ハードボイルド 気付きの街角 | ☆ 占い師・画家…人間のようなもの ☆

☆ 占い師・画家…人間のようなもの ☆

画家・伝説の魔術師☆ 相馬 英樹 の愉快な毎日♪

大都会、疑惑の街、ロサンゼルス

暴力と金が支配する…そう、ここは裏切りの町。


そんな裏切りの街角で、今日もネズミが犯罪を侵して居る。

ネズミの奴…

私腹を肥やす為に、ポーカーで勝った仲間を騙し
毒の入ったウイスキーを飲ませたのだ。



ニヤニヤしながら…
死んでいった仲間の胸ポケットから抜き取った
長財布の中のお金を数えるネズミ。



…何て極悪非道な卑怯者だ…



物陰から、犯行の一部始終を見ていたイヌが出てきて言う。

『やいっ!やいやいやいやいやいやいやい!
貴様の極悪非道には吐き気がするぜぃ!』

罪を犯したネズミに制裁をくわえるイヌ。



ネズミは許しを乞うが、
イヌは容赦なくジャパニーズソードを一振りして、
ネズミの首を切り落とした。

…脈に合わせて飛び散る鮮血。



『スゴい!ステキ!』

めちゃめちゃ魅力的なネコが都会の雑踏の中から出てきて言う。



イヌとネコが一緒に暮らし始めるまで

そんなに時間は掛からなかった。



イヌはネコがこたつで丸くなっている間

更なる罪を暴こうと、今日も大都会の中で、裏切りの箱庭をかけ回り

あらゆる罪人達をひっ捕まえて制裁をくわえた。



時は経ち、こたつで丸くなってばかりいたネコは太り

以前のように魅力的と言うほどではなくなった。


肥ったネコは、それでもこたつで丸くなり続けたが…

いつしか月日は流れ行き


イヌも歳をとり、犯罪の街を駆け廻らなくなり

家に居ながらにして…人の批判や、愚痴ばかり言う様になった。



テレビを見ながら

『あいつは、あんな事ばっかりやってるから、いつまでたってもダメなんだ。』

『こいつの、こう言うところが嫌いだよ!』

ひねもす批判ばかり。



ある日、ネコは

相変わらずテレビに向かって、暴言を吐いている老犬に、嫌気がさして罵った。

『人を責めてばかりで…あんたはなんなのよ、バッカじゃないの⁉クソじじい!』と。



キレた老犬も、それに応じる。

『あったま来た!デブネコ!おまえこそ何もしないで良く言うよ。バカヤロー』



窓際に夕焼けが差し込む。


イヌは窓際でふてくされながら

窓の外を流れる都会の雑踏を見ている。



ネコはこたつを離れ

そっと、イヌの隣に寄り添う。

ふたりの間には退屈な空気だけが流れていく。



『しあわせになりたいな。』

イヌが言う。

『そうね。』

ネコは言う。



『しかしなんていうか…こうしてみると案外、
    都会に沈む夕陽って、綺麗だよね。』

イヌは言い…


『そうよね、あなた。』

ネコは応じる。



ある時、イヌがお散歩していると、たまたま通りかかった森林公園で
コアラが、男をめった刺しにして居るのを見付ける。


最初はピクピクとうごいていた男も、やがて息果てていった。

痴情のもつれだろうか…
血塗れの死体の前に、額然と立ち尽くすコアラ。


フツフツと湧き上がってくる怒りに、イヌはわなわなと身を震わせた…


…理由はともかく人を殺めるなんてもってのほかだ!
 悪いヤツだよ!やっつけてやる!


『あなた!もうやめて!』

後ろから駆けてきたネコが言う。



『あなたの生きる目的は、人の罪を暴く事なんかじゃないでしょう…

それは神様の仕事。

ほら、あなた、あの時、幸せになりたいって言ってたじゃない!

人は皆、幸せになるために生まれてきたはず!

ふたりで幸せになろう!うちに帰ろうよ。』



イヌは頷き、二人は肩を並べて家へと向かう。



『!!?』



二人の目撃者に気付いたコアラ…



背を向けて歩き出した二人のあとを、コッソリとつけて行く。



ネコが不意に立ち止まり

『買い物があるから、先に家へ帰って待ってて。』という。


『ああ。』



イヌは家へ戻り、お茶を沸かしてネコの帰りを待った。



それっきり

二度と

ネコが帰って来ることは、なかった。





…場面は切り替わる





棺桶の中には、冷たくなったネコが永遠の眠りについている。



首には糸で縫った、縫い目がある。



殺人を目撃された事に気付いたコアラに
跡をつけられ…首を切り落とされて死んでしまった。

逃走したコアラは、線路に脚を取られて
動けずに居るところに向かって来た特急列車に轢かれて、即死した。

神に、裁かれたのだ。

イヌは
二度と目覚める事のないネコの額を、そっと撫でた。

頬を伝う涙。


イヌは悲しみの中で、あの時彼女が言った言葉を思い出していた。



~あなたの生きる目的は、人の罪を暴く事なんかじゃないでしょう…

人は皆、幸せになるために生まれてきたはず!~




…そうだ!私の生きる目的は、人の罪を暴く事なんかじゃない!

わたしは、幸せになる為にうまれて来たんだ!

ネコは、死んでしまった。

何もかも、失ってしまった。

私は、幸せになりたい!


…でも、幸せってなんだろう…



街を歩いて居た、
白いワンピースを着た白髪の老人が、
イヌの前に差し掛かったときに、独り言の様にいう。


『人を許すことじゃよ。』


…そうか 人を 許す ことか…

…なのに私は これまで 人を 裁いてきた…

老人が溶け込んで行った、都会の雑踏を見ると、人の波の中から、老人がイヌに向かって頷きながら笑いかけて居る。

…あっ!あ!あなたは…あなたはもしや!



立ち上がって、『神っ!』と言おうとした瞬間…

老人は『じゃあ!またね』という様な仕草をして、雑踏へと溶けて行った。





end