今日、イオンに行ったら、アマニ油の棚が空っぽだった!

ええ〜っ、やっぱりトリセツショー効果なの!?

まだストックがあるし、欲しければネットでも買えるからいいけどさぁ、こうやって急にブームになって品薄になるのは困るよ、全く…

 

* * * * *

 

これまで、何度か「低炭水化物食は死亡率増加と関連する」という報告を紹介した。

 

 

 

NHS (Nurses' Health Study)とHPFS (Health Professionals Follow-up Study)は、アメリカの女性看護師および男性医療従事者を対象にしたコホート研究だ。

このデータを用いて低炭水化物食の全死亡率と原因別死亡率を解析した論文を、過去に紹介した。その結果の一部を、再度ここに紹介しておく。

 

[全死亡]
総低炭水化物食スコア
NHS 1.07 (1.01-1.24) p<0.001
HPFS 1.19 (1.07-1.31) p<0.001

動物性低炭水化物食スコア
NHS 1.17 (1.08-1.26) p<0.001
HPFS 1.31 (1.19-1.44) p<0.001

植物性低炭水化物食スコア
NHS 0.79 (0.73-0.85) p<0.001
HPFS 0.81 (0.74-0.89) p<0.001


全死亡率は、男女とも総低炭水化物食、動物性低炭水化物食で高くなった。
一方で、植物性低炭水化物食では男女とも低くなったのだが、この点についてはあまり触れられることはない。

とにかく、低炭水化物食をすると死亡率が増加して危険なのだ。

 

このNHS、HPFSの論文や、「EASDのDNSGによる糖尿病食事療法の提言 その7」で紹介した論文を根拠に、糖質制限反対派の人たちは「低炭水化物食は死亡率を増加させる」と言い続けてきたのだった。

 

しかし、これらの研究は、一部に糖尿病患者を含むものの、一般集団での解析だ。

糖尿病患者ではどうなのか?という問いに答えてはいない。

 

そこで、NHS、HPFSの中から、登録時(ベースライン)に2型糖尿病ではなく、追跡期間中に2型糖尿病を発症した人のみを対象として、サブ解析がおこなわれた。

 

Low-Carbohydrate Diet Scores and Mortality Among Adults With Incident Type 2 Diabetes

Diabetes Care 2023;46(4):874–884

DOI: 10.2337/dc22-2310

 

 

どうでもいいけど、この論文、今はフリーでフルテキストを入手できるのね。

この論文が出た当初、入手できなかったものだから、つい、コレスポにメールして、論文ちょーだい!とオネダリしてしまったよ。

 

そこまでして早く入手したのに、ざっと読んだだけでブログで紹介せずに放置してしまった。

オモチャを手に入れた途端、興味をなくす子どもみたいだね(汗)

 

ベースライン時の登録人数は、NHSで121,700人、HPFSで51,529人だった。

その中で、追跡期間中に2型糖尿病を発症したのみを解析対象とした。

ベースライン時にすでに糖尿病だった人、心血管疾患がある人、がんだった人、追跡中に2型糖尿病を発症する前に心血管疾患やがんを発症した人などは除外した。

除外後の最終解析では、男性2,877人、女性7,224人が含まれた。

 

4年ごとの食事頻度アンケートから、低炭水化物食スコアを算出した。

その際、総脂肪/総タンパク質だけでなく、動物性脂肪/たんぱく質と植物性脂肪/たんぱく質に分けてスコアを出した。

また、炭水化物の質も、高品質の炭水化物と低品質の炭水化物に分けた。

・高品質炭水化物…非デンプン質の野菜、果物(フルーツジュースに含まれる添加糖は除く)、豆類、全粒穀物

・低品質炭水化物…ポテト、添加糖類、精製穀物

 

不健康な低炭水化物食は、動物性脂肪と動物性たんぱく質のスコアが高く、高品質な炭水化物スコアが低いものとした。

健康な低炭水化物食は、植物性脂肪と植物性たんぱく質のスコアが高く、低品質な炭水化物スコアが低いものとした。

 

小さくて見づらいかもしれない。元の論文のTable 1で確認してほしい。

 

左から、総低炭水化物食、動物性低炭水化物食、植物性低炭水化物食、不健康な低炭水化物食、健康な低炭水化物食となっている。

Q1はスコアが一番低い群(高炭水化物群)、Q5はスコアが一番高い群(低炭水化物群)を示している。

 

低炭水化物食スコアが高かった群は、2型糖尿病と診断された年齢が比較的若く、男性の割合が多かった。

どの群も、診断時のBMIは30〜32くらいだった。

 

興味深いのは活動量だ。

各群で有意差はついていないのかもしれないが、傾向として、動物性低炭水化物食もしくは不健康な低炭水化物食のスコアが高いQ5群は、Q1群と比較して活動量が低いようだ。

一方、植物性低炭水化物食もしくは健康な低炭水化物食スコアが高いQ5群は、Q1群と比較して活動量が高いように見える。

やはり、健康意識が高い人は植物性食品や健康的とされる食品を選び、積極的に運動する傾向があるのだと思う。

 

あと、興味深いと思ったのは、2型糖尿病診断前のスコアと診断後のスコアだ。

たとえば、総低炭水化物食スコアで分けたとき、Q1群は、診断前のスコアは12.6、診断後は7.6。Q5群は、診断前は19.6、診断後は27.1。

つまり、Q1群というのは、糖尿病と診断されてから、食事がより高炭水化物食に変化しているのだ。

これは医療従事者からの指導でそうなったのか、よく分からない。

 

総炭水化物食スコアが一番低かったQ1群は、PFC = 17.8 : 30.4 : 59.5 (%E)だった。これは、日本糖尿病学会が長らく推奨してきたPFCバランスとほぼ同じであることは注目に値すると思う。

 

一方、総炭水化物食スコアが一番高かったQ5群は、PFC = 20.1 : 36.9 : 38.7 (%E)。

低炭水化物食と言っても、総エネルギー比で40%近くも炭水化物を摂っている。したがって、日本で言うところのスーパー糖質制限(糖質摂取量60g未満/日)はおろか、ロカボ(糖質摂取量130g未満/日)でもないと思われる。

もちろん、低糖質高食物繊維食の可能性もあるが、食物繊維をほとんど含まないであろう「低品質な炭水化物」を20.7%も摂取しているので、そこそこ糖質を摂取していると考えられる。

 

これらの各群での、全死亡、心血管疾患死亡、がん死亡について解析した。

スコアが一番低いQ1群のリスクを1としたとき、スコアが一番高いQ5群のHR (95%CI)は、以下の通りだった。

 

[全死亡]
総低炭水化物食スコア
0.77 (0.69, 0.85) Ptrend<0.0001
動物性低炭水化物食スコア
0.91 (0.82, 1.01) Ptrend=0.04
植物性低炭水化物食スコア
0.70 (0.63, 0.78) Ptrend<0.0001

不健康な低炭水化物食スコア

1.06 (0.95, 1.18) Ptrend=0.52

健康な低炭水化物食スコア

0.71 (0.63, 0.79) Ptrend<0.0001

 

[心血管疾患死亡]
総低炭水化物食スコア
0.86 (0.71, 1.04) Ptrend=0.04
動物性低炭水化物食スコア
0.97 (0.81, 1.18) Ptrend=0.33
植物性低炭水化物食スコア
0.69 (0.56, 0.85) Ptrend<0.01

不健康な低炭水化物食スコア

1.01 (0.83, 1.23) Ptrend= 0.74

健康な低炭水化物食スコア

0.79 (0.64, 0.97) Ptrend​​​​​​​=0.02

 

[がん死亡]
総低炭水化物食スコア
0.92 (0.72, 1.16) Ptrend​​​​​​​=0.98
動物性低炭水化物食スコア
1.06 (0.84, 1.35) Ptrend​​​​​​​=0.27
植物性低炭水化物食スコア
0.80 (0.64, 1.01) Ptrend<0.01

不健康な低炭水化物食スコア

1.23 (0.97, 1.56) Ptrend​​​​​​​=0.06

健康な低炭水化物食スコア

0.77 (0.60, 0.98) Ptrend​​​​​​​=0.02

 

パッと見て分かるように、赤字がない。つまり、死亡率が増加するという有意な結果は得られなかった。

一般集団での解析では、総炭水化物食スコアや動物性低炭水化物食は死亡率の増加と関連していた。だからこそ、「低炭水化物食は危険だ!」と言われ続けてきたのだ。

しかし、2型糖尿病を発症した人に限って解析したところ、たとえ動物性低炭水化物食や不健康な低炭水化物食であっても、統計的に死亡率を増加させることはなかった。

この結果のインパクトは大きいと思う。

 

もちろん、このコホートで得られた結果だけで判断はできない。

今後さらに、別のコホート、別の人種で同様の解析結果が得られ、メタアナリシスがなされることを期待するしかない。

 

数字だけではインパクトが弱いかもしれないので、分かりやすい図も紹介しておこう。

 

 

左から順に、

赤 総低炭水化物食

グレー 動物性低炭水化物食

緑 植物性低炭水化物食

青 不健康な低炭水化物食

紫 健康な低炭水化物食

 

縦軸の1.0より下であると、全死亡率が有意に低下していることを示す。

1.0をまたいでいると、統計的に有意ではないことを示す。

1.0より上であると、全死亡率が有意に増加していることを示す。

 

動物性食品を重視した低炭水化物食であってもリスクが上昇することはないが、やはり植物性食品を意識した低炭水化物食の方がメリットが大きいのだろう。

 

日本人の場合、欧米より大豆・大豆製品を多用していると思う。豆腐やおから、高野豆腐、納豆などは糖質制限の味方だ。大豆粉でパンを焼いたり、きな粉でクッキーを焼いたりしている人も多いのではないだろうか。

小麦やオーツ麦のふすまを使った低糖質パンもあるし、ナッツ類も摂り、非デンプン質の野菜や海藻、きのこ類をしっかり摂っていれば、食物繊維も十分摂取できる。糖質の少ないベリー類やキウイといった果物を適量摂取するのもいいだろう。

あとは、赤肉だけじゃなく、白肉(鶏肉)、魚介類を摂るようにすれば、少なくとも2型糖尿病患者が糖質制限することはメリットが大きいんじゃないかと思う。

 

今回の解析では、低炭水化物食スコアが高い群の、HbA1cや空腹時血糖値、血漿インスリン値(Cペプチド値)、その他脂質マーカーや肝機能マーカーなど、血液検査データは全く記載されていなかった。

ただ、これら血液検査のデータは単なるマーカーであって、大切なのは死亡リスクや合併症リスクがどうなるか?だ。

そして、今回の解析では、死亡リスクが低下するメリットがありそうだということが分かった。

 

日本糖尿病学会の最新ガイドライン「糖尿病診療ガイドライン2024」(ここ)でも、期限付きとは言え炭水化物制限が血糖コントロールに有効であるというステートメントが出された。

 

ああ、これが3ヵ月早く公開されていたら。

あるいは、わたしの栄養指導が3ヵ月遅く始まっていたら。

もしかしたら、「炭水化物を50〜60%摂れ」「糖質制限は認められない」という指導はなかったかもしれないなぁ…

 

しかも、肥満・過体重以外のカロリー制限がなくなったし!

あの、バカバカしい摂取カロリー計算式もなくなった!

だから、医師から指示された「1500 kcal/日」は守らなくてもいいよね!

いや、端から守ってなかったけどw

体重が大きく増減していないことを確認できれば、それでいいやん。

むしろ、それでなぜダメなのかが理解できなかった。

 

それにしても、こうやってガイドラインが大きく変更されると、これまでガイドラインに則ってガチガチに指導してきた人たちは困るだろうな。

この人は、今後、どうするんだろ?

 

「信じる人は勝手に信じて」木下医師 低糖質食を推奨の女性インフルエンサーに猛反論「エビデンスのないものを勧めるなんて」

 

 

PFC = 15 : 25 : 60のカロリー制限も、エビデンスはなかったんだよなぁ。あの比率は「一般健常人」の平均から導き出しただけだから。カロリー制限は、「どうせ2型なんて食べすぎでだらしない奴らで、カロリーが余ってる(あいつらはカロリー消費が健常人より低いはずな)んだから減らせばいい」という全く科学的でない思考から生まれたものだから。

ガイドラインに記載されているからエビデンスがある、というのは間違いなんだよ。

 

さて、どうすんのかなー?