脳死判定 元世界王者チェ・ヨサム選手について… | ボクシング&ロック野郎 higege91の夜明けはまだか?

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人生の曲がり角に遭遇したボクシング&ロック・マニアhigege91。暇を見つけてはホール通い。ああ、俺は戦っているか!? ああ、俺は俺の求める『俺』に近づいているのか!?

試合後こん睡のボクサー、チェ・ヨサムに脳死判定 (YONHAP NEWS)より…


‘意識不明’崔堯三の日記を公開 「打たれるのが怖い」 (韓国新聞)より…


この記事に胸を痛めている方は相当多いことでしょう…


プロボクシングと事故は残念ながら切っても切れない関係性あります…


35歳のチェ選手が低迷した韓国ボクシング界の為に恐怖を感じながらも再起し、さらにWBO地域タイトル防衛を果たすも試合後に昏睡状態に…


チェ選手と言えば、あのタイの名王者であるサマン・ソーチャトロンを破って世界王者に、また、元東洋太平洋ライトフライ級チャンピオンの山口真吾選手をその防衛戦で下し、最近の世界戦と言えばあのロレンソ・パーラに2004年に挑戦し敗れている…


リング禍…


最近特に印象に残っているのは2年前ほど前のあるメインイベント…


2007年9月17日の後楽園ホール… 


確か、長島健吾選手がメインだったのだけれど試合直前に怪我をして、その興行でいきなりメイン登場となった当時の日本バンタム級ランカー(スーパーフライだったかも…)、藤掛真幸選手…


対戦相手はフィリピンの実力者、フェデリコ・カツバイ…


この戦いは壮絶を極めました…


記憶を辿る形になってしまって申し訳ないのだけれど、技術的には藤掛選手が序盤優位に試合を進めるも、厚みのあるカツバイの攻撃の前に混戦模様に、で、終盤には藤掛選手も気迫を前面に打ち出して打ちつ打たれつの展開に…


…が、藤掛選手、打たれ過ぎた。


そして、最終10R、ポイント的にも際どい接戦となった状況、藤掛選手は大きな声を上げてゴングと同時にコーナーを飛び出すもカツバイのカウンターを食い、さらに連打を浴びてストップされてTKO負け…となったあの試合…


藤掛選手、試合後に病院に搬送され、そこで「開頭手術」を受ける…


そうだ、僕はその試合は確かG+で生中継観戦していたのだ。そして、新聞記事で試合後の藤掛選手の容態を読み知ってぞっとしたのだ。


幾度も幾度もあの藤掛選手のラストラウンド前の自分に気合を入れるために発した「叫び声」が頭を巡った…


生死の淵を彷徨い続けるボクサーとは…?


そうだ、僕はそんな藤掛選手の『命懸け』を目の当たりにして恐怖したのだ…


どうして、このような悲劇が起こるのか?


なぜ、にもかかわらず、それでもなおボクサーたちはリングで殴り合うのか?


そして、なんだって僕は恐怖を感じながらもボクサーから目が離せないのか?


殴られ過ぎて脳内出血が起こり、頭蓋に穴を開けて手術をするほどの悲劇…をボクサーたちは心のどこかで想定しながら、それでもなお戦うわけですが、その『切実さ』に僕は激しく動揺しながらも、後楽園ホールに足を運ぶ…


恐ろしいと感じる戦いも多い…


僕は一方的な試合に生観戦で遭遇すると思わずこう叫ぶ。


「ストップしろー!!!!」


プロボクシング観戦の真髄とは、「ギリギリまで研ぎ澄まされた精神と肉体の激突とその眩い火花の美しさ」であり、『殺し合い』ではない…


その彼方に垣間見える「強さとは何か?」へと通ずる圧倒的根源的な『哲学』である…


このチェ選手の「日記」に読み取れる『恐怖との戦い』…は涙なくしては読めない。





それでもなお戦い、勝利しながらも試合後に「自分」を失ってしまった35歳の元世界チャンピオン…


ボクシングとリング禍は切っても切れない…


それでもボクサーたちは徹底的に身体を絞り上げ、研ぎ澄まし、ギリギリの体力をさらに削りながら生死をかけてリングに上がる…


そして、拳に「自己存在」の全てを賭けて戦う…


オール・オア・ナッシング… 


ボクシングの勝負の世界を、人々はよくこのように表現する…


全てか、無か…


チェ選手、本当に残念な事態であります。なんとか回復して欲しいとずっと祈っていたのですが…


しかし、「無」だなんて、絶対にそんなことはない…


元世界王者よ… 勇気ある男よ… 


あなたは「ひとりぼっち」なんかじゃ絶対にない…


そして、先に書いた藤掛選手ですが、彼は「奇蹟の復活」を果たす。生死の淵から還って来た。そんな藤掛選手の現在の様子をボクシングマガジンで読んだ時は本当に嬉しかったですね…


もうボクシングはできなくても、プロボクシングのリングで培った『ボクサーだけに与えられる特別な叡智』を生かして『新しい人生』で戦っておられるのだと思う…


リング禍…


ボクシングが好きなだけではダメだ。これらの悲劇と「観戦者」も無関係ではない。


レフェリーのストップが早過ぎた…なんて思わず言いたくなる試合も時々あるが、それを極端になじるのもいけないのかもしれない。だって、目の前で「息遣い」を聞きながら、そのボクサーの「目の輝き」を確かめながらレフェリーはその刹那に「判断」を下しているのだ。それは重く受け止めるべきだ…


ただし、レフェリーの皆さんにはその判断の「精度」をさらにさらに研ぎ澄まして欲しいし、より切磋琢磨しなければならない…


ボクサーたちの「切実」に水を差すようなレフェリングやジャッジは見たくないし失礼である…


そして、僕たち観戦者も、ある程度、その「切実」を受け入れる腹づもりを以ってボクシングと向き合う必要があるのだと思う…


これは義務ではないが、僕の求道する、僕の希求する「ボクシング観戦道」には、それは必須である。


御愛読感謝


つづく


追記… ここに、「脳死判定」後のチェ選手にまつわるコメントを添付します。


崔選手は法定死として扱われたそうです。崔選手は肝臓、腎臓、心臓、角膜などを寄贈し、6人の末期患者に臓器移植の手術が行われたそうです。不思議なことに、臓器を移植すると提供者の記憶が伝播することがあるそうです。崔選手の臓器提供を受けた方々の目に、崔選手の見つめたものがよぎることはあるのでしょうか。合掌