―――ユカが指差した棚には…褐色のボトルが飾ってある。
「これのことかい?」
「うん、それ。これってお酒だよね?hidってお酒とか飲むの?イメージと違う」
「俺だって酒ぐらい飲むさ、しかし正直なところあまり好きじゃないし、あまり強くないんだけどさ」
「えっ?じゃぁなんでいつまでも持ってるの?嫌いなら誰かにあげればいいのに…」
「たまぁーーにチビチビやるんだよ、それにこのボトルの形状がとても気に入っててね。な?ダンディな感じでカッコイイだろ?」
「…まぁ確かにいい感じだけどぉ、勿体ない気がするわ?」
「だからたまに飲んでるんだって!それに結構高価なんだぞ…」
「そうなの?じゃぁさ今から晩酌とかしちゃわない?」
「“高い酒”につられたか?本当に簡単には手に入らない代物…らしいが、まぁいいか久しぶりに一杯やるか」
「うふふ…やったぁー!!私、お酒初めてなのっ!楽しみぃ~っ!!」
「おいおい…大丈夫かよ…まぁいいか、ちょっと待ってな、おつまみ用意するから」
そう言って冷蔵庫にあるありあわせの物でおつまみ製作開始。
ふと気付くとユカが後ろで見ていた。
「おっ?なんだ見てたのか?」
「うん、hidってスゴいねぇ、手際いいしまるでプロみたい…感心しちゃうわ」
「正直料理には自信があったけど、君には負けるよ…悔しいけどな」
「あはっ、ありがと。お褒めにあずかり光栄ですわ」
さて、普段俺はロックでいただくのだがユカには無理だろうと考え水割りを用意する。
食器棚から二種類のグラスを取出し、少し大きめの氷をアイスピックで球体に削る。
これは行きつけのバーでマスターから伝授された“ダンディな酒の飲み方”の一つだ。
「すごいっ!!hidってなんでも器用にこなすのね!やっぱり私の目に狂いはなかったわ!!最高の彼氏ねっ!!」
「どういたしまして、俺の最高の彼女(仮)さん」
「…性格にはやや難があるみたいね」
「それはお互い様じゃないのか?」
「もぉー!本当、イジワルなんだからっ!」
そんな言い合いをしているうちに準備が終わりささやかな宴が始まる。
―カチンッ、と小気味よいグラスの音。いただきますの掛け声と共に一口、喉の奥に焼けるような感覚を感じながら舌の上で風味を味わう。
ユカはというと、両手でグラスを持ち意を決したような面持ちでグッと一気に飲み干した。
「おいおい…一気に飲んだらダメだよ、いいお酒なんだからもっと味あわなきゃ」
「うげぇ~何これぇ?美味しくないよぉ?何と言うお酒なのぉ?」
「これはブランデーといってワインを再醗酵させて造るんだ、比較的飲みやすい…らしい、ま、好みは人それぞれだから何とも言えないけどね」
「うぅ~…これが大人の味って奴ね…もう一杯くらはい」
「ろれつがまわってない上に顔が真っ赤じゃないか?止めとくか?」
「hidらって赤くなってるくせにぃ~私は大丈夫らよぉ?らからしゃっしゃとおかわり作ってくれろぉ~」
「酔っ払いほど大丈夫だと言うもんだ、俺はその辺わきまえてるからね、紳士の嗜みってやつだ」
しかしユカの剛情なおかわり要求に屈してしまい渋々グラスを受け取る。
―カランッ…チェイサーでかるく掻き混ぜ二杯目の水割りをつくる、勿論一杯目より薄めに。
「おーい、おかわりできたぞー…って、おいっ!?何、俺の飲んでるんだよっ!?」
そこには俺が1/3ほど残していたブランデーのロックに口をつけているユカの姿があった。
「…コクン…う゛っ…ケホッ!ケホッ!…にゃにこれぇ~!?うえぇ~…ケホッ!」
「あぁ~もう!!俺が折角水割りにしてやったのに…これじゃ意味ないだろ!?」
「うぅ~ごめんらはい…」
「いいから、大丈夫か?気持ち悪いのか?」
『…ごめん…許して…お願い…』
「ん?ごめん?」
へんな違和感を感じた俺はユカを見つめた。
うつろな眼差しで遠くを見つめる彼女は薄く唇を開いて突然語り始めた――――
《若奥様!?と晩餐》後編終わり。
次回《語られた決意》に続く!?
