――僕の差し伸べた手を触れることなく
君は虚空を見つめていた
その視線の先にあったものは…
束縛への恐れ、自由への憧れ…
それと…
僕の視線の先にあったものは…
何にも揺らぐことのない君の意志だった――
「まったく…天気予報もあてにならんな」
俺は強まる雨足の中を走ることを余儀なくされていた。
「ん?」
路地で雨に打たれ、たたずむ人影に気付く
「お…女……の子…?」
“ずぶ濡れで何やってるんだ?
関わるのは面倒だ…
接するのは得策ではないな。”
そう思いながらも、なぜだろう?俺は彼女の前に立っていた。
そして…声をかけていた。
「えっと…あのキミ…何…してるの…かな?」
動揺を隠せない俺は、間抜けな問いをなげかけていた。
「…………………」
「…あれ?もしも~し…聞いてる?」
今まで俺を風景の一部としか見ていなかった少女の焦点がさだまる。
「………何?」
”おいおい、目の前で話しかけてんだからさぁ、何?はないだろ”
まぁ待て、見たところ制服を着てるし学生…
未成年か?ここは大人の対応とやらをみせてやるか…。
「あのね、君、見るところ学生みたいだけど、ここで何してるの?まさか家出?
このへんだって物騒なんだからさぁ、おウチに帰りなさい…」
「プッ!」
少女は口を尖らせ小ばかにした笑みを浮かべた。
「いいわ決めた、私、あなたに決めたわ」
「は?え?」
何だこいつ!?
しかもすんごい上から目線だし…
俺を値踏みするようにじろじろみてる…
「だ・か・らぁ…私、あなたに決めたの!う~ん、何ていうの?結構イケメンだし!
そのわりには誠実そうだし!!悪い人ではなさそうだし、ね?」
“ね?”って…
俺の方が尋ねたいよ…
その前に会話が成立していないし…こりゃやっちまったか?
「あのね、“あなたに決めた”とか訳わかんないし、
第一、俺は“選んでくれ”なんて頼んだ覚えもないんだけど?」
無駄だと感じつつも正論をぶつけてみた。
とりあえず会話を成立させないと説得もできないし…
「まぁ、そうね…でもいいじゃないそんな些細なこと、
それより私を保護してよ、あなたの家ってこのそばなんでしょ?」
確かに間違いじゃない、俺の家はここから目と鼻の先、なかなかの洞察力、ちょっと感心。
”いやいや感心してどーする!”
「…仕方がない、もう暗くなってきたし、こんなとこ誰かに見られるのも嫌だし、これも人助けだと思ってこの生意気な小娘を保護してやるか。」
「何?、そのトゲのある言い方?しかも心理描写を口に出すなんて女々しいわね…」
「くぅぅ… 俺は別に君を助ける義理はないんだが?」
「何よ、私を助けてくれないわけ?こんな可憐な乙女を放っておくつもり?」
「助ける助けないは俺が決める、それに君は少々礼儀というものが足りないようだな。」
「んん…もー!わかったわよ!
えと…その…事情がありまして少々困っております、お願いですから私を助けていただけないでしょうか?」
「ま、いいだろう。」
「なんかムカつくわ」
「負けっぱなしは性に合わないんでね。」
彼女をよく見ると微かに震えてるようだった、唇の色も変わってる。
堂々巡りの会話は早々に終らせたかった。
俺自身もずぶ濡れで寒くてたまらなかった。
結果的には彼女の思い通りなのだろうがまぁいい…
「キミの察しの通り、俺の家はすぐそこだ。走るぞっ!」
全てを言い終る前に俺は駆け出していた。
「ちょっ、ちょっと待ってよ!!」
”さて、どうしたものやら…”
思わず呟いてしまったが後悔はしてなかった…と…思う…
これが彼女との出会い、忘れられない5日間の始まりだった。
続く…
