
村井事件は、衆人環視の中殺人が実行された異質な事件である。
犯行の様子はテレビで何度もお茶の間に流れ、徐裕行の残虐な姿に視聴者たちは戦慄した。
NHKと民放在京キー局は、衝撃映像をどのように扱ったか。当時の視聴者の反応を交え紹介する。
■NHK:事件翌日はシーン自粛

NHKでは「八代将軍吉宗」が終わった直後、統一地方選開票速報の時間内に村井が刺された事実を伝え、さらに午後九時前にその際の映像を流した。
NHK広報室は「二十三日夜は速報と言う意味で何度も放送したが、二十四日になってからは、繰り返して残酷さを印象づけることはないという自主的判断から、流す映像は腕を刺されたところまでで止め、致命傷のわき腹を刺す場面は出していない」と話す。
二十三日夜、視聴者から入った電話では「開票速報より村井氏の事件を詳しく報じてほしい」という意見が十数件あったという。
■日本テレビ:生々しい映像なかったので

日本テレビが、村井が刺された現場映像の第一速報を放送したのは午後十一時半の「きょうの出来事」。石川一彦局長は「詳細は生々しい映像が撮れたわけではないということもあり、映像の放送にあたっては特に話し合いはしなかった」と話している。
日本テレビ視聴者サービスセンターによると、二十四日午前八時半から午後一時半までに、事件に関する電話は約八十件寄せられたが、「人が刺される場面を何度も放送縷々必要はないのでは。報道陣が何とか止められなかったものか」という意見もあったという。
・自己防衛のためにオウム特番を視聴 日テレ、氏家社長
日本テレ部の氏家斉一郎社長は二十四日の定例会見で「オウム真理教関連のテレビ特別番組については視聴者が自己防衛のためにみて、高い視聴率を上げているようだ。国民の潜在的欲求にこたえる報道が今後も必要となる」と述べた。
そのうえで、「オウム関連番組の裏番組は七%ぐらい影響を被っているとみている」との分析を示した。
■TBS:基準に照らし残虐性を判断

TBSは午後八時五十六分からの「フラッシュニュース」で事件の一報を伝えた。映像の残虐性などを放送基準に照らしてチェックしたうえで、「映像、音声自体が説明がなければ何が行われたか判然としないところがあり、放送について問題はない」と判断したという。
視聴者からの反響では二十四日午後三時現在で八十件ほどあり、「豊田商事事件のときと同じだ。周りの報道陣は何をしていた」「この事件を切っ掛けに村井氏を英雄視するような報道はしないでほしい」などの意見が寄せられた。
■フジテレビ:適切かどうか十分吟味した

午後十一時半からの「ニュース最終版」で、村井が刺された瞬間を放送したフジテレビ。「取材した内容、映像とも放送する内として適切かどうか十分注意を払った。結果的に、問題はないと判断したので放送した」としている。
視聴者からの反響は二十四日午後三時現在で三十五件寄せられた。いずれも容疑者の背景についての推測やオウム真理教関係者のテレビ出演に対する意見と、「マスコミも十分注意した方がよい」というもので、映像批判はなかったという。
■テレビ朝日:不快感与える映像ではない

発生当時、ザ・スーパーサンデー「久米宏が迫るオウム真理教の虚と実」を放送中だったテレビ朝日は終了間際の午後八時四十八分、村井が刺された現場の映像の第一報を流した。
同局広報部は「今回のケースでは、血にまみれた村井氏の姿ではなく、事件全体の流れが分かる様な画面作りを行った。現場は非常に混乱しており、村井氏の映像が撮れなかったということもあるが、結果として、視聴者に不快感や衝撃を与えるような映像にはなっていなかったはずだ」と説明している。

■テレビ東京:出血場面なく特別配慮せず

テレビ東京は午後十時すぎのニュースで映像の第一報を放送した。同局広報部は「出血や刺した瞬間は映っていなかったため、放送するうえでの扱いに特別な配慮はしなかった。映像への視聴者の意見は寄せられていない」としている。
●民放連の放送基準
日本放送連盟(民放連)の放送基準は犯罪場面などの放送について、報道の責任(6章)▽暴力表現(9章)▽犯罪表現(10章)などで主に次のように規定している。(一部抜粋)。
◎事実報道であっても陰惨な場面のこまかい表現は避けなければならない
◎暴力行為の表現は最小限にとどめる
◎殺人・拷問・暴行・私刑などの残虐な感じを与える行為、その他精神的、肉体的苦痛を、誇大又は刺激的に表現しない
◎犯罪を肯定したり、犯罪者を英雄扱いしたりしてはならない
◎銃砲・刀剣類の使用は慎重にし、殺傷の手段については模倣の動機を与えないように注意する
■在京6紙とも最終版「村井氏死亡」を報道
二十四日の在京の一般六紙のうち、都内二十三区を中心に配達された最終版はいずれも村井秀夫が刺殺された記事を一面トップで報じた。村井が死亡したのは同日午前二時半頃。通常なら朝刊最終版の締め切りを一時間以上も過ぎた時間帯にあたるため、朝刊では村井死亡は伝えられず、夕刊で死亡の一報を伝えることになる。しかし、二十四日付朝刊については各社とも、統一地方選報道に備えて締め切り時間を大幅に伸ばす特別態勢を取っていたため、急遽掲載した。
参考文献:産經新聞(95年4月25日朝刊21面)
海外でも反響呼ぶ

米紙ニューヨーク・タイムズでは、日本のテレビ各局が村井が刺された瞬間の様子を繰り返し放映し、地下鉄サリン事件、以来広まっている一般の不満をさらに増幅した、と論評している。
共同通信を引用して警察当局が殺人呼び容疑で教団メンバー約20人の逮捕状を請求することを決めた、とも報じた。
英紙デイリー・テレグラフは「ガス攻撃の「ガス攻撃の復讐のためにオウムのリーダーが殺された」とのセンセーショナルな見出しで、大きく報じている。

(某スポーツ紙の一面。村井の写真が大きく載せられた。)