徐裕行裁判③:「暴力団との付き合いは絶つ」 | 村井秀夫刺殺事件の真相を追って

村井秀夫刺殺事件の真相を追って

村井秀夫は何故殺されたのか?徐裕行とは何者なのか?
オウム真理教や在日闇社会の謎を追跡します。
当時のマスコミ・警察・司法の問題点も検証していきます。
(2018年7月6日、麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚らの死刑執行。特別企画実施中。)

初公判の影響

麻原が逮捕されてから4ヵ月後。オウム事件の捜査が進むにつれ、地下鉄サリン事件にとどまらず、落田耕太郎さん殺害事件、松本サリン事件、銃器や覚醒剤などの密造といった、教団の犯罪に、村井秀夫が中心的な役割をしてきたことが明らかとなってきた。

それだけに、事件の鍵を握る村井のタイミングの良過ぎる死に、オウムと暴力団の共謀疑惑が浮上していた。

ところが、初公判の冒頭陳述では、徐が村井を狙った理由について、まったく詳しく触れられなかった。救急車の中で「ユダにやられた」という証言も、総本部の地下扉の鍵が閉められたことも冒陳では無視された。

検察関係者「当然調べるべき羽根組組長の調書も上がってきていない。警察は上峯の背後まで調べる気がないのではないか」(週刊朝日95年8月11日号より引用)

検察側は警察の捜査の杜撰さに頭をかしげるしかなかったという。

●徐裕行、村井秀夫に謝罪?

95年9月26日午前、徐裕行被告の公判が東京地裁で開かれた。
この時の徐は、深緑色のトレーナー姿で入廷した。

被告人質問がはじまると、徐は上峯に指示された犯行だったことをあらためて主張した。

徐裕行「事件のキーマンとなる人の命を私の手で絶ってしまった。(その結果)捜査に弊害を与えたこと、村井さんが今後、自己弁護できなくなってしまったことは残念です」

徐は淡々とした口調で、村井秀夫に謝罪する姿を見せた。
(徐が謝罪したのはこの時だけだった。)



清水弁護人「なぜ最初は上峯をかばったのか?」

徐裕行「ヤクザとして生きていく決意の表れだった。彼のことは話は出来ないという気持ちだった」

清水弁護人「真相を話した理由は?」

徐裕行「偽りの供述が続けられなくなった。私服を肥やすというか、(刺殺事件が)組とは関係ない上峯個人的な犯行ではないかという疑問が出てきた」

組が解散したことを警察に聞かされた時について質問されると
「驚き、組とは関係ない、上峯の個人的な犯行と思った。上峯個人の私腹を肥やすような犯行では」と疑問がわき、一転して真相を打ち明けたという。

安広裁判長「ヤクザとして(羽根組)に受け入れられたくて(犯行を)引き受けたわけですね」

裁判長から問いかけられると、徐は真面目な口調で反論した。

徐裕行「受け入れられる、られないの問題ではなくて、自分がヤクザとして生きていきたいということです」

「これからヤクザ者として生きていこうと決意したからには、やらざるを得ないと思った」

●殺害の経緯

徐裕行「初めは無感情だったが、時間がたつにつて、とんでもないことをしてしまったと思うようになった」

清水弁護人「ある人がお前に期待している」と言われた”ある人”が誰かについては?」

徐裕行「自分が考えただけで…」

ここで徐は一旦、回答を控え、しらを切ろうとしている。徐の不真面目な対応に弁護人は重ねて問いた。仕方なく徐は組長の名前を答えた。

徐裕行「羽根(恒夫)組長です」

上峯からの指示については「上祐・青山・村井の3人のうち、だれでもいいから包丁でやれ」という内容で、村井幹部だけを狙ったわけではなかった点を改めて強調。

徐裕行「なぜオウム真理教なのか、むしろ疑問だった」

徐「できれば殺したくない。手加減をして、けがで終わればいいと思っていた」

「アタッシェケースのロックを外し、右手をケースに入れ包丁を握ったが、刃物で人を刺すという行為が怖かった」

徐「(現場での行動が)挙動不審に映り、テレビに撮られている意識はあった。怪しまれている以上、今日を逃せられないと思った」

徐「マスコミでもないのに挙動不審だったことは自分でもわかっていた。私を映しているカメラもあった。怪しまれている以上、今日を外すことは出来ないと焦った」

徐「しくじって残念という気持ちと、やらなくて良かったという安ど感で複雑だった。体は震えていた」

人前で平然と殺人をやってのける男が、「体は震えていた」、「怖かった」と女々しく呟く。卑屈に自分語りを続ける徐の姿に、誰もが異様に思えた

法廷では上祐・青山が狙われた可能性について取り上げられた。

上祐を狙ったときについて徐は
「2、3歩踏み出しただけで中止にした」と法廷で説明した。

青山吉伸が姿を見せたときについては
「報道陣に囲まれて見えず、踏ん切りがつかなかった」と述べた。


●更生

殺害指示を否認している上峯への今の気持ちを問われると、徐は

「事実は一つだけなんで、事実を言ってほしい」と訴えた。

検察官「同じことを(上峯被告の法廷でも)証言する勇気がありますか」

徐裕行「はい」


徐裕行「村井幹部の父親の調書を拘置所で読み、謝罪文を書こうとしたが、どんな言葉を並べても悲しい想いがするだけだと思い断念した」

弁護人「今後、どう更生していくのか」

徐裕行「懲役が長くなるとおもうので、具体的な方法は考えていない」

弁護士の問いに答えた後、徐裕行は誓いの言葉を付け足した。

徐裕行「暴力団との付き合いは絶つ」


(読売新聞95年9月26日夕刊19面)、(東京新聞95年9月26日夕刊11面)(産經新聞9月26日夕刊3面)より出典