マジすか学園F☆#2ー10☆
【エリアK】
前田に完敗したディーヴァ将軍、上西ケイは、跪いたまま、呆然とその場から動き出せないでいた。これからの未来が見えなかった。自分は、これから、どうすればいいのか─
いままで通り、
ディーヴァに残るのか、それとも─
そこへ、近づいてきた者が、ひとり、いた。それは、同じく銀灰色(グレイ)の特攻服を身にまとった十二将のひとりだった。
『最恐』と呼ばれ、恐れられていた少女が、長い髪をなびかせ、上西に問いかける。
「お前の…、ずっと、見たかったもん、見れたんか?」
その人物は、
上西が、先刻、日本刀で腹部を貫いた相手、八将、吉田アカリだった。胴体には、包帯が巻かれ、丁寧な治療のあとがみてとれた。
それを見て、上西は、驚きを隠しきれず、
「何で…戻ってきたんや!?」
生きていることに対する驚きではなく、ここに戻ってきたことに対する驚きだった。
「上西…、お前…、本当は、うちを、この…『生き地獄』みたいなところから、救い出したかったんやろ?」
吉田の憂いを帯びた切れ長の瞳には、懐かしい幼なじみである上西ケイの姿が映っていた。
「お前の息のかかった部下に連れてってもらった医者が、日本刀が突き刺さっとって、内臓ひとつ傷ついてへんなんて、奇跡やって、言うとったで」
鉄の女、
上西ケイが、至近距離で、急所を外すわけがない。急所を刺したと、見せかける演技に違いなかった。監視カメラを誤魔化すために。
「お前の、その回復力にも驚いとったんちゃうか?」
「こっそり、抜け出してきたったわ」
「なっ!?早よ、戻れや!お前は、こんな『生き地獄』(ところ)におったらあかん…、いますぐ、ここを出るんや!
前田を信じたい…、あいつには、希望が見えた…、それでも…、どうなるかは、わからん…、総帥の恐ろしさは、嫌というほど知っとる…、せやから、前田を信じきれん…、早く、お前だけでも、エリアの外に逃げるんや!」
「……、世の中、いろんなやつが…おるもんやなぁ…、全身を日本刀で斬り刻まれても、立ち上がるヤツがおる…、仲間のために、身体を張って拳を握りしめるヤツがおる…、勝利のために、日本刀を素手で掴むヤツがおる…、誰かのために、たったひとりで、ディーヴァに立ち向かうヤツがおる…、
それから…、幼なじみのために、総帥の命令に逆らって、命の危険に晒されとるヤツもおる…」
「みんな、アホばっかやな…」
「お前もや…、お前は、もう、うちの日本刀(エモノ)に、血、吸わせたなかったんやろ?ディーヴァに居(お)る限り、総帥の命令は“絶対”やからな。いずれは、鑑別くらいじゃすまなくなる…、せやから…」
「考えすぎや…」
「ほんなら、ここで、ただ、組織に粛清されるん待っとるだけなんか!初めて、思いっきり負けて、へこんどるんやろ!」
「負けてへんわ!」
強い口調で返したものの、強がりにしか見えないことは、上西ケイ本人も、十分わかっていた。
ゆえに、
そっぽを向き、ボソッとつぶやく。
「ただ…、勝てへんかっただけや…」
もはや、そこに、組織に縛られ続けた『鉄の女』はおらず、幼い頃の面影を残した、負けず嫌いのひとりの少女へと変わっていた。
「ホンマに…アホやわ」
吉田が笑う。
「アホ言うな!それに、こういうのんは、アホと違う(ちゃうんや)で」
「ほな、なんて、言うん?」
「こういうのは、“マジ”って言うんや」
上西が、力強く、立ちあがる。
前田や、その仲間たちに、教わったものを、胸に抱き。前へと進むために。
「ほんなら、“マジ”ってやつを、もう少しだけ、信じてみようか」
二人が、ともに、前へと、歩き出したそのとき。甲高いクラクションが、港湾内に、響きわたった。
#2『“てっぺん”になるはずだった女』 終
マジすか学園F☆#2ー9☆
東京─
スーパーマーケット裏にあるバックヤードでは、光宗カヲルの心を読み取ることに失敗し、呆然とするトリゴヤに対し、
カヲルの拳が、容赦なく、その顔面に炸裂する。すべるように、ビール瓶の破片が散らばる地面を転がっていくトリゴヤ。
「口ほどでもないですね」
手近にあった
ビール瓶を拾いあげ、うずくまるトリゴヤの頭に叩きつける。躊躇いなく、致命傷に近い打撃を与える。
「史上最強?ラッパッパ四天王?神?あはははは!」
高笑いするカヲル。完全なる勝利を確信する。
直後。
カヲルの背中に、人影があらわれる。
「たーだーいーま」
「ッ!?」
振り向き様に、その影を殴り飛ばすカヲル。
ビール瓶の破片の上を再び転がっていく影は、トリゴヤのものだった。
「いつの間に!?」
「たーだーいーま」
間を置かず、
カヲルの
すぐ後ろで、そんな声がした。
その声は。
まぎれもなく、トリゴヤのものだった。
「たーだーいーま」
倒しても、倒しても、背後にあらわれる影。
カヲルの思考が、止まる。
「たーだーいーま」
またしても、
声のする方を、カヲルが、振り返ると。
そこには、
やはり、トリゴヤの姿があった。
妖しい笑みがはりついたまま。
次々にあらわれるトリゴヤ。一人、二人、三人……。増えていく。
「こ…、これは、幻(ゆめ)?」
それでは、さっきから殴り倒しているのは?
カヲルは、殴りつけられ、倒れている人物を、見やる。
「倒れているのは…」
カヲルが認識する。赤く染まった自分を。
「わたし…?」
いやあああああああああああああ!
半狂乱になったカヲルの様子を、それぞれの思いで、
眺めている、“トリゴヤとブラック”二人の姿があった。
いぶかしげに、ブラックが、トリゴヤの方を見る。
「どういうことだ…?
急に、『ひとり』で暴れだしたと思えば、大笑いしたり…、叫んだり、わたしたちが、まるで、見えていないような…、
まさか!お前が、何かしたのか?」
「だから、言ったでしょ。ホ・ン・キ」
トリゴヤは、
軽く、舌を見せた。
「ちょ~っと、本気出しちゃっただけなんだけどね。簡単だったよ。精神に入り込むのは。自意識の強いやつは、特にね。放っておけば、ずっと、あのまま悪夢を見続けるだろうけど、精神が崩壊する前に、止めてあげようかな」
滅多に見せることのない、
本気のトリゴヤの能力が、カヲルに幻覚を見せていたのだった。仲間をやられたトリゴヤに、抑えはきかなかった。トリゴヤの能力は、諸刃の剣。相手を深い闇に落とすためには、自分も、その闇に触れねばならない。それによって、自分を見失い、自らの精神に深刻なダメージを負うこともある。
その覚悟をもって、トリゴヤは、能力を使用していた。
「敵にまわしたくないな…、『本気の』お前だけは…」
と、そこへ。
「ハァ…、ハァ…、ちくしょう…」
息を切らし、
駆けつけてきたシブヤが、拳を固く握りしめ、くやしがっていた。
「遅かったね」
シブヤとブラックが、やられたからこそ、トリゴヤは立ち上がり、本気になったこと、ならざるを得なかったことは、おくびにも出さず、辛口な言葉を投げかけるトリゴヤだった。
ラッパッパの元四天王が、三人集まった。
意識を失ったカヲルの頭に、トリゴヤが、膝をつき、手のひらをのせる。
その様子を、ブラックとシブヤが、見守る。
「何か、掴めたか?」
「うん。視(み)えたよ。この件の黒幕ってやつが。“そいつ”が、薔薇十字軍(ローゼンクロイツ)を遣ったりして、わたしたちを組織的に狙ってるみたい。
ってことで、その握った拳は、これから、役立てればいいんじゃない?」
「で、誰なんだよ?その黒幕ってのは─。もったいぶってんじゃねーぞ」
トリゴヤは、簡潔に、その名を告げた。
その場の空気が、一瞬で凍りつく。
「……“あの女”が、帰ってきたのか…。
かつて…、優子さんが、どうしても勝てなかった唯一(ただひとり)の女…」
「あいつは、『あの日』以来、消息不明(行方知れず)だったよな!それが、どうしていまさら!」
「復讐だな…、わたしたちに対する」
ブラックが、苦い想いを吐き出す。
「マジ女の…“てっぺん”になるはずだった…女か」
マジすか学園F☆#2ー8
【エリアK】
(『前田…、すまないね…、わたしたちは… 、ここまで…だ…』)
ディーヴァの包囲網を抜けるため、先頭をひた走っていた前田は、嫌な予感で、振り返る。
「歌舞伎…?」
そこには、歌舞伎シスターズはおろか、学ランも、鬼塚だるまの姿もなかった。ただ、ディーヴァ隊員の鈍色(にびいろ)の特攻服の群れが、足を止めた前田に次々と襲いかかる。捕食する者とされる者。
牙を剥いて、木刀や鉄パイプが振り下ろされる。
瞬時にとり囲まれてしまうため、思うように、距離をとり、かわすことも難しかった。前田は、脚を高くあげ、かろうじて、凶器を蹴りつけ、弾き飛ばす。
「歌舞伎──ッ!」
その叫びは、ディーヴァの喚く怒声、嬌声に
かき消されてしまう。
「学ラン!だるま!」
仲間の名を呼びながら、前田の拳が、ディーヴァの隊員を打ちぬいていく。数々の修羅場をくぐり抜けてきた前田は、この状況においても、少しも怯むことはなかった。逆に、圧倒的有利な立場にあるディーヴァの方が攻めあぐねていた。
「こ…、こいつ…、ホンマに…怪物(ばけもん)か…」「いつまで、やる気や」「もう、勝てるわけないやろ」
これまで、相対してきた敵とは、明らかに違う。諦めることを知らない。誰にも屈しない。
これが、前田敦子。
マジすか女学園の“てっぺん”─。
満身創痍である前田に対し、
ディーヴァの隊員たちのなかに、畏れを抱きはじめる者もいた。
「捕まえるんや!捕まえたらこっちのもんや!」
ディーヴァのひとりが口走った。
その言葉に、凶器を捨て、闇雲に、左右から、前田に掴みかかるディーヴァの隊員たち。
とにかく、捕まえてしまえば、という単純な攻撃に、
抵抗むなしく、前田は、とうとう、両腕を拘束され、動きがとれなくなってしまった。
そして、隊員のひとりが、木刀を拾いあげると、動けない前田の顔面に、思い切り、叩きつけた。恐れを振り払うかのように。
前田は、
傷だらけの顔をあげ、まわりを見やる。
「はぁ…、はぁ…、お前ら…、ほんとの…喧嘩、やったこと…ねぇだろ…」
視線で圧する。
「いつも…、この圧倒的な人数で…、勝った、とか、制覇した…とか、なんとか…、言って…、
喧嘩も知らねぇ…、
本当に、闘ったこともねーやつらが…、いっぱしのヤンキー、気取ってんじゃねぇ!」
「ハッ!もう、お前の仲間も、全員潰された。いくらお前ひとり強がっとっても、どうにもならんわ!」
「ざけんじゃ…ねぇ…、あいつらは、しぶといんだ…、マジ女を、なめんな…」
そして、
前田は、力の限り、声を振り絞った。
「返事しろ!歌舞伎!学ラン!だるまあああああああ!」
しかし、
返事はかえってこない。
両脇をそれぞれ二人のディーヴァ隊員に拘束されたまま、
顔面を殴られ続ける前田。
「もう、“終わり”にしようや。お前が、負けを認めりゃ、そんで、終わるんや」
口から、赤いものを吐きとばし、
「終わり…じゃねーよ…」
前田が、
「終われねぇ…、こんなところで…」
吠える。
「終わらせるわけには、いかねーんだよ!」
木刀を手にしていた隊員が、業を煮やし、地面に落ちていた
鉄パイプに持ち替える。
そして、それを、素早く
振り上げた。
「くたばれや!」
そのとき─。
人で埋めつくされた港湾一帯に、
甲高いクラクションが、鳴り響いた。
(『前田…、すまないね…、わたしたちは… 、ここまで…だ…』)
ディーヴァの包囲網を抜けるため、先頭をひた走っていた前田は、嫌な予感で、振り返る。
「歌舞伎…?」
そこには、歌舞伎シスターズはおろか、学ランも、鬼塚だるまの姿もなかった。ただ、ディーヴァ隊員の鈍色(にびいろ)の特攻服の群れが、足を止めた前田に次々と襲いかかる。捕食する者とされる者。
牙を剥いて、木刀や鉄パイプが振り下ろされる。
瞬時にとり囲まれてしまうため、思うように、距離をとり、かわすことも難しかった。前田は、脚を高くあげ、かろうじて、凶器を蹴りつけ、弾き飛ばす。
「歌舞伎──ッ!」
その叫びは、ディーヴァの喚く怒声、嬌声に
かき消されてしまう。
「学ラン!だるま!」
仲間の名を呼びながら、前田の拳が、ディーヴァの隊員を打ちぬいていく。数々の修羅場をくぐり抜けてきた前田は、この状況においても、少しも怯むことはなかった。逆に、圧倒的有利な立場にあるディーヴァの方が攻めあぐねていた。
「こ…、こいつ…、ホンマに…怪物(ばけもん)か…」「いつまで、やる気や」「もう、勝てるわけないやろ」
これまで、相対してきた敵とは、明らかに違う。諦めることを知らない。誰にも屈しない。
これが、前田敦子。
マジすか女学園の“てっぺん”─。
満身創痍である前田に対し、
ディーヴァの隊員たちのなかに、畏れを抱きはじめる者もいた。
「捕まえるんや!捕まえたらこっちのもんや!」
ディーヴァのひとりが口走った。
その言葉に、凶器を捨て、闇雲に、左右から、前田に掴みかかるディーヴァの隊員たち。
とにかく、捕まえてしまえば、という単純な攻撃に、
抵抗むなしく、前田は、とうとう、両腕を拘束され、動きがとれなくなってしまった。
そして、隊員のひとりが、木刀を拾いあげると、動けない前田の顔面に、思い切り、叩きつけた。恐れを振り払うかのように。
前田は、
傷だらけの顔をあげ、まわりを見やる。
「はぁ…、はぁ…、お前ら…、ほんとの…喧嘩、やったこと…ねぇだろ…」
視線で圧する。
「いつも…、この圧倒的な人数で…、勝った、とか、制覇した…とか、なんとか…、言って…、
喧嘩も知らねぇ…、
本当に、闘ったこともねーやつらが…、いっぱしのヤンキー、気取ってんじゃねぇ!」
「ハッ!もう、お前の仲間も、全員潰された。いくらお前ひとり強がっとっても、どうにもならんわ!」
「ざけんじゃ…ねぇ…、あいつらは、しぶといんだ…、マジ女を、なめんな…」
そして、
前田は、力の限り、声を振り絞った。
「返事しろ!歌舞伎!学ラン!だるまあああああああ!」
しかし、
返事はかえってこない。
両脇をそれぞれ二人のディーヴァ隊員に拘束されたまま、
顔面を殴られ続ける前田。
「もう、“終わり”にしようや。お前が、負けを認めりゃ、そんで、終わるんや」
口から、赤いものを吐きとばし、
「終わり…じゃねーよ…」
前田が、
「終われねぇ…、こんなところで…」
吠える。
「終わらせるわけには、いかねーんだよ!」
木刀を手にしていた隊員が、業を煮やし、地面に落ちていた
鉄パイプに持ち替える。
そして、それを、素早く
振り上げた。
「くたばれや!」
そのとき─。
人で埋めつくされた港湾一帯に、
甲高いクラクションが、鳴り響いた。