…主賓!」
亮太は、そういうと俊平と先に降りた。
リムジンのドアを開け、花嫁が降りるのをエスコートする。階段にひかれた白絨毯を踏んで、一段一段登っていく。階段を上りきると、見計らったようにドアをスタッフが開ける。
(げっ……なんだ、この人数…)
俊平は、息を呑んだ。招待もしていない人たちが教会内の椅子を埋め尽くしている。残念な事に知った顔ばかりだ。
バージンロードに立った二人を盛大な拍手で迎えてくれている。
違う意味で逃げ出したくなった。
ふーっ。大きな溜息をつき、俊平は、美紗を見た。美紗は、ブーケで顔を隠し少し俯いている。
「今ならまだ間に合うわよ…」と  が、ボソボソっと美紗に呟いた。悪魔の囁きとも言うべき行為だ。「年貢の納め時になった、な」と亮太が呟く。はっきりといって、安西夫妻もこの人数の拍手に飲まれていた。
拍手を鳴り止ます如く、パイプオルガンから音楽が流れる。
美紗は、俊平の手を強く握った。怖い。この幸せが怖かった。
「まだ、間に合うぜ…」
俊平は、上ずる声で言った。それ以外に言葉が思いつかない。膝が震えているのが自分でも解る。決して一時の感情ではない。ともに過ごした時間は短くとも、惹かれる何かがあった。だから、俺はここに居る。都合のいい話かも知れないが神様を信じよう。
「俊平こそ…」
(俺は……)
「見合い結婚みたいなモノだよな……これから、時を紡いで行こう…」
「…はい」
俊平は、美紗をエスコートして歩き始めた。バージンロードを真っ直ぐに…。一歩一歩踏みしめて、その度に、その近辺にいる人から祝辞が述べられた。その言葉に耳を傾けるゆとりなど無い。
牧師さんが、微笑み頷いた。予定とは少し違うが、そんな事を気にしてやり直しするわけにはいかない。相手は、何度も、他人のために奔走してきた男だ。適当に帳尻を合わせるだろう。
「白なんだ…」と、ボソッと美紗が呟いた。
「ああ…プロテスタントは純白なんだ…」と、俊平は、答えた。
レイ牧師の前に二人が着くと、レイ牧師が合図をし、賛美歌が聖歌隊によって歌われた。聖歌隊は予定外である。
レイ牧師は、賛美歌が終わると二人に向きなおした。本来は、式の前にちょっとした打ち合わせをするのだが、そんな時間はなかったので、聖書の朗読は、レイ牧師の気分で行われた。このレイ牧師、日本滞在が長いのでしっかりと日本語でもできるのだが、「We are gathered here in the presence of God to witness the marriage of Shunpei and Misa, to support them with our prayers and to share their joy. Marriage is given by God. It is not to be entered upon or thought of lightly or selfishly; but responsibly and in the love of God. According to the teaching of Christ, marriage is the life - long union in body, mind and spirit, of one man and one woman. It is his will that in marriage the love of man and woman should be fulfilled in the wholeness of their life together in mutual companionship, helpfulness and care. By the help of God this love grows and deepens with the years. Such marriage is the foundation of true family life, and when blessed with the gift of children is God's chosen way for the continuance of mankind and the bringing up of children in security and trust. The union of husband and wife is in Scripture compared to the union of Christ and his Church for he loved the Church and gave himself for it.」と述べてくれた。
「…?」
美紗は、苦笑いしながら俯きながら俊平をチラチラと見た。
「聖書だよ…簡単に言えば、結婚について述べられてる」と小声で答えた。
「I do solemnly declare that, I know not of any, lawful impediment why I, Shunpei may not be joined in matrimony to Misa.」
レイ牧師の言葉に従って新郎である俊平が復唱した。
「I do solemnly declare that, I know not of any, lawful impediment why I, Misa may not be joined in matrimony to Shunpei.」
俊平がしたように美紗もレイ牧師の言葉に従って復唱していく。
「O God, as you have brought Shunpei, and Misa, together in love and trust, enable them through the power of your Holy Spirit to make and keep their vows, through Jesus Christ our Lord. Amen.」
レイ牧師は、俊平と美紗の誓約を祝福すると、  は、美紗から手袋とブーケを預かりにきた。
二人は、レイ牧師に指示されるままに向かい合った。不思議と落ち着いている。全てが夢心地の性かもしれない。いや、冷め切っている所為だろうか。
二人が手と手を取り合うとレイ牧師は、自分のかけているストールを二人の手にかけた。
「Shunpei, will you take this woman to be your lawful wedded wife, to live together according to the law of God in the holy estate of marriage? Will you love her, honor and keep her, and forsaking all others be faithful to her so long as you both shall live?」
「I will」
「Misa, will you take this man to be your lawful wedded husband, to live together according to the law of God in the holy estate of marriage? Will you love him, honor and keep him, and forsaking all others be faithful to him so long as you both shall live?」
「I will」
二人の宣誓を聞き、レイ牧師は満足そうに笑い、祭壇へと振り返った。そこには、誓約の間に亮太が祭壇においていった指輪のケースが置かれている。それを手に取り、「Bless Lord The tie these rings, that they who wear them may ever be faithful to one, another and continue together in love as long as they both shall leave through Jesus Christ our Lord - Amen.」と指輪に祈りを捧げた。
レイ牧師は、指輪を手に取り、「指輪に籠められた願いがあります」と語り始めた。「それは、永遠という誓いと完全という意味です、いつの日か、その言葉の意味を知るときが来るでしょ、その時まで互いが支えあってください」
俊平はと美紗は、レイ牧師を見詰めて頷いた。
レイ牧師は、微笑み、俊平に指輪を渡した。
「Misa, this ring I give you in token and pledge of my constant faith and abiding love.」
俊平は、レイ牧師の言葉を復唱しながら指輪を美紗の左手の薬指にはめた。スムーズにいけるはずなのに、指が振るえ、うまくはめる事ができない。
「おちついてください」
レイ牧師の声に俊平は苦笑しながら、指輪をはめた。
レイ牧師は、美紗に指輪を渡した。
「Shunpei, this ring I give you in token and pledge of my constant faith and abiding love.」
美紗は、レイ牧師の言葉を震える声で復唱しながら俊平に指輪をはめた。
俊平の手に涙が零れ落ちる。今にも声を出して泣き崩れそうなほど美紗は震えていた。
レイ牧師は、俊平と美紗の肩をポンポンと叩き、二人の手を取り、胸の辺りに持っていった。
「Shunpei, and Misa, have together made their covenant before God and this company; they have made their vows to each other, and have shown their consent by joining their hands and by giving and receiving a ring (rings). I therefore pronounce them to be husband and wife, in the Name of the Father, and of the Son, and of the Holy Spirit. Those whom God has joined together let no man put asunder.」
レイ牧師は、結婚宣言をした。
「あとは…する事わかっていますね?」
「一応…」
俊平は、照れたように言った。考えれば、美紗とは初めてだった。
「May the Joy of this moment remain and inspire you throughout your lives.」
俊平は、美紗にKissをした。震える。まるで、初めてKissした時みたいだった。あの頃、不安に戸惑いながらした不可思議な感覚が戻ってくる。
美紗の頬からとめどめも無く涙が零れ落ちた。
「Let us pray. Almighty God, to whom all hearts are open, all desires known, and from whom no secrets are hid: cleanse the thoughts of our hearts, by the inspiration of your Holy Spirit, That we may perfectly love you, and worthily magnify your Holy Name. All grace comes from you, O God, and you alone are the source of eternal life. Bless your servants groom. and bride. That may faithfully live together to the end of their lives. Amen. Choir to sing AMEN.」
(終わった…そして、はじまりだな…)
俊平は、ゆっくりと深呼吸をして、美紗を見詰めた。苦笑とも微笑ともとれる笑みがこぼれた。考えてみれば、時の魔法は、明日の朝まで続く。このひとときを夢とするのも、現実とするのも美紗しだいだ。
「ありがとう…俊平」
「……夢なら覚めないでほしいね…」
「…それって、あたしの台詞じゃ…」
「はは…今日はゆっくり寝ようぜ…明日までしか休み無いんだから…」
「うん…そのかわり、明日はデートよ…」
(結婚から始まる恋もあっていいよな)
「…一杯思いで作ってね」
「…ああ……はい、奥様」

美紗は、ドレスを脱ぎ、用意されていたスーツに着替えた。こうもサイズぴったりに服を用意されると笑いたくなる。何処かでのぞかれていたのだろうか。という気分だった。
「着替え終わった?お嫁さん…」
「ん…今日は、ありがとう…」
「別にあたしは何もしてないわよ…似合ってるわよ…その服」
「…でも、サイズも聞かれていないのに…上手くサイズを合わせられるわね、俊平…」
「あはは、気に掛かる?」
「えっ?」
「気になるから口から漏れるのよ…そういうのは…」
「…そっか」
「でも、仕方ないね…あたしが同じ立場なら、ストーカー?ッて思うかも」
「それ酷くない?」
「思わなかった?」
「ちょとだけ」
「でしょ…?」
「でも、信じてるもん」
「信じていてもマザコンは、マザコンだし、ストーカーは、ストーカーよ」
「そうだけど…」
「冗談よ」と、優里杏は、クスクスと笑いながら美紗を見た。
「補正下着で、外側のラインと全く違う体系でもない限り…彼はサイズ当てるわよ…ドレスやスーツを合わせるのが仕事の一つなんだから…」
「あっ…そうなんだ」
「ええ…」と、優里杏は更衣室のドアを開けた。美紗を促し耳元で素直に質問をする。「これでいいの?」と。
「ん~解らないけど……別に結婚が目標じゃないし、戸籍の名前が変わる以外変化もないし……それに……」
「それに?」
「何だろうね…感だと思う、恋人にだって一目惚れや直感があるんだもん…」
美紗は、そう言って笑った。答えはなんとなく解っている。でも、その答えが正しいかはわからない。いつの日か、その答えは出る。指輪に込められた願いがあるように…。
「そうね…告白から始まる恋と結婚から始まる恋、それほど違いは無いかもね」
「でしょ!」
「…ほら、待っているよ…」
「…俊平……」
美紗は、教会の階段に座り、亮太と話し込んでいる俊平を見つけて駆け出した。
「俊平!」
「おう…ご苦労さん、帰ってのんびりとするか?」
「何を?」
「SEX」
「えっ…」
「嫌ならいいよ、昨日はしてもいいって言ったくせに」と、ブツブツ言って俊平は美紗に背を向けた。
「昨日しなかったのは、俊平だからね」
「はいはい…喧嘩はそこまで…」と、片付けを終えたスタッフが俊平と美紗の腕を掴んでいった。
「次ぎ行きますよ」
「えっ、おい」
俊平は、スタッフに腕を押さえられ、引っ張られながら教会を後にした。無論、美紗もだ。
連れて行かれたのは行きつけているバーだった。よく俊平たちが二次会会場として借り切るところである。
「俊平…」
「しばらく雛壇行きだな…」
俊平は、苦笑しながら、店の一番奥の用意されているテーブル席に座った。美紗と共に。
披露宴という名の呑み会は、発起人によって開始された。何時の間に発起人が立っていたのか疑問である。身内だけのこじんまりとした結婚式の予定が、一転して大掛かりな式になってしまった。大掛かりといっても下準備の無い披露宴で演出など皆無にちかい。色々な人が挨拶に来ては酒をついでいく。
俊平は、ウンザリしながら、グラスを手に美紗を見た。
「よろしくな…これから」
「うん…夢じゃないよね…」
「きっと、明日くらいには夢であって欲しいと思うかもな…請求を見て…」
「……それは嫌だな……」
「俺は、お前がいいけど…お前が、考え直すところがあるなら…」
「………」
美紗は、今にも泣きそうな顔で俊平にKissをした。
「莫迦…」
「ごめん…」
俊平は、グラスを美紗の持っているグラスに当てた。チン!と軽やかな音を立てながら周囲の注目を集めた。
「おめでと~~~~ぅ」
その声を皮切りに、呑み会はヒートアップしていく。誰が誰かわからないほど入り乱れ、俊平は、呑み過ぎたらしくトイレに逃げていった。