前回→…金蓮花の花束を4 




文嘉
「任務完了。帰還します」

あれだけの大規模な戦闘の裏で暗躍するフェアリーが一人。

それはまるで暗殺者の様に。

悪戯好きな妖精の爪は時として大患を招く。


清廉を旨とする文嘉にはイメージの悪い働きをさせてしまった事を通信で詫びる。


だが精緻な戦闘計画を正確に全う出来るのも彼女くらいなものだ。


鳳天舞の陣を更に外から大きく回り込み、その後陣にサイドアタックを仕掛ける。


鳳天舞の陣で戦場をあえて広げたのは、宙域の電磁波を乱す為でもある。


ヴァイスは我々人類とは違い、センサー類で周囲を認識しているので、この乱れに乗じて文嘉を忍び込ませる事が出来た。



光里

「ここまでは順調ね。このまま押し切る?」


輪島

「その必要はありませんよ。急いては功を損なうものです」



ここから先は前陣と打って変わり、横に広く陣が展開されている。

こちらも一度体勢を整えて次に備えなければならない。

出撃したフェアリー達を帰艦させ、一時の休息とギアのメンテナンス。



仕切り直して、ここからは敵戦力の増大が観測されており、こちらも相応な立ち回りを求められる。

配置されている大型の個体もより強力なものになりつつあり、生半可なフェアリーでは返り討ちもあり得る。

回復力に加えて高い破壊力を併せ持つフェアリーとして、ファティマと乙莉を送り出す。


乙莉
「これで決めてみせる!」

乙莉の高出力カノンによる連射でキュクロプスの図体に穴を空け、そこにファティマが高性能爆弾を放り込む。

ファティマ
「ご機嫌よう」

上品な微笑みは時として見る者に畏怖を与える。


さて、ここからが問題だ。
左右に長く展開された陣は恐らく包囲戦術を採る為と目される。

今回は物量に関して向こうの方が圧倒しており、先程のように更にその上から逆包囲とはいかない。

我々は現在アクトレスキャリアー…イメージとしては空母の様なもの…で東京シャードを離れて派遣されている。

アクトレスが展開するようなシールドも無く、艦は当然ヴァイスの攻撃に対して無防備なので、24時間常に周囲をフェアリー達が交代で哨戒している。

尚、この警護対象には報道メディアの艦も含まれている。
正直迷惑極まりない。
自分の身は自分で守ってほしいものだ。

当然交戦中ともなれば後方からのワープドライブによる奇襲も警戒しなければならず、攻撃参加出来るフェアリーは6~7名が限界だ。

やはり少数精鋭で当たらざるを得ない。



正面は引き続きファティマ、乙莉組に加えて増援として文嘉、ミシェル組を派兵。

ミシェル
「先生、ミミがんばるね」

星守アクトレスで唯一フェアリー適性のあったミシェルは、codeブルー解除後も我が隊に残ってもらっている。

光里
「ファティマ、乙莉組、文嘉、ミシェル組それぞれ交戦開始。同時に敵陣両翼が前進始めたわよ」



やはりそうなるか。
敵包囲網の完成は断固阻止せねばならない。

あの二人を出すしか無さそうだ。



明日翔と絵美、ティタニアのスナイパー師弟コンビ。

前線に出したの4名が包囲される前に決着を着けなければならないのだか、そこに不安は無い。

フェアリーハート隊の絶対エース明日翔。
そして明日翔から直々に戦術指導を受けている絵美。

この二人でどうにもならないなら、本当にどうしようもない…と言う事になる。

明日翔
「行きましょう、絵美さん」

カタパルトデッキから射出される二人の背を見送る。

後は正面の部隊がやり遂げてくれれば…。

戦闘指揮の為にモニターに目を戻すと、そこは激しい戦闘の真っ只中だった。