―――ユカの異変に気付いた俺はかるく肩を揺する。
「おい、どうした?大丈夫か?なにも怒ってないから謝らなくてもいいよ…?ね?」
俺の声が聞こえていないのかユカは謝罪の言葉を続ける…。
「…ごめんね…ごめんね…パパ…ママ…」
“パパ?ママ??”
「ごめんね…パパ、ママ…ちゃんとお手紙読んでくれた?…きっと…きっとわかって…くれ…る…よね?…グスッ…ヒック…ごめん…ね」
肩を震わせながら、大粒の涙をこぼしはじめる。
俺はそんなユカを前に、“今ならユカの秘密を聞けるかもしれない…”と考えていた。
そして“これはユカのためなんだ”と自分に言い聞かせ…いや誤魔化して…姑息な手段と知りつつも俺は気持ちを抑えられなかった。
“何をやろうとしてるんだ…俺は…”
良心の呵責に苛まれながらユカの父親を演じる。
「手紙読んだよ、でもどうして家を出たんだい?パパもママも心配してるんだよ」
「…うぅ…グスッ…ごめんなさい…でもわかって、これは“私が私であるため”なの…もう…決めていたことなの…手紙にも書いてた…でしょ?」
“私が私であるため”だって…?
「うん…わかっているよ、でもね…私達にはおまえが必要なんだよ、怒らないから帰っておいで」
「…そ、それはわかってる…でも…もう戻れないの…もう始めてしまったから…後戻りは…できないの…パパ達は…知ってたんでしょ?私は…私はっ!!…」
全てを聞く前に俺はユカを抱きしめていた…強く。
“これは今聞くべきじゃないっ!ユカが自分の意志で俺に話してくれるまで…聞いてはいけないっ!!”
「わかったっ!わかったから何も言うなっ!!頼むから…もう…言わないでくれ…」
俺の腕の中で顔を埋めしきりに“ごめんなさい”を繰り返すユカに“大丈夫だよ”と応え続けた。
どれくらいの時が経っただろう。少しづつ落ち着きを見せ始めたユカに水の入ったコップを渡す。
ソファーに身をあずけたままユカはコップを受け取って一口含み、ふぅ…と息をつく。
「大分、酔いは醒めたみたいだね…気分はどう?」
「ごめんね、hid…変なこと言って、気にしないで…さっきのことは忘れて…」
「そんな他人行儀なこと言うなよ、俺はねユカのこと好きだよ…だから…もっと君のことが知りたい…だけど…さっきのは卑怯だった…ごめん」
「…えっ?hidが…私を好き?
私はあなたにいっぱい迷惑かけてるし、素性も明かしてない…そして…大事なことは何にも話してないのよ?」
「確かに君は隠し事が多い…だけど…それでもユカはユカだよ。それに君はここに来てから一生懸命俺に尽くしてくれている…わかってるんだよ」
そう…ユカは食事の用意はもちろん部屋の隅々まで掃除をしていたのだ。
「やっぱりバレてたんだ…」
「まぁ…ね、俺はこまめに掃除するからね…少しづつ物の位置が変わってたから気付いたんだ」
「…だと思ったわ、おかげでとっても楽だったし…でもね、hid…感謝なんてしなくていいのよ、これは私が…私のためにしたことだから…」
ユカが何かの目的をもってここにいるのはわかる。
そしてユカの言動や所持品からみてそれがあまり良い事ではないことも…でも俺は溢れる感情を抑えきれなかった。
「君がどんな理由でここにいるのかは正直…わからない、でもそんなことどうでもいい…俺はユカのことを本当に好きになってしまった」
「そんなはずない…あなたは頭のいい人だもの…きっと見当はついてるはず…そして私を好きなことも嘘…」
ユカの悲痛な気持ちが伝わってくる…
俺はユカの気持ちを慰めるように、そっと抱きよせ唇を重ねた。
「ごめん…ユカを好きな気持ちだけは嘘ではないみたいだよ…」
俺の言葉を聞いたユカは嬉しそうにでもどこか淋しげな表情で抱きついてきた。
「hid…私も…私もhidが好きっ!でも私達は絶対幸せになれないのっ!!だから私…誰も好きになっちゃいけない…そう分かってた…分かってたのに!」
また大粒の涙を流し始めたユカをもう一度抱きしめ唇を重ねる…。
落ちついたユカを眠りにつかせ、一人リビングに戻った俺はグラスに酒を注ぎ一気にあおる。
むせ返すような感覚に胸元を押さえると、びしょ濡れになっているシャツに気付いた。
涙の跡が…熱い…―――
《語られた決意》終りっ!!
次回《重なる想い》へ続く…といいな…。
