―――暫らくしてマンションの扉の前には二人の姿があった。
「な、なんで…は、走らなきゃ…い、いけ…ないわけ?」
肩で息をする彼女。
「ん?ああ…雨も強くなってきてたしね。」
たいして長い距離を走ったわけでもないのに…
「わ、私は…運動とか…ちょっと…苦手…なの…」
「あら?そうなの?それは悪かったね。」
たいして悪怯れもせず謝罪してみた。
深呼吸して落ち着きはじめた彼女を横目に扉を開ける。
「さぁどうぞ。」
おずおずと彼女が入ってくる。
「おじゃましま~…っ!?」
部屋の中を見渡し…
「へぇ~っ!!結構いい暮らししてるじゃないっ!!」
「俺はこれでも稼ぎはいいのさ。」
「男の人の家って、ん~と、もっと、散らかっててさ!生活感が溢れてるぅってイメージだったのに!!」
…世の男をひとくくりにするんじゃない…まったく…
「世の中にはおれ様のように綺麗好きな男もいるんだよ。」
俺は“世の男性”のイメージアップに貢献したな、と一人悦に浸りながら彼女の方を見ると…
あれっ!?いないっ!?
すると、部屋のなかを興味深げに徘徊する彼女の姿。
…自然に眉間を指でおさえていた。
「おいっ!!何してんだっ!!さっさと濡れた服を着替えろよっ…て、着替え持って無さそうだな…ちょっと待ってろ。」
ジャージでいいかな?
”ワイシャツとかなら視覚的には申し分ないな…”
と、やや卑猥な想像をした俺を誰が責められようか。
しかしここは紳士たる振る舞いを見せてこそ… 少々惜しみながらもジャージとタオルを渡す。
「バスルームはそこだシャワーを浴びて着替えろ。」
「ぁ…ぅん…その…ありがと…」
「…しおらしいお前は気持ち悪いな。」
「なっ、何よ!人が素直にお礼言ってるのにっ!!私見てたのよ!、さっきワイシャツ持ってブツブツ言ってるの、どうせ私がそれに着替えた姿を想像してたんでしょ!?」
「なっ、なんだと!!俺の厚意を無下にするのか!?嫌なら今すぐ出てってもいいんだぞっ!!」
「なによっ!!」
「なんだよっ!!」
…にらみ合う二人
彼女は不意に背伸びをし…!?ほのかに感じられた冷えた唇の感触…。
”キスされた?”
「この勝負、私の勝ちねっふふっ、間抜けな顔しちゃってぇ~。」
ちっ…こんな小娘に…
まぁ落ち着け、欧米諸国では挨拶と同じこと… 深い意味はないはずだ。
「はいはい、ごちそうさま。それより早く着替えろよ、風邪をひかれて、俺のせいにされちゃかなわんからな。」
こくりと頷き、バスルームに向かう彼女。
しばらくして…
そこには一糸纏わぬ彼女の姿が!?
てなことはなく…
ぶかぶかのジャージ姿の彼女がいた。
「コーヒーでいいか?ビールはまずいだろ。」
「ぅん…コーヒーでいい…。」
本当は豆をひいた方が好みなのだが…しょうがない今日はインスタントにするか…。
コーヒーのいい香りが部屋に広がる
「はい、どうぞ。」
「どうも…。」
「砂糖は?」
「五つ、私、苦いの嫌い。」
何っ?成人病まっしぐらだな…。
しかし人の好みだ、ここは抑えよう。
などと、考えつつも自分のカップにも角砂糖を三つ…。
両手でカップを持ち、ふぅふぅとコーヒーを飲む彼女の少女のような仕草は、やはり俺の恋愛対象ではなかった。
なかった?うんうん、ありえない…
しかし…キスされたぞ…
いや…だから…それは欧米諸国では…
「さっきから、何ぶつぶつ独り言なのよ?全部聞こえてるわよ!」
うっ…うるさいッ!
”初めての夜”、後半に続く!
