小説「神田 直子/ようこそ!私の奇跡」第20話(逃飛行、そして覚醒 その1) | ひでおん

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適当によろしく~

前回までのあらすじ

 

神田直子(37)は中国出張からの帰国便で大事故に遭ってしまったが、

ひと月もの昏睡状態から奇跡の生還を果たすことが出来た。

 

そして、直子は事故の影響からなのか高度な読心術を手に入れる。

さらに、意に反する第二の能力で駅まで送迎してくれた山田さゆりを病院送りにしてしまった。

 

小さな二人のアラヤダ星人が、あの事故で転落した直子の頭に入り込んだからなのか?

 

地球から数光年先にあるアラヤダ星には超高度な文明を持つアラヤダ国がひとつだけで世界を統一していた。

下男のバモスとテレサ王女の恋は発展していったが、テレサのことが心配な父親のヤダ王が兄弟を招集した会議は、ただの宴会になってしまう。

 

博士が捕まえてきた雷神バァルナの恐るべき力で、バモスは死んでしまったのか?

 

 

「良かった、良かった、夢なんだ~ 恐ろしかった。もう不老不死なんて研究は止めだ」

「そうです、夢で良かったんです~ わ~ん」

「でも、エルはいないぞ、やっぱり雷神に飛ばされたんだ! バ、バモス君はどこだ?」

 

「バモス――」とふたりは大声で呼んだ。

 

 

「神田 直子/ようこそ!私の奇跡

第20話 (逃飛行、そして覚醒 その1)

 

 

バモスは研究所の中にある、特別治療室に寝かされていた。

 

雷神バァルナが立ち去った部屋の片隅に丸裸で横たわっていたバモスは呼吸をしておらず心臓も完全に止まっていた為、死んでしまったと思われたのだ。

 

「む、むっ! こ、これは…… 雷神の角(つの)に違いない!」AI医療診断装置に接続されているバモスの体内を鮮明に映し出している画像を見ながら博士は唸(うな)った。

 

胸の中央に差し込まれた角の破片が、本来なら心臓と繋がれている大動脈と結合していたのである。角から出ている微粒子(びりゅうし)が、血管内へ流れていくのが見える。

 

医療診断装置には「生死判定不可能」と表示されたままだ。

 

「ど、どういうことなんですか?」泣きじゃくり、目を真っ赤に腫らしていたテレサが聞いた。

 

「簡単に言えばだ…… つまり、バモス君は死んでない! 生きているんだ!」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「だ、大丈夫だ。すぐにでも目覚めるはずだ」とテレサの手を取りバモスの胸にのせた。

 

「あ、熱い…… ものすごいわ」

(生きていてくれて本当に良かったわ……)と思った時、「きゃっ!」悲鳴をあげ、痺(しび)れるショックに飛び上がった。

 

同時に診断装置がボンッという音を鳴らしモニターが真っ暗になってしまった。

 

「なんだ、何が起きたんだ!」と言った博士の傍らで半身起き上がったバモスの体から青白く光る電解が発生してバチバチと鳴っていた。

 

雷神バァルナの洗礼を受け、その雷力(らいりき)(注1)が覚醒したのであるが、この時は、まだこの力の使い方を知らなかった。

 

 

そして後から気がついたのだが、驚いたことに全員のヘソが無くなっていた。

まるで生まれた時から無かったようにツルリとしているのだ。

 

 

 

 

バモスも元気になり、研究室に平和が戻った中でアラヨ博士は猛省していた。

 

(私が雷神を捕まえて不老不死を叶えようなんてことを考えていたから、とんでもない事になってしまった…… これからはアラヤダ国の平和の為の研究にすべて捧げて生きよう…… それから、この二人を応援してあげないと…… それには、まず私の嘘の謝罪をしないとな)

と思っていた博士は疲労の為か、雷神に殺されるお仕置きの悪夢からの後遺症のせいなのか、ぐったりと寝込んでしまった。

 

死んだように寝て目が覚めた時には自分自身でも分かる変化に惑わされていた。

 

(あ~ きっとあの恐ろしい雷神がまた来るぞ、また私の内臓を、わし掴みにして引き抜きに……)という恐怖心は常に頭から離れない。

(誰か?に謝らなければいけなかった…… それは何のことだった? うっ、頭が痛い)

バモストテレサに本当のことを伝えなくてはいけない。会話を改ざんしてしまったことを詫びないといけない。しかし、それを思い出せなかった。

 

「どこにも行きませんよ、あの娘が幸せなら貴方にも幸せが訪れますよ…… そしたら早いけど、孫も出来るかも知れないしね」

 

「ま、ま、孫~かあ~ それなら祝福だな~ ナニー酒だ! 祝い酒!」

 

と酔っ払ってはいたが、ヤダ王もアラ王妃もふたりのことを祝福している事実と録音していることさえ忘れてしまっているのだ。

 

しかも、その健忘症は大事な研究にも大きな影響が出ていたことを博士には知る術(すべ)もなかった。

 

そして、バモスやテレサも博士の様子がおかしいと気がつき始めたのは、博士の愛犬エルの話題になった時だ。

 

「ところで、バァルナがエルを地球に送ったと言ってましたが、地球とは何処にあるのでしょうか?」

 

「えっ? バモス君は良く知っているなあ~ 地球はここから数光年も離れた銀河系にある星だよ。だけどエルってなんだ?」

 

「い、いやだなあ……、博士が飼っていた犬じゃないですか。地球から連れてきたとか?と雷神が言っていた。テレサを救ってくれた博士の愛犬です」

 

「雷神…… うわっ! やめてくれ!その名前を聞きたくない! そして、そんな犬は知らないぞ、だいいち私は地球などに行ったこともない!」と真面目な顔つきで返された。

 

最初は恍(とぼ)けているのかと思っていたが、他に任されている実験の進め方のことでも同様に知らないと言われることがあった為、これは雷神によるトラウマの影響が確実に出ていると思った。

 

博士は突然大きな声で「助けてくれ―― 不老不死の研究は二度としません!」と叫ぶことが増えてきたのだ。

 

「困ったなあ~ 博士の健忘症を治す医療機器があったはずだが、開発者当人がそんなものがあるのか?あったら凄いぞ!なんて言われるし……」

 

 

 

 

 

そんな困惑した状況下で、突然のごとく研究所に大きな揺れが生じた。

 

「地震だ!」その揺れは長く、いつまでも続き収まらない。

 

「ど、どうしたんだ! この研究所が揺れるのは、おかしいぞ。アラヤダ国一の耐震構造建築なんだ」

と博士が地殻変動分析装置を立ち上げてさらに言ったのは、

 

「これは…… 地震ではないぞ!」

(どこからボケて、どこからが、まともなのか分からない人だな……)

 

その時、研究所内への緊急避難アラームが響き渡った。

 

そして次の瞬間、研究所の3重防御ガラスが真っ白になり、ピピピピピッと細かいひび割れが全体に広がったのだ。

 

「こ、これは攻撃だ! 誰かが核爆弾を落とした!」博士が大声をあげた。

 

それは、アラヤダ城を目標とした反乱軍が放った核爆弾の風圧の影響で数10キロ先の研究所へと広がったのだ。

 

「逃げるんだ! バモス君! テレサ王女を連れて行くんだ!」 

 

 

(注1)雷力(らいりき)は、作者の造語。

電気を操る能力。

 

21話へ続く

 

 

主な「登場人物」

 

神田直子:物語の主人公 37歳

神田正志:直子の夫

バモス:アラヤダ星人

テレサ:アラヤダ星人、アラヤダ国の王女

アラヨ博士:大学の研究所の博士

愛犬エル:博士の飼っていた犬でバァルナの力により地球に送られた

雷神バァルナ:アラヤダ星誕生と同時に生まれた神

その他

 

 

登場人物のたわごと

 

 

直子「アラヤダ国にも、お正月なんてあるの?」

 

バモス「新年を迎えるということなら地球と同じだよ」

 

直子「新しい年の始まりをお祝いするんだよね」

 

バモス「1年間で一番おめでたい時だからね。だから今日は、変なこと言わないでよ」

 

直子「な、何よ~ いつも私が悪いみたいに言うじゃないの!」

 

テレサ「待って、待って~ 今日は止めてよ~ 仲良くしてね」

 

直子  「分かったよ~」

バモス  「分かったよ~」

 

直子  「ハ、モ、ル んじゃない!」

 

テレサ「あはっ なかよし~  それでは皆様~ 来年もどうぞ宜しくお願い致します~」

 

 

おまけのはなし

「今年の漢字」

 

「今年の漢字」とは、その年の世相を表す、日本語漢字を一字を公募して、一番応募数の多かった漢字に決まる。

 

1995年始まり毎年12月12日(漢字の日)に発表される。

 

2023年「税」に決まった。まあ順当ですかね。

 

でもね

ひでおんが、2023年の世相を表す漢字なら、これでしょ!思ったのは、

 

「隠」(いん)!

隠す、隠蔽(いんぺい)の隠です。

 

 

政治家は今年に限らないが常に国民に真実を語らない。隠す!誤魔化す!万年の隠蔽体質。

 

企業もジャニーズ問題、ビッグモーター、ダイハツ、食肉偽装 等々とてんこ盛りの驚きの1年でした。

 

世の中は日常的に隠蔽が蔓延(はびこ)っているので、すごく寂しいなあ~と落ち込んでしまったよ。

 

この「隠」は2023年の20位までのランキングには入っていなかった。

 

 

来年は、明るい漢字が選ばれて欲しい

 

 

作者からのお礼

 

コメントありがとうございます。元気と執筆パワーを頂けます!

 

アラカンおやじ、人生初挑戦の小説を執筆中です。

 

 

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。