2009 6 24 角海老ボクシング 後楽園ホール
この夜の興行は、どの試合もかなりの白熱を発散させた…
そのリングの上では、それぞれのボクサーたちが、それぞれの背景を胸に、しかし、観客はそんな彼らの胸中の詳細を知らないまま、ただ、その青春の燃焼をみつめ、そんな彼らから「何か」を受け取るために手に汗を握る…
「想い」とは、それはボクサーに限らず、誰の胸にもそれぞれ抱く何かがあるわけですが、僕は、とりわけボクサーたちのそれに引き寄せられてしまう…
僅かな報酬しか得られず、さらに、悲運と不幸が重なれば、その生命さえも脅かされる危険を承知で戦うボクサーたちの「想い」とは、果たして何であるのか…?
それはどのような「言葉」を駆使しても到底及ばない何かであることは随分前から解ってはいることだが、だからこそ、僕はせっせと聖地・後楽園ホールへ足を運ぶ…
僕にとって、ボクサーの戦いと、その切実は、自堕落にして絶望的な自分を映す「残酷な鏡」のような存在である…
それを凝視することは、不甲斐ない自分の惨めを、自らの心に刻み込むような作業でもある…
そして、昨晩も、僕は激しい自己嫌悪と苦悩を前にして、それを飲み干す勇気が本当にあるのか?と、延々と悶えることになったのだ…
眠れない…
が、自らを「勝負師」と呼ぶ、32歳の日本フェザー級3位は、その真っ赤に腫上った顔面と痛みを抱えながら、もっと眠れなかったはずだ…
日本フェザー級3位 秋葉慶介 11W2KO5L4D
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日本フェザー級 東上剛 7W2KO6L3D
秋葉は勝たなくてはならない… いつかの日本フェザー級タイトルマッチ、当時のチャンピオンは現WBC世界チャンピオンの粟生隆寛選手であった… その抜群のテクニックを前に判定負けで屈したが、手応えがなかったわけはない… もう一度チャンスを掴むためには、この前哨戦で間違っても負けるわけにはいかない…
が、この秋葉の「日本3位」の肩書きを狙う東上にとっては、ボクサーとして結果を残す意味でもそのキャリアにおいてもっとも重要な一戦となる… 勝てばランキング入り… 胸を張れる… チャンピオンに挑む権利も与えられる… これまでの努力と苦労を肯定できる… ここ最新は2連敗こそしているが、全て帳消しだ…
1R 両者右構え やや距離を測りながらその間合いを確認する両者… 秋葉は丁寧なワンツーとカウンターの左フック、そして、軽いながらも右アッパーを巧打した… 一方の東上は踏み込んでワンツーを秋葉に見舞ったが、これはやや単発気味であった… 秋葉10-9
2R ランク獲りに燃える東上はここへきてその闘争心に炎が点く… 積極的に前へ…!! その手数が秋葉を押し始めた…秋葉はカウンターで迎撃、機を見て左ボディーをねじ込むも、東上のアグレッシブがそれを凌駕したか? 互角10-10
3R 秋葉はワンツーを丁寧に積み重ねながら、左フックカウンターを狙うが、ここで東上の左ボディーが物凄い音を立ててその脇腹を抉った… 秋葉は、そのクリーンヒットを喰って後退… さらにロープを背負う… 東上のガムシャラが日本3位を追い詰める… その気迫は湯気が立ち上っているようにも見える… そのアグレッシブが明らかな優勢を奪い取った 東上10-9
4R 秋葉はコツコツときれいなワンツーから左ボディーをヒットさせるも、東上はその攻撃を倍返しで跳ね返す展開… 東上の左右ボディーブローは特に秀逸で、その音と衝撃に場内は盛り上がる… 東上にはたくさんの応援団がついている… その歓声がさらに後押しする… 秋葉の攻撃はその倍返しの前に全て掻き消されてしまう… 旗色は悪い… リズムと流れは完全に東上だ… 東上10-9
5R 完全に勢いに乗った東上はそのコンビネーションの合間に大きなフルスイングをまぶし始めた… 倒す気だ… 秋葉は効いている… 動きも悪い… 今、まさに、それを肌で感じているからこその大きなフルスイングではないのか…? 東上の右アッパーカットが秋葉の顎を跳ね上げ、そして、ジャブも、右も、かなり命中している… 東上の右ストレート!!! 秋葉、まっすぐ後退… これ、マズイ…!! 東上の闘争心の充実の大きなうねりに、秋葉はもう飲み込まれそうだ… コーナーに詰まる…!!! なんとか堪えるも、しかし、この流れを変えるには大きな一発か、あるいは、東上のスタミナ配分のミスに期待するしかない… 完全なる劣勢… 東上10-9
6R ゴングを聞いて自陣の赤コーナーに戻る度、秋葉は首を傾げ続けていた… 思うように身体が動かない… これは本来の自分ではない… そんな彼の「心の呟き」が聞こえてきそうだ… が、このR開始直後、秋葉は劣勢を跳ね返すべくゴングと同時に打って出た… そのコンパクトなワンツーが東上の顔面に命中するも、しかし、心と身体の充実が一致している東上を下がらせることは出来ない…
バチン!!!
東上の右が秋葉の顔面を抉った!!!
秋葉の左瞼がザックリと切れた… 流血… これはクリーンヒットによるヒッティングだ… 東上、これはTKO勝ちもあり得る!! もう勢いは止まらない… 東上10-9
そのインターバル…
赤コーナーリングサイドに並んだ、子供たちが声を揃えて咽喉を嗄らせた…
----アキバ、アキバ、アキバ、アキバ!!!!
もちろん、青コーナーも負けてはいない…
----トージョー、トージョー、トージョー!!!
そうか、あの子供たちは坂本博之さんの慈善活動を通じて知り合い、招待した子供たちに違いない…
秋葉よ、ランカーの意地を見せろ!!! 子供たちが君を応援しているぞ!!! 子供たちに頑張る姿を見せろ!!! あきらめるな!!!
7R 東上の強烈な左ボディーが秋葉の脇腹に抉りこまれた… 秋葉の動きが止まる… 東上の是が非でも、いや、死んでも勝つ!!!の魂の燃焼は最高潮に達している!!! 秋葉のそれも奮い立ってはいるが、しかし、スタミナも消失し、蓄積したダメージも深い… 秋葉のクリーンヒットはコンパクトにして的確であるが、しかし、東上のそれはエネルギッシュにして見栄えがよい… 秋葉のクリーンヒットに全く怯む気配はないのだ… 東上10-9
8R 秋葉はこの圧倒的不利の前に、「倒す」ほか勝利への道は残されていない…
----アキバ、アキバ、アキバ、アキバ!!!
「勝負師」と自らを呼ぶボクサーは、この夜、やれることを全てやった…と思う。
しかし、連敗脱出と、ランキング奪取に全てを賭けたノーランカーの意地と執念が大きくそれを凌駕した…
ボクサーはそれぞれ、多くの「背景」を背負っている… この大劣勢の奥には、観客には遮蔽された「理由」もあるかもしれない…
が、リングの上では、その「背景」や「理由」は言い訳にしかならない…
この最終ラウンド、東上もまた潔かった… ポイントは完全優位であったが、安全運転を拒否… この時点で、秋葉の敗戦は9分9厘決まったように見えた… 東上の右オーバーハンドをまともに喰い、さらに、追撃の左右ボディーブローに秋葉の背中は丸くなり、ロープを背負い、コーナーに閉じ込められた… 秋葉も最後までこの劣勢に反逆を試みるも、東上が怯むはずもなかった…
東上の魅せた執念は、それはいつかの秋葉自身が日本ランキングをもぎ取った戦い、3年前の、あの時の「自分の姿」であった…と、勝負師自身、きっと感じていたに違いない。
秋葉はしかし、諦めることなくクリーンヒットも奪った… ボクサーの「矜持」を、それを発揮した…が、明確なポイントを奪うには至らずか… 互角10-10
higege91の採点 79-75 勝者 東上剛 !!!
公式の採点 78-76、79-74、79-74 3-0のユナニマスデシジョンで、勝者、東上剛!!!
…再びのタイトルマッチへの夢は、一旦、断たれてしまった。
油断があったか? 調整に失敗があったか? モチベーションに不足があったか?
しかし、この大一番で日本ランク入りを確実に決めた東上選手、その気迫と闘争心、そのアグレッシブ、見事でありました…
本当に強かった…
秋葉選手はその劣勢を跳ね返そうと打って出たが、しかし、まったく寄せ付けなかった…
おめでとうございました!!! その名前と強烈なる左ボディーブロー、確かに頭に刻み込んだ!!!
32歳、ボクサーとして瀬戸際に立たされた秋葉選手、その進退はまだわからない…
しかし、前の小野澤選手との不本意なる引き分け試合の出来よりも、気持ちを前面に打ち出した内容であったことも事実であります…
そういう意味では、おかしな言い方になりますが、僕は満足もしている。
が、ボクサー秋葉慶介が求め続ける「何か」…が遠のいたのは厳然たる事実である。
敗戦直後のリングサイドには、東上選手の強烈な右によって切り裂かれた左瞼に痛々しくテーピングを施した、秋葉選手の姿があった…
応援に駆けつけてくれた子供たちに詫びるために、悔しさとその苦悩を胸にしまって、そして、やってきたのだ…
そんな秋葉選手を子供たちは暖かく迎え入れ、敗れたばかりの「アキバ」にサインをせがみ、秋葉選手はその求めに丁寧に一つずつ応じていた…
傍から見ると、一見、それは残酷な場面のようにも見える…が、しかし、子供たちはその敗戦をリングサイドから目撃してもなお、それ以前の「日本3位の秋葉慶介」ではなくなってもなお、なんら変わることなく、無条件で「アキバ」に感謝と友愛の気持ちを示してくれているのだ…
そして、そんな子供たちが差し出したメモ帳に、「元日本3位 秋葉慶介」は自分の名前を書き込んだ後で、その横に、「勝負師」の一言を添えていた…
「勝負師」の求める「何か」は消えてなくなってしまったのだろうか? それとも、ちょっとだけ遠くに行ってしまっただけなのだろうか?
しばらく、じっくり考える時間が必要なのは確かだ…
また、この夜は非常に「好カード」が多かった。
メインの日本ライト級ランカー対決はド迫力の打撃戦から、クリンチの多い展開となったが、有効打で上回った1位の加藤善孝選手が、老獪なる8位の熊野和義選手を「2-0」の判定で下した…
そういえば、現日本ライト級チャンピオンの三垣龍次選手とこの加藤選手が以前戦った試合は生観戦しているのですが、これが物凄くいい試合だったのをよく覚えている…
これ、2度目の戦いが実現したらかなりの白熱になると思います…
楽しみであります。
また、日本フライ級6位の殿村雅史選手と、そのランキングをワンパンチKOで奪われた元日本2位の金城智哉選手のダイレクトリマッチは物凄い執念のぶつかり合いとなった…
サウスポーのボクサータイプ殿村選手、前の試合ではやや金城選手のアグレッシブに押される展開から一発で試合を決めたわけですが、今夜は序盤から主導権を握る流れ、一方の復讐に燃えるファイター金城選手は被弾を重ね、劣勢からのスタートとなるも、その驚異的な粘りとアグレッシブから徐々に流れを引き戻すタフな勝負に殿村選手を引きずり込んだ…
判定は三者三様の「ドロー」となりましたが、実に見応えのある内容でした…
しかし、驚くべきは殿村選手の飄々とした冷静さと打ち合いに応じる気の強さの見事な調和でありました…
これは日本チャンピオンの清水選手もかなり苦しめそうだなぁ… 強かった、びっくりしました…
日本ウェルター級7位の下川原雄大選手はベテランの斉藤泰広選手を迎え撃った試合は、ランカーの下川原選手がフリッカージャブから的確のコンビネーションを随所に決め続け、斉藤選手がこれに耐えながら一発から突破口を探す展開に… が、その3R、下川原選手のカウンターが斉藤選手の顎を打ち抜いて斉藤選手は堪らず撃沈… さすがにウェルター級は迫力がありました…
そして、日本スーパーバンタム級10位の中嶋孝文選手に挑んだのは青木幸治選手…
スピードと的確さで上回る中嶋選手に対して、物怖じしない積極性を発揮、ポイントこそやや劣勢に試合を進めるも、徐々にクリーンヒットを生み出し始め、互角の展開に持ち込み、捌きに入った中嶋選手を追い込もうと勝負に出ましたが、これを迎え撃った中嶋選手のカウンターを浴び、コーナーを背負ったところで連打を浴びて7Rついにマットに沈んでしまいました…
惜しかった… 青木選手、かなりのテクニシャンでありますが、中嶋選手がその上を行っていた… 素晴らしい内容でした。
また、バンタム級8回戦、田中稔大選手と船井龍一選手の戦いは船井選手のパンチを浴びすぎてその顔面が真っ赤に変形してしまった田中選手が、しかし、絶対に引かないという驚異的な内容となりました…
こんなにパンチを喰っても怯まないものなのか? が、最後は瞼が塞がってその視界が失われている可能性が高くなり、結果は7RTKOとなったのですが、田中選手、超驚異的な頑張りを魅せた…
第一試合となった東日本新人王ライト級予選の4回戦、外村セビヨ鉄人選手と小林和優選手の一戦は、まさに、カウンター一閃、外村選手が一発に沈んだ… 非常にハイレベルで見応えのある内容でした…
ノーテレビの角海老興行ですが、毎回、かなりの白熱に遭遇することが出来る…
また、足を運びたい…
本当に胸の中に「何か」を残してくれる、名勝負がたくさんありました…
御愛読感謝
つづく