今から2年半ほど前に、糖尿病教室というものに参加してみた。

糖尿病で入院してから約2年後のこと。

ブログを始めて8か月ほど経ったころで、独学で糖尿病についてある程度は知識を得ていた。

だから、糖尿病教室に参加する必要はなかったのだけれど、どんな内容なのかちょっと興味があったので参加してみたのだった。

そのときの様子は、過去にブログ記事にしている。

 

 

医師が「炭水化物は1時間くらいで血糖値を上げるけど、脂質は6、7時間くらいにダラダラ〜っと血糖値が上がります」と説明するときに出したグラフ。

 

ネットでもちょくちょく見かける、有名なやつ。

各栄養素が血糖に変化する割合を示した図だ。

↓こういうやつ。

 

 

医師がスライドで出したのはたんぱく質がなくて、炭水化物と脂質のみだった。

おそらく、たんぱく質のグラフを出してしまうと話がややこしくなるからだろう。

だって、「脂質はダラダラと血糖値を上げるから、脂質を食べすぎるのはよくない」と説明するわけだから、同じように「脂質ほどではないけど、たんぱく質も時間をかけて血糖値を上げるので、あまり食べないように」と言わなければならなくなってしまうわけで。

 

糖尿病教室から2年半過ぎたのだが、実はずっとこの図が気になっていた。

これは一体、なんなんだ?

炭水化物(糖質)が100%血糖値になるのは理解できる。

 

じゃあ、たんぱく質が50%変化するというのは、なんだ?

アミノ酸の糖原性とケト原性ってやつか?

糖原性アミノ酸は糖新生の材料となる、ということを示しているのか?

 

じゃあ、脂質の場合は、脂肪酸は糖新生の材料にはならないが、グリセロールが材料となるので、それが10%ほどの変化率ということ?

 

しかし、「糖新生の材料になる」ということと、「血糖値を上げる」ということはイコールではない。

純粋に脂質だけを摂取したことがないから分からないけど、おそらくは摂取しても血糖値は上がらないんじゃないかと思う。

 

2型糖尿病患者の多くは、純粋にたんぱく質だけを摂取しても血糖値は上がらない。

インスリンがほぼ枯渇した1型糖尿病患者では、血糖値が上がる。

これは、たんぱく質摂取によってグルカゴン分泌が誘導されるから。

インスリン分泌がまだ保たれている2型糖尿病患者の場合はグルカゴン作用に拮抗できるので、血糖値に変動はほとんど見られない。

わたしの場合は、残念ながらそれなりに上がるけど。

というようなことは、過去に書いた。

 

 

あの、各栄養素が血糖に変化する割合の図は、どんなデータを元にして作られたのだろうか?

この2年半、ずっと引っかかっていた。

我ながらしつこいw

 

ネットで「栄養素 血糖値」というキーワードで画像検索すると、同じような図がたくさんヒットする。

つまり、それくらいこの図は有名で、糖尿病患者への説明に利用されているということだろう。

説明の内容は、サイトによって

「糖質は短時間で血糖値を大きく上昇させる。脂質は血糖値を上げない」

「脂質は長い時間をかけ、ダラダラと血糖値を上げる」

この2パターンがあるようだ。

 

 

このサイトでもあの図が使われているが、たんぱく質・脂質への言及はなく、清涼飲料水の危険性を訴えているだけだった。

注目したのは、そこではなく。

 

あの図の出典として「糖尿病教室パーフェクトガイドより一部改変」とあった。

どうやら、「糖尿病教室パーフェクトガイド」という書籍が存在するようだ。

 

 

2001年発行だから、今から20年ほど前の出版。

つまり、20年前の「糖尿病教室」では、この書籍が活用されたと思われる。

そして、この書籍は「ADA(アメリカ糖尿病協会) 発行」となっていた。

ADAの書籍を日本語訳したもののようだ。

 

さらに、わたしが2年半前のブログ記事で画像を拝借した、大阪医療センターのサイトを再び訪問してみると、

 

(参考:大阪医療センター

 

出典として「1997 American diabetes association」とあった。

あれ? 2年半前にも記載してあったっけ?

わたしがブログにアップした画像とはちょっと違う。

あのとき、ブログにアップするために、わざわざ図とテキスト部分を切り貼りしたかなぁ? 覚えてないや。

 

ともかく。もともとはADAが出所だったんだ!

じゃあ、ADAのサイトを探せば、このオリジナルの図が見つかるかな?

そのページを見れば、この図の意味するところが分かるかな?

 

 

…それっぽいページをざっと見てみたけど、あの図は見当たらない。

 

うーん、モヤモヤする。

このままモヤモヤを抱えたまま過ごすのか?

 

かなり逡巡した末に、意を決してADAにメールを送ってみた。

だって、メルアドが記載されているところに、

For diabetes-related questions or to request a diabetes information packet, email us

ってあったから、ああ、糖尿病関連の質問を気軽にメールで送っていいのかな?と思ったのだ。

ADAのサイトの作りを見ても、かなり患者フレンドリー。

(医師向けのDiabetes Proというサイトもあるが、ADAの公式サイトとして表示されるのは患者フレンドリーなサイトのようだ)

 

日本糖尿病学会とは違うなぁ。

こっちは医師向けで、申し訳程度に「一般の方へ」というバナーが貼ってあるだけ。

そのページには、「本学会では、患者さまからの個別のご質問・ご相談にはお答えすることができません。かかりつけの医療機関へのご相談をお願いいたします。」とあった。

 

それはともかく、ADAに下手くそな英語で質問してみた。

内容はこんな感じ↓

 

* * * * * * * * * *

 

自分は2型糖尿病の日本人女性である。

日本のネットサイトで、よく見かける図がある(上のグラフを添付)。

炭水化物、たんぱく質、脂質が血糖に変化する割合を示した図だが、legendには"1997 American diabetes association"とある。

この図の意味するところを教えてほしい:

・炭水化物が血糖値を上昇させ、たんぱく質は少しだけ血糖値を上げ、脂質はほとんど上昇させない

・炭水化物は血糖値を短時間上昇させ、脂質は長時間ダラダラと血糖値を上昇させ、たんぱく質は炭水化物と脂質の中間である

日本では、後者の意味でこの図が使われていることが多い。つまり、「脂質は長時間にわたり血糖値を上昇させるので、脂質を食べすぎてはいけない」と説明するときに利用されている。

この(25年前に書かれた)図は、今でもADAで使われているのか?

それとも、新しい情報に変更されているのか?

教えてほしい。

 

* * * * * * * * * *

 

返事が来ればラッキーという感じで、期待せずにいた。

送信して数時間後に「お問い合わせをありがとうございます」的な自動返信の定型文が来た。

返事には最大で3営業日かかるとのこと。

しかし、その10時間後に回答が届いた。

スゲー!仕事が早い!!

 

では、どんな回答だったか。紹介しよう。

 

* * * * * * * * * *

 

Dear (highbloodglucose),

 

Thank you for contacting your American Diabetes Association® (ADA).

We appreciate you bringing this to our attention, the graph that you attached is no longer being used to demonstrate how food affects blood glucose. 

 

In terms of how different foods affect blood glucose, you can read more about nutrition and how it helps to treat diabetes in the following article: Nutrition Therapy for Adults with Diabetes or Prediabetes

Fat containing foods do not raise blood sugar levels themselves but being overweight can contribute to insulin resistance.

 

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There isn’t a one-size fits all “diabetic diet.” Everything is individualized so you have more flexibility in planning your meals. Learn “How You Can Eat” with our Nutrition Guidelines and Healthy Swap list: Click Here

 

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Sincerely,

 

D••••• C•••••

 

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* * * * * * * * * *

 

さて、おわかりいただけただろうか?

the graph that you attached is no longer being used to demonstrate how food affects blood glucose

「あなたが添付したグラフは、食品が血糖値にどのように影響するかを示すために使用されなくなりました

 

そう。

ADAは、すでにあの25年前の図を使っていないのだ!

いつからADAが使わなくなったのかは分からないが、ADAが撤回した今でも、日本の医療機関のネットサイトで利用され続けている。

いいのか、これで?

 

糖尿病の知見は日進月歩だ。

それは治療薬についてだけじゃない。

食事療法にしても、考え方は大きく変わっている。

メールにもあるように、ADAでは、

There isn’t a one-size fits all “diabetic diet.”

万人に合う「糖尿病食事療法」など存在しないと明言している。

2019年のコンセンサスレポート(ここ)にあったように、ADAはさまざまな食事療法を認めている。(メール中のリンク、Nutrition Therapy for Adults with Diabetes or Prediabetesが、そのコンセンサスレポート)

そして、各栄養素の摂取量は、食事療法や患者個人の嗜好に合わせていいとしている。

 

ちなみに、脂質摂取については、ADAは特に問題視していない。(ここ

強いて言えば、飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換えた方がいい、というくらい。

もちろん、脂質の過食は肥満につながるので要注意だが、ADAは低炭水化物・高脂肪食は、少なくとも短期間では体重減少に効果があると言及しており、脂質摂取が常に体重増加につながるとは書いていない。そこが日本とは違うところだ。

 

もちろん、メール中にもあるように、

Fat containing foods do not raise blood sugar levels themselves but being overweight can contribute to insulin resistance.

脂肪を含む食品は、それ自体では血糖値を上げることはないけれど、(カロリー過多によって)過体重となればインスリン抵抗性の一因となる可能性がある

要は、炭水化物だろうがたんぱく質だろうが脂質だろうが、食べすぎて太るのはダメ!ということ。

当然のことだ。

 

ADAも2013年前までは一律の食事療法を勧めていたのかもしれないが、条件付きだったにしろ、2013年には低炭水化物食を認めるようになった。大きな転換だ。

一方、あのグラフは1997年のもの。

いくらなんでも古すぎる。

 

別に、ADAの考えが絶対的に正しいとは思っていない。

ADAだって時代によってかなり変遷してきているわけで、現在の知見が「糖尿病の食事療法として最終的な正解」かどうかは分からない。

なので、単純に「日本の糖尿病医療は時代遅れ」、とも言うつもりはない。

日本人と欧米人では体質も文化も違うので、日本に合った独自の食事療法があるかもしれないし。

 

ただ、あのグラフに関しては、ADAが過去に発表したものをそのまま利用しているだけであり、グラフを発表したADA自身があのグラフをすでに撤回しているのだから、あのグラフを使い続けている点については日本は時代遅れと言ってもいいだろう。

 

よく似たグラフで、こういうのもある。

 

(画像は「老化を加速、 万病のもとになる 高血糖 が危ない!」より)

 

この説明文でも「たんぱく質は(中略)体内に吸収されてから50〜60%がゆっくりと糖に変わるために」という記述があるのでなんだかなぁと感じるが。

しかし、グラフの内容は各栄養素単独での話ではなく、混合食が血糖値にどう影響するかを示したものであり、血糖値のピーク時間も納得のいくものだ。

これだったら、糖尿病教室で利用されても疑問に思わない。

さらに、「次の食事までにしっかり血糖値が下がらないのは注意が必要だが、たんぱく質や脂質の力を借りて食後の血糖値スパイクを上手く回避する工夫をすることが大事」と説明があるとなおいいだろう。

 

こういうことを、糖尿病患者自身が、リブレをつけて自分の身でもって経験することが重要だと思うんだよなぁ。

糖尿病教室で講師をしている医師や管理栄養士も、今でこそリブレを試している人は多いかもしれないけど、ちょっと前までは単に教科書の記載をそのまま鵜呑みにして、患者に講義していたと思う。

だから、注意深く自分の血糖値データをまとめている糖尿病患者からしたら、「なに言ってんの?」と疑問に感じることがあっただろう。

それこそ、「たんぱく質は炭水化物の半分くらい血糖値を上げる」とか、あのグラフで説明されたら、多くの2型糖尿病患者は「はぁ!?」って思うよね。

 

それにしても…

 

すごいなADA!

こんな日本の糖尿病患者の質問にまで、素早く回答してくれるなんて!

(まあ、個別回答は最初の数行だけで、以降の内容はテンプレを貼り付けただけなんだろうけど。←冷静な心の声 そして、こういう活動に対して寄付をしろ、と、しっかり要求してきているw )

 

寄付ねぇ…

そうだな、Shop Diabetesで売っている、ADAのキャップの売り上げに貢献してあげようかな?w

このキャップ、どんな層に需用があるんだろ。

田舎のおっちゃんが農協のキャップをよく被っているように、アメリカでは糖尿病患者がADAのキャップを被ってるとか?

いや、患者じゃなくて、糖尿病専門医が被ってるのかな?

 

$21.99ナリ…