1995年7月16日。日本テレビ系「報道特捜プロジェクト緊急検証!」は村井事件で逮捕者を出し、解散した羽根組の”元幹部”を出演させ、事件の真相に迫った。
「報道特捜プロジェクト緊急検証!」(95年7月16日放送)
映像の前半部分はネット上に投稿され、誰でも視聴することができる。
ところが番組中盤、羽根恒夫元組長の抗議が入りゲスト全員が唖然とするハプニングが起きた(詳細は後述)。
●動画内容

ナレーター「捜査当局やマスコミ注目のまっただ中で刺殺された村井幹部。事件から3ヵ月が経とうとしている今なお真相は闇の中である。
現行犯逮捕された徐被告の背後に広がる、巨大な闇。
それを追う取材班の前に、一人の男が現れた。」

若頭補佐「依頼されとった社長の名前ですか?その名前私聞いてますよ」
ナレーター「事件の核心を知る男、A氏。彼は今日この番組に生出演!
真相を全て明らかにする!」
辛坊治郎司会「さて、実は今日のテーマの一つであります村井幹部の刺殺事件なんですけれども、まぁ今日は逮捕状が執行されます松本サリン事件でもね、重要メンバーとして名前が挙がっているんですが、それだけにこの人は殺されたということで、ここに大きな今後障害が出てきそうなんですけれども、実は今日、生で証言をいただく…方、このAさんなんですが、このAさんは、今回真相を知る人、ということで、ちょっと回線が繋がってます。」
司会「Aさん!」
若頭補佐「ハイ?」
司会「えーどうぞよろしくお願い致します。」
若頭補佐「どもー」

司会「で、このAさんっというのはどんな方なのかというのをちょっとこちらで紹介しようと思うんですが、山口組の傘下でありました羽根組の、No.3でいた人です。
えー若頭補佐という立場であった人なんですが、今回の事件では、村井幹部は徐被告に刺殺された、これは目の前で行われてますから、これは本人も認めてますね。で、上峯被告が命令したと徐被告は告白している、Aさんは実はこの上峯被告に事件の直後に事件の全貌について話を聞いていると…いうことなんですね、Aさん!」
若頭補佐「ハイ」
司会「ずばりお伺い致します」
若頭補佐「ハイ」
司会「貴方は今回の事件について何処までご存知ですか?
若頭補佐「んー全てですかね」
司会「全てご存知!」若頭補佐「ハイ」
司会「背景を含めて全てご存知ですね、その全てを今日語ってくださいますか?」
若頭補佐「…そーですね、ハイッ」
司会「そうですか」若頭補佐「ハイ」
司会「えぇ、それでは順を追って今回の事件、村井幹部刺殺事件を見てまいりたいと思います。」
鷹西美佳アナウンサー「はい。VTRどうぞ。」
ナレーター「4月23日午後8時半。村井秀夫幹部が刺され死亡した。逮捕されたのは山口組系羽根組組員、徐裕行被告。当初彼は右翼団体神州士衛館の構成員を名乗っていた。
神州士衛館とは、その後殺人の共犯で逮捕された羽根組No.2、上峯憲司被告が作った、殆ど実体のない政治団体。
上峯被告による羽根組隠しの擬装工作であった。
ー擬装工作の真相ー
事件当日の夜、伊勢の羽根組本部にいたA氏に上峯被告から電話が入った。

(回答する若頭補佐。高英雄の通名も確認できる。)
若頭補佐「ミネ(上峯)自身から、電話あったんです。向こう…開口一番…テレビ見たかと。んー見たよと。とにかくあの、田中(徐裕行)いうんが、神州士衛館名乗っとるから、それから藤田(善勝)と、おまえー館長だからと、高山(高英雄)を通じて、去年の…12、12、12月でええと、日にちははっきり言わなくていいと…あのー紹介されて、(徐が)入りたい言うんで、入会させたと、それから米倉(米倉雅典)、村田、お前らは、それから藤田は知らん訳ですよ、徐ちゅうのは。」

(別件逮捕された米倉雅典の名前も登場。)
上峯被告の指令でA氏は神州士衛館幹部3人に伝えた。
それは「徐を神州士衛館の構成員だったことにしろ」というものだった。
若頭補佐「おそらくサツ(警察)行ったら、ねぇここで聞かれる部分あるから、俺が今言うたように、言えと。」
ナレーター「午前二時半、村井幹部は息を引き取る。」
上祐怒りの会見が流れる。
若頭補佐「三時前ですかね。私の携帯に事務所の方から電話が入った。伊勢の暴力(伊勢署の暴力団担当)が…連絡くれ言うてと…んですぐ電話入れたんですよ。えらいことやと、(村井が)死んでもうたと、それで私もびっくりしましたね。えぇ…往ってしまった、ああそうですかと。(警察が)聞きたいことあるっちゅんで今直ぐ来てくれと、ハイわかりました、って」
ナレーター「口裏合わせの工作を住ませたA氏は神州士衛館のメンバーを伊勢署に出頭させた。
しかし擬装工作は見破られ、ほどなく徐被告と羽根組の関係が明らかになる。そして羽根組は解散。」
若頭補佐「あれ(上峯)が起こした事件に対してですよ、あれ一人のために結果何十人ちゅんがけか、路頭に迷うしですか、ね、その件に関してはかなり……腹立ってるてゆうか、上手く言えないですけど」
ナレーター「明けて4月24日早朝、上峯被告が伊勢の羽根組本部に現れた。」
若頭補佐「24日の…6時ぐらいですか、(上峯は)意気揚々というですか。いつもは暗いゆうか、無口な方でしたがね。その日に関しては意気揚々というんです。…その、『どうやぁ』みたいな感じでね。ね、ニコニコニコニコしとったですよ。」
司会「つまり、どういうことかと言いますと、A氏はですね、上峯被告に頼まれて、徐被告が右翼の構成員であるというふうに証言してくれと、その右翼と地下で交渉している人物、Aさんそういうことになりますね?」
若頭補佐「そうですね」
司会「Aさんが指示を出した?」
若頭補佐「そうです」
司会「Aさんに指示を出すように言ったのは上峯被告なんですね」
若頭補佐「そうです」
司会「上峯被告は現在のところはですね、そういう容疑を全面否認している状況なんですが、
おれについてはどう思われてますか?」
若頭補佐「いや、その方面では全然私は感知していません」
司会「はー」
若頭補佐「ハイ」
司会「当然のことながらそれは嘘をついているという風に思いですよね?」
若頭補佐「そうですね」
司会「えー今日はやっぱり尋問の専門家でいらっしゃいます東京地検特捜部、えー元東京地検特捜部長の河上さんに来て頂いてます、河上さん、いかがですか?今回の証言。」

河上氏「んー、まぁあのー、何と言うか。全容をおっしゃってる訳ではなくてね、ごく一部だけですよね、今まで言われていることは。ですから、あのー、完全にはよく掴みきれないんですけどね。
司会「実際問題として上峯容疑者に直接話を聞いたとAさんはおっしゃっているわけですから、これは伝聞ではなくて証拠能力あります、ね?」
河上氏「いやいや、まぁあのー、Aさんが証人として出て、上峯被告がこうこう言ってたっていうのは、これは伝聞供述なんです」
司会「伝聞になるんですか」
河上氏「えぇ、伝聞証言です」
司会「ということは、それは裁判では有効にはならない?」
河上氏「いやいや、それはあのー、伝聞証言であっても、あと警察処方の321条とか22条でも細かなのがあるんですが、まぁ22条ですか、あのー、もちろん証拠としてとることは可能性はあるんですけどもね」
司会「なるほど、では証言としては極めて重要?」
河上氏「いや重要ではありますけれども、ただそれは要するに擬装工作を頼まれたと、ということだけですからね、それ以上に上峯被告が現実問題として、まぁ徐被告に対してどういう風な働きがけをしたのか、あるいは、あー、上峯被告に対して何人がどういう風な示唆をして、それを彼が、まぁ徐被告の方に廻したのか、それのところはまだ全然出て来ない訳ですね。証言では。」
司会「なるほど」 河上氏「ですね」
司会「Aさん、そのー上峯被告に、いー、から聞いた話なんですけども」
若頭補佐「ハイ」
司会「具体的にですね、どういう風に徐被告に指示をしたかという話はしてましたか?」
若頭補佐「そーですねー、その村井を………………せいと、まぁそういうふうですよね、ハイ」
司会「その、先程VTRで意気揚々と、おー、上峯被告は伊勢に組に引き上げて来たと」
若頭補佐「えー」
司会「つまりですね、上峯被告は組にとっていいことをしたということだったんですかね?」
若頭補佐「それはどういうことかというと今回はーそのー、上峯自身の、まぁそういうー、なりゅうことは全て組に言ってます、なりゅうことですからねぇ」
司会「そこで例えば金銭が組にとってメリットはあると言う話はしましたか?」
若頭補佐「いや、金銭云々は聞いてません」
司会「どうして上峯、えー、容疑者、被告はですね、えー、意気揚々と、組に引き上げて来たと思いになります?」
若頭補佐「やっぱりそのー目的を達したと。……そういうー、気持ちがあったんでしょうね」
司会「なるほど」
若頭補佐「本人自体はね、うー、無口なね、うー、暗い人間いうんですかね、えぇ、その日に限ってですね、まぁ日頃見せんような素振りいうんですか。………うーとにかく意気揚々ちゅうですか、もうニコニコニコニコしてですね、やったぞと。…そういう感じに、その素振りですかね」
司会「それが刺殺事件のあった次の日の話ですね?」
若頭補佐「そうですね!ハイ」
(動画はここで途切れている。)
●カットされた映像部分…若頭補佐の嘘
http://i.imgur.com/txwmE6R.jpg

その後も、羽根組若頭補佐へのインタビューは続いた。
若頭補佐「私は事件のすべてを知っている。身の危険を感じてはいるが、組を解散に追い込んだ上峯被告が憎い」
若頭補佐「事件の翌日に山口組本部に出掛けた羽根組組長(羽根恒夫)が帰宅後に上峯被告と密談した」
さらに、上峯被告に村井の殺害を依頼した人物として、上峯被告の弁護士等を手配した会社社長の存在を明らかにした。
日本テレビはこの証言にしたがって会社社長の直撃に成功。会社社長が事件への関与は否定したが、上峯被告の弁護団結成に協力したことは認めるなど、緊迫したシーンが続いた。
ところが突然、羽根恒夫の抗議電話が入り、司会者が急遽、羽根のコメントを紹介した。
羽根恒夫「テレビに出ているA氏は羽根組組員ではない。ある組員との個人的な付き合いで組に出入りしていただけだ」
すると若頭補佐は「まぁ、そうですね」
と手のひらを返すように、あっさり肯定した。
コメンテーター、司会者も「えっ」と絶句。

最初に立ち直った司会者が「あなたは羽根組の組員ではないんですか」と聞き直すと、若頭補佐は「表面的にはです」と実質的には組幹部だったことを強調した。
出演者たち、視聴者共々、皆トーンダウンした。
●打ち合わせ不十分
このハプニングについて、同番組のプロデューサーは「もちろん担当者はA氏(若頭補佐)が正式の組員でないことは知っていたが、実質的な組幹部であることは間違いないため、自信を持って元幹部の周書を使った。生放送中にああいった電話がかかってくるのはまったく予想外」と説明。ただし、司会者やゲストが言葉を失うほど驚いたことについて「この件についての打ち合わせが十分でなかったかもしれない。その点は反省している」と話していた。
ところが、更なる問題が浮上する。
●日本テレビ、若頭補佐に多額の出演料

日本テレビは「報道特捜プロジェクト緊急検証!」で、同じ暴力団関係者に出演料として五十万円を支払った上、家族旅行の費用四十万円を負担した。
日本テレビによると、昨年5月、暴力団関係者からのネタの売り込みがあった。「刺殺事件の背後には政治家がいる」などと話していた。いったんは「証言の信憑(ぴょう)性は低い」と判断した。
その後、TBSが取り上げたのを見て、再度、検討し、「話を聞いてみよう」となった。「番組のネタ探しに苦労していたころだったので....」と関係者はいう。
取材を重ねても信憑性がはっきりしない場合、それを放送してもいいのか。小桜氏は、オウム真理教のかかわりを証明できなかったことを認めたうえで、「やっぱり、あの番組は放送に堪え得るものだった」という。
その理由として、テレビの特性をあげた。「テレビでは、論理で説得するよりも、視聴者の聴覚に訴えることが求められる」
しかし日本テレビは、「金額が高く、家族まで接待したのは問題」として担当部長に口頭で注意しただけで、「出演者はすでに暴力団から絶縁されている」として出演料を支払うのは当然としている。
村井氏殺害事件に何らかのかかわりがあり、事情を知っていた暴力団員だからこそ出演をさせていたのに、これを一般の人と同一に扱っているのは問題がある。芸能人にギャラという出演料を支払うのと、ニュースの提供者にカネを支払うのとはわけが違う。情報の真実性を歪める可能性があるからである。
●羽根組の撹乱工作
週刊新潮の取材で、早川紀代秀と上峯憲司の接点を証言した児玉康夫。
TBS「スペースJ」に出演し、正体不明の人物、Y社長の存在を示唆した羽根組関係者たち。
日本テレビ「報道プロジェクト」で羽根組幹部を自称した若頭補佐。
若頭補佐は、「スペースJ」「報道プロジェクト」両方に登場していたという。
そして、次々と表面化した暴力団への出演料騒動。
一体何故、組員達はこぞってメディアに出演したのだろうか。彼らは本当に真相を語ったのだろうか?そして今回明らかとなった、取材側の杜撰な対応。
メディアは視聴率目当てにヤクザを雇い、ヤクザは多額の金銭を得る。彼らは事件の真相などどうでもよく、面白ければ何をしてもいい、と考えていたのだ。これでは情報撹乱もいいところである。
かつて、オウム真理教もマスコミを悪用し、サリン事件、坂本事件を隠蔽しようと画策した。
はたして、羽根組は村井事件の隠蔽を目論んだのだろうか?
結局、マスコミが騒いだほどには事態が進展せず、村井殺害事件の真相は闇から闇に葬られた。
参考文献:報知新聞95年7月17日朝刊25面
朝日新聞1996年4月18日朝刊33面








