
先手を切ったのは端本だ。いきなり坂本弁護士の体へ馬乗りになり、続けざまに頬を殴りつけた。
弁護士は鼻血を出しながら命乞いをしてきた。
坂本弁護士「金か、金だけはやる。命だけは…」
上半身を起こそうとする弁護士の後ろに岡崎が回り込み首を絞めた。その間、早川は足を強く押さえた。激しい抵抗に早川はふっとび、後ろのふすまが外れた。
中川は傍らで、龍彦ちゃんの命を奪った。
村井は都子さんの方へ飛びかかった。新実も馬乗りになって押さえ込むのを手伝った。村井と早川はとっさに首を絞めようとした。が、激しい抵抗にあい、村井は手の小指の第一関節を激しく噛まれた。肉の一部が食いちぎられ、大量の血が広範囲に飛び散った。端本が得意の空手で都子さんの腹に蹴りを入れ、動きを封じ込めた。
中川「絞める場所が違う!首の脇をしめないと」
村井「分らん、あんたやってくれ」
思わずぼろが出た。
村井の頼みを聞いて中川が都子さんの首を絞めた。
都子さん「何でもあげる…」
朦朧とした様子でつぶやくと、都子さんは絶命した。
「早く注射を打て!」
中川は弁護士の方を向くと、体に塩化カリウムを注射させた。
腕だか尻だかも分らない。夢中で針を突き刺した。
命乞いが無意味だと気付き、岡崎の髪や耳を掴んで抵抗していた弁護士は、頸部を絞め付けと注射の毒でとうとう力つきた。
村井の目に地獄絵図が広がっていた。

事後、畳に飛び散った村井の血を 岡崎が浴室にあったタオルで拭き取り、はずれたふすまを直した。
他のメンバーは遺体は布団で包んで運び、荷台に載せた。
途中で早川が村井のカツラに気付き、拾って車内へ放り込んだ。
後始末を終えた岡崎が降りてきた。早川はイライラしていた。
坂本宅を出発して間もなく、村井は富士山総本部にいる麻原に連絡を入れ、結果を報告した。麻原は村井に午前7時頃に総本部へ戻ってくるよう指示した。
車は坂本弁護士一家の亡骸を乗せたまま総本部へ到着した。石井久子の肩に手をかけた麻原が、一行を出迎えた。
麻原「よくやった。ごくろう」
サティアンビルの4階にある麻原の部屋で、詳しい報告が行われた。その最中、村井は麻原の耳元に口を近づけ何事かささやいた。それを聞いて麻原は声を上げた。
麻原「何?カツラを落としたって?戻って取らなければならないのか」
早川がすかさず、村井が落としたカツラは自分が拾って来た、と述べた。麻原は安堵した。
麻原「さすがティローパ。お前は、前世からマンジュシュリーの欠点を補う役割だった。これからもマンジュシュリーを補佐してくれ」
早川「それが…」
村井と早川は手袋をし忘れたことを聞くと、麻原の顔が曇った。

麻原「大丈夫か?」
早川「うーん、大丈夫だと思うんですが…」
坂本家の遺体は護摩壇で処分しようと岡崎が提案した。
真島と田口の件で実証済みだ。
麻原「3体もの遺体を焼くような火力をあげれば、すぐに消防車が来る。ドラム缶に入れて、遠くの山に入れろ」
村井「動物が掘り返すとまずいと思います」
麻原「3m程掘れば大丈夫だ。雪の深い所がいいゾ」
村井「北アルプスはいかがでしょう」
麻原「そうだな。遺体はドラム缶に詰めろ」
早川「ただ、三人一組一緒に埋めると、もし発見されたら大事になる。三人を別々の場所に埋めておけば、全て発見されたとしても、所轄の警察が違うからお互いの連絡もないだろうし、捜査が進まないでしょう」
一行はワゴン車、ブルーバード、ビックホーンの三台に分乗で出発した。

家族は別々の県に埋めることにした。
子供は湿地帯の方で埋めた。水がしみ出してきたので1mしか掘れなかった。枯れ葉や倒木を置いて、カモフラージュすることも忘れなかった。
作業を終えると、一行はすぐ出発した。村井は先導して国道8号沿いへ向かった。
サウナ店で食事を済ませ、新潟県能生町のドライブインに車を止め、仮眠を取った。
5日朝、村井は坂本弁護士を大毛無山に埋めることにした。
遺体の入ったワゴン車は新実が見張り、後の五人は埋め場所を探しに行った。
午後一時頃、山の頂上付近の道から少し入った所に決め、中川と端本に穴を掘らせるよう命じた。
村井たちは新実が待つドライブインへ戻った。途中、土産物屋でおいしそうなベニズワイガニが売っていたので、6匹入りの箱を2、3個買った。
夕方、現場に戻ると中川たちの作業はほとんど進んでなかったのを見て早川が叱りつけた。
その後、一行はその場でカニを食べることにした。
辺りは漆黒の闇。懐中電灯の明かりを手掛かりに、男たちは交代でひたすら地面を掘る。4、5時間してようやく穴を掘り終えた彼らは、底に弁護士の遺体を置いた。
岡崎は、近くで道路工事をやっていることが気になった。工事の範囲が広がれば、遺体を掘り起こされるのではないか。
「身元が分からないよう、歯形を潰そう」
村井がそう言うと、岡崎がツルハシを堤の顔をめがけて振り下ろした。しかし地面に突き刺さった。
村井は、傍らに落ちていた石で顔を殴りつけようとした。岡崎も、新実も一緒になって顔を傷つけようとしている。
見ていた早川は気分が悪くなった。
早川「やめた方がいい。どうせ歯が口の中に残るから、意味が無い」
村井は、都子さんの遺体を僧ヶ岳の山中に埋めることにした。海岸へ出るとツルハシとスコップを海の中へ放り込んだ。場所を移動しながら砂浜で座布団を燃やしたり、残りのドラム缶を海中へ捨てた。
早川は麻原に報告を入れると「今夜はみんなに食事をさせて、温泉に泊まってよい」と許可が出た。近くの片山津温泉のホテルに2人1組でバラバラに泊まることにした。村井は岡崎と一緒に泊まった。
翌7日、今度は犯行に使った車を沈め、作業服を燃やす場所を探し求めた。
村井が「あそこがいい」という場所は景勝地ばかりで水か綺麗なので、車を沈めたりすればすぐに分ってしまう。
「瀬戸内海の大きな港で、水が濁った場所を探そう」一行は津山まで移動した。
翌日9日。
麻原「何やってんだ、いつまでかかっているんだ」
麻原は電話をしてきた早川に怒鳴りつけた。
「海が綺麗すぎて、何処に車を沈めたらいいか探しているんです」
「8日頃から坂本の同僚の弁護士たちがお前を探している。それから、誰か現場にプルシャを落とした者がいるのか」
「まさか…聞いてみます」
「私は自分のプルシャを持っています」「私もなくしていません」
中川がおずおずと申し出た。
中川「私かもしれません。プルシャをなくしています」
早川「中川がなくしたように言っています」
麻原「電話を中川に替われ」
そして相次いで電話口に出た中川、村井を叱りつけた。
麻原「ドジな3人はすぐに帰れっ!!」
中川だけでなく、現場に指紋を残した可能性のある村井、早川にも富士に戻るよう指示が出た。
11日。結局車の処分はしないまま岡崎たち3人も戻って来た。
麻原は、中川がプルシャを落としたこと、村井や早川が手袋をし忘れたミスを叱責した後、次のように言った。
麻原「真理を妨害することで得た金で養われている者も悪業を積んでいる」
続いて麻原は、石井久子に六法全書を持ってこさせ、殺人罪の条項を朗読させた。
石井「刑法一九九条 一人ヲ殺シタル者ハ無期又ハ3年以上ノ懲役二処スル」

麻原「三人殺したら死刑は間違いない。みんな同罪だ。死刑だな」
そう言う麻原の顔には、不気味な笑みが浮かんでいた。
村井は、襲撃時笑っていた中川のことが気になった。生半可な奴が真島や田口みたいに暴走されては大変だと思い、さっそく麻原に通達した。中川は独居房に1ヵ月間閉じ込められた。
青山「弁護士会が坂本親子を探しまわっています」
上祐「相手をしていると加熱するばかりです。ちょっと息抜きに海外活動ではくらくしてはどうでしょうか」
麻原「ヨーロッパでも回るか…」
11月21日、村井は麻原ら6人とドイツへ向かった。
犯行時、村井と早川は手袋をはめ忘れていた責任として、加熱したフライパンに指を押し当てて指紋を焼かされた。
ためらいがちな早川と比べて、真っ赤に熱せられた鉄板の前に村井は「グルのため!真理のため!」と叫ぶと、一気に指を押し付けた。
村井「グルのため!真理のため!グルのため!真理のため!」
早川「村井さん、凄いですねぇ…」
村井「グルのため!真理のため!」
鉄板はこびりついた指先の皮だらけになっていた。
翌月、日本に帰国した村井は、厚手の手袋をして帰国した。
国内に戻ってからは指紋を消す手術を受けた。


(画像:ドイツ・ボンから帰国した直後の村井。)