「覚えることが多かったり、勉強しないとついていけないから、
負荷が大きくて、若い人が辞めていくんでしょうかね・・・」
先日、ある医療機関の方から、このような主旨のご相談をいただきました。
確かに医療・介護の現場は、
専門知識、業務手順、患者・利用者への対応、多職種との連携、
記録、リスク管理、イレギュラーへの対応と覚えることが少なくありません。
仕事を覚える負荷が、離職の一つの要因になることはあると思います。
ただ、覚えることが多いのはどこも同じ条件です。
それでも新人が辞めない病院と新人が辞める病院では何が違うのでしょうか。
その差は・・・
負荷の「質」
にあると考えています。
オーストラリアの教育心理学者ジョン・スウェラー氏が提唱した 認知負荷理論(Cognitive Load Theory) によると、
人間には情報を一時的に処理するワーキングメモリがあり、その容量には限りがあると言われています。
仕事を覚えるときに負荷がかかるのはある意味当然のことです。
ただし、負荷が容量を超えると、人は情報を処理しきれなくなり、理解も定着も落ちてしまいます。
能力が下がるわけではなく、処理しきれなくなるのです。
一方で、負荷そのものは悪いものではありません。
「なぜこの対応をするのか」「前のケースと何が違うのか」と考える負荷があるから、仕事への理解は深まります。
やはり負荷ありきで人は成長していくものです。
実はこの認知負荷理論では、以下のように負荷を3つの種類にわけています。
①課題内在性負荷(Intrinsic Load)
これは仕事そのものが持つ難しさを指します。
これは「なくす」のではなく、「扱える単位」に分解することが肝要です。
②学習関連負荷(Germane Load)
知識の定着やスキーマ(思考の枠組み)の構築に向けられる、学習に有益な負荷を指します。
これは非常に重要なので十分な時間を確保したいところです。
③課題外在性負荷(Extraneous Load)
これは分かりにくい教材の設計や無駄な情報など、
学習に直接関係しない要因によって発生する無駄な負荷を指します。
このような、仕事を覚えることとは関係のないところで頭を使わせてしまう「余計な負荷」は、極力減らしていきましょう。
簡単にいうと、
人が定着する組織は、①の必要な負荷についてはスモールステップで知識・技術を獲得させ、
②で知識の定着化を図りつつ、③の無駄な負荷を極力減らしています。
反対に、人が定着しない組織は、①の必要な負荷がスモールステップになっておらず、
②で知識の定着のための時間を確保できず、③の無駄な負荷が図らずも異常に高いことが多いです。
実際、人が辞めていく組織にはこの「余計な負荷」が現場のあちこちにひそんでいます。
Aさんは「まず声をかけて」と言い、Bさんは「先に記録を確認して」と言う。
AさんとBさんで言っていることが違うというダブルバインドが起きていて、
新人は「結局どっちなんだろう」と考え込んでしまいます。
また、ミスのたびに「前にも言ったよね」が増えれば、
新人は仕事を覚えることより「また怒られないように」ということに頭を使い始めます。
不安に頭を占められると、考える余裕は確実に減ります。
本来、仕事の習得に使えるはずの力が、こうして奪われていくのです。
①に照らし合わせて、「このくらい大丈夫だろう」と思っているものをさらにスモールステップにしてみる。
②に必要な時間を確保してあげる。
③に照らし合わせて、とにかく教える人のブレをなくす。
こうしたことをやってみるだけでも、思いの外大きく変わるはずです。
ぜひ、試してみてくださいね!
人事コンサルタント
金森秀晃
