第四章:巨星逝く③ | 村井秀夫刺殺事件の真相を追って

村井秀夫刺殺事件の真相を追って

村井秀夫は何故殺されたのか?徐裕行とは何者なのか?
オウム真理教や在日闇社会の謎を追跡します。
当時のマスコミ・警察・司法の問題点も検証していきます。
(2018年7月6日、麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚らの死刑執行。特別企画実施中。)



青ジャージ信者「あっ、刃物持ってる!」

Tシャツ信者「刃物持ってる!」



女性レポーター「ハッハッ?!ハァァァァ?!」

村井を質問攻めした女性レポーターが悲鳴をあげた。


男性「えっ?なになになに?」

女性「刃物もってるぅ」

男性「刃物ォ?」

現場から距離のある人たちは、何が起きたのか実感できない。


だが、現場近くの女性レポーターは興奮しながら叫んだ。

「刃物持ってる!!」


暴漢は人目を避けるため群衆の中に割り込んだ。すかさず青ジャージの信者が、刃物の持ち主を追いかける。群衆の間に空白ができると、一匹の「けだもの」が姿を現した。



「刃物持ってます、刃物持ってます!誰かが刺されました!刃物持ってます!」



暴漢の右手には黒く染まった牛刀。ヒョウ柄のセーターには、村井の返り血がべったりと付着している。男は血なまぐさい悪臭を漂わせながらぶらぶら動くと、牛刀を乱暴に投げ捨てた。牛刀は弧を描くように落下すると、「チャリーン」と金属音が響いた。




徐裕行「ンナァ!!ウナァーッ!!!」




ヒョウ柄姿の狂人は、野獣のように奇声をあげて周囲を威圧した。何が起きているのかすぐには分からなかったが、牛刀が視界に飛び込むと、信者やカメラマンたちは一斉に引き下がった。



しかし、狂人は仁王立ちになったまま、その場を離れずに留まった。逃げる素振りもない。



やがて人々は血まみれの牛刀にカメラをを向けて、一斉にシャッターを切った。




青ジャージの信者が叫んだ。




青ジャージ信者「こいつが刺した!」

徐裕行「早く警察を呼べよ」


どこからかスーツ姿の眼鏡をかけた中年男性が現れた。警察だ。




警察「おまえがやったのか」
狂人は警官に腕を力強く掴まれた。あまりの力に、狂人の体はふらついた。

「あー!すげぇすげぇ!」

やじうま「凄い凄い、ヤバい包丁持ってる!」

「村井秀夫氏が、何者かに…」

「凄いよ、凄いよ、包丁持ってる」「誰!?」

暴漢が連行されると、大勢の人ごみが動き出した。



「マジ?マジ?今」「まじでぇ?誰刺されたの?」「ホラホラホラ」

信者の一人が、犯人に罵声を浴びせた。村井を警護していた男性信者だ。



信者「何考えてんだお前ら!!何やってんだよ!」
「なんてことしてんだよ!」




しかし、信者の声に同情する取材者はいなかった。
気を取り直して実況を始めるもの、押し合いながら夢中で暴漢を撮影するもの、プロレス観戦感覚でへらへら笑うもの。

男性アナウンサー「村井秀夫氏が、何者かに」

やじうま「怖いよ、怖いよ、包丁持ってる(笑)」

「怖い怖い」女が害虫に不快感を示したような声で呟く。


車の側まで連れて行かれると、暴漢は横柄な態度で警官に命令してきた。



徐裕行「車ン中入れろよ」
スーツの警官に替わって、水色のジャンパー姿の私服警官が犯人の腕を掴む。



犯人は車の中に自分から進んで乗り込んだ。直後に横から白髪の刑事が乗り込んできて、警察手帳を見せた。



「よくやった!」

誰かが、犯人を英雄視して声援を送ってきた。
サリン事件の仇を討った、正義のヒーローと思っていたのだろう。
彼らは暴漢の正体を知らず知らずに応援した。


「どういう動機ですか?!」「どのような動機ですか?!」

「動機は何ですか!?動機は何?動機は?」

車内のガラス中に、マスコミが張り付いてくる。暴漢は視線を正面に向けると、そのまま石像のように固まった。白髪の刑事の背中が顔にぶつかりそうになっても静止したままだ。
白髪の刑事は新聞紙でカメラを遮った。



ピッ!ピッ!ピッ!

3回クラクションが鳴らされたのち、犯人を乗せた車は赤坂警察署へ走り去った。



南青山総本部前。



アナウンサー「大量に、村井氏は出血しております」
警護の信者「ちょっと止めてよ!あんたたち!何考えてんだよ!」





女性レポーター「「危ない危ない危ない…ちょっとこれ、警察の方いませんかー!警察の方!」



警護の信者「何やってんのモォー!!!!」



警官「下がれ!下がれ!下がれ!下がれ!」
鋭い叫び声でスーツの男が周囲を牽制してきた。
物的証拠を荒らされまいと、警官が現場へ飛んできたのである。

「下がって!下がって!下がって!」
警官はポケットからカメラを取り出し、凶器を撮影した。

信者「頑張ってください!」「止血できる人!」「しけつできるひと!」



「オウム真理教総本部前、誰かが刺されたようです、えー、誰か刺された模様です……大変なことになりました、いま報道陣に取り囲まれておりますが、包丁を持った男がいたという声が聞こえます」






「上祐いる!」

信者達は必死になって懇願した。

上祐がビルから顔を出してきた。警護の信者に事情を聞いているようだ。



「えー上祐、えー上祐、広報外報部長も出てきております」「上祐だ上祐」

女性信者「救急車はいるからあけてくださーい」「どきなさい!道をあけなさーい!」「道をあけなさーい」「早く呼んでくれー!」

「上祐外報部長ただいま出てまいりました、上祐外報部長が出てまいりました」

上祐は地面にの凶器を確認すると、再び村井の元へ戻り容態を伺った。

車のクラクションが聞こえてきた。

「下がれー!」

警護の信者「なんで来ないんだよ!!」



警護の信者が、大きな声で叫ぶ。信者たちの顔が涙でびしょ濡れになった。



救急車が到着すると、救急隊員が酸素マスクを取り付けた。応急措置を受けた村井は担架に乗せられ、都立広尾病院へ移送した。





「8時48分、えー、村井科学技術省長官が、えー救急車に今乗せられるところです」

「日曜日8時50分です。村井科学技術省長官を乗せました救急車が、えー今東京総本部前を出て行きました。これから病院に向かうものと思われます」