マジすか学園F☆#3ー3☆
【エリアK】
ディーヴァの隊員およそ800人が集まった
港で、
甲高いクラクションが鳴り渡った。
その音のする方向では、
大勢のディーヴァの隊員たちが、何かに追われるように、右往左往し始めている。
見ると、
巨大な4トントラックが、滅茶苦茶に蛇行しながら、前田が拘束されている場所へと近づいてきていた。どうにかこうにか、轢かれないよう、ディーヴァの隊員たちは、精一杯、逃げまどうなか─
そのトラックは、みるみるうちに、前田の目前にまで迫り、直前で、大きくハンドルを切ったかとおもうと、急ブレーキの音とともに、ようやく急停車をした。
4トントラックの
助手席からは、慌てふためいた声が飛んだ。
「ちょっ!おばちゃん!あぶねーじゃねーか!運転は任せろって言ってただろ!」
助手席で、ちょっとしたジェットコースター気分を味わった
緑色のお馴染みのジャージの少女。チームホルモンのリーダーであるヲタが、激しく非難しているのは、『おばちゃん』と呼ばれ、運転席で、大きなハンドルを握りしめている、ヒョウ柄の特攻服を身にまとった美形の少女だった。
「誰がオバチャンやねん!あんたら迷子の五人、拾ってやったっちゅうのに、その恩も忘れて、そんなん言うんやったら、あんただけ、海ん中、つき落としたろか?」
禁句(タブー)を口にしたヲタに、キレそうになっている関西弁の少女は、
“なにわ”のトラブルメーカー、大阪NMB-S(ナンバーズ)の山田ナナだった。
“新宿戦争”では、山本サヤカと共に、前田を救うため、百人近くのアンダーガールズとわたりあった盟友のひとりである。
「だあああっ!うっせー!わかったよ!感謝してるよ!それより、後ろの『荷物』は大丈夫なのか?」
「“なにわ”のヤンキー、ナメてもろたら、困るわ」
車中の二人が、言い合いをしている間に、
態勢を整えたディーヴァの隊員たちは、トラックの周囲をぐるりと取り囲む。そして、鉄パイプや木刀で、運転席側と助手席側両方のドアを叩きつけ始めた。
「おらぁ!そこから、出てこいや!」「何モンや!?お前ら」
ディーヴァが業を煮やした
そのとき、トラックの後部コンテナが、内側から、激しく、蹴り開けられた。
と同時に、色とりどりの特攻服を身につけたたくさんの少女たちが、続々と、飛び降り始める。取り囲むディーヴァの隊員たちへ向かって─。
騒然。
一斉に、乱闘が始まる。
トラックの周りは、一気に、ヒートアップした。
見れば、
大阪NMB-S(ナンバーズ)の
ヒョウ柄の特攻服だけではなく、関西でも、名の知れたチームの特攻服やヤンキー高校の制服を身に付けた少女たちが、ディーヴァに闘いを挑んでいる。
これまでに、
チームを潰された者、仲間や友人が傷つけられた者、
皆、なんらかの恨みをディーヴァに抱く者たちだった。
そのなかには、チームホルモンの面々もしっかりと、いた。
ほぼ同じタイミングで、
助手席にいたヲタは、ドアにしがみつくディーヴァもろとも扉を蹴り開けた。吹き飛ぶディーヴァを尻目に、そのまま、トラックのコンテナの上に、のぼっていく。
ヲタが、高い場所から、ディーヴァたちを、見下ろすと。
「てめーら、よく聞け!わたしが、マジ女の最強チーム、チームホルモン、リーダーのヲタだ!マジ女の“てっぺん”取る前に、てめーら、ぶっ潰して、大阪の“てっぺん”とったんでんがなまんがなやで!」
と、郷に入っては郷に従え、関西弁っぽいが、訳のわからない方言を飛ばすヲタ。
「あいつ、絶対、関西人バカにしとんな」「そうやな…シバくか」「あの鼻の頭にバンソーコくっつけたジャージのやつからぶっ飛ばすで!」
ヲタに対し、
激しい怒りがこみ上げてくるディーヴァの隊員たち。
「アンタ!何、火に油注いでんねん!」
運転席を離れた
山田ナナが、見上げるかたちで、呆れていた。
「みんなー!大暴れすんぞー!シェキナベイベー!」
ヲタが、気楽に、叫んでいる。
「ほんなら!ウチも行くで!」
山田ナナも、覚悟を決める。
「おりゃああああああああ!」
「うおおおおおおおおおおああああ!」
ディーヴァvs反ディーヴァ。
大乱闘の始まりだった。
いままで、前田の周りにいたディーヴァたちも、ほとんど、争いの中心に加わっていた。残りは、不意をつき、前田が拳で打ち倒した。かろうじて、窮地は免れた。
「ヲタ…、みんな…」
そして、一息つく
前田の傍に、白いセーラー服を着た少女がいるのに、気づく。
「アヤメ?」
「お礼なら、あとで、関西のひとたちに言うんだニャ」
前田敦子が、あの恐怖に支配された【エリア】に侵入し、ディーヴァに闘いを挑んでいるという“まさか”の噂が、瞬く間に、大阪中に拡がり、それを耳にした、関西における反ディーヴァと目されるヤンキーたちが、この機に乗じて、ディーヴァに反旗を翻すため、NMB-S(ナンバーズ)の山田ナナを中心に、声を掛け合い、集合を果たし、前田救出にやってきたということだった。
「学ランたち(あの四人)は、無事、確保できたよ」
「アヤメ…、大丈夫なのか?ディーヴァにやられた傷は…」
「何言ってるんだか…、いつまでも、前田ウサギ、ひとりで突っ走らせるわけにいかないニャ」
ふらつく前田に、
手を貸すアヤメ。
「アヤメ…、わたしは、ひとつ、わかったことがあるんだ…」
「ん?」
「わたしは、この戦争を終わらせるために、ここに、来た…、でも、たぶん、この戦争を終わらせるのは、“わたし”なんかじゃ、無理なのかもしれないって…」
「何言ってるニャ?」
だけど、
と、前田は、一区切りし、戸惑うアヤメに、言った。
「──“わたしたち”なら、やれる!」
わたしたち、皆で。
前田は、晴々とした表情で、
「たとえ、“わたし”ひとりじゃ無理だったとしても─」
「前田…」
「わたしは“ひとり”じゃない─、そう、気づかせてくれたのは、仲間たち(あいつら)だった。ずっと、ふさぎこんでたわたしに、勇気をくれた。そして、また、昔のように、笑えるようになった…、だから─、わたしは、闘うよ。みんなと一緒に、最期まで」
「そうか…
(お前がいなきゃ、絶対に、ここまで来れなかっただろう…、関西のみんなが団結することもなかったはず…、お前はやっぱり、ジャンヌダルクだ…、わたしたちを、仲間たちを、勝利へと導く…、
立ち止まってしまったこともあっただろう…、あの日から、ずっと、悩み、迷い、苦しみ、傷つきながら、それでも、けっして逃げずに、前へと進み…、そうやって、ようやく、『あの事件』─みなみのことを、乗り越えることが出来たんだな…)」
涙を堪えるアヤメ。
前田が、騒動の中心、コンテナの上にいる
ヲタのほうを見やる。
「(頼んだぞ…)」
ヲタも、乱闘の最中、前田のその視線に気づいた。気持ちが伝わる。コンテナの上で、ヲタは、次から次とのぼってくるディーヴァの隊員を、殴り、蹴り飛ばし、つき落としていく。
「よっしゃ!これで、おれたち、大阪まで、来た甲斐があったってもんだぜ!こっちは全部まかせとけ!だから、お前は、とっとと、敵の親玉ぶっ飛ばしてきやがれ!」
(無事に東京、帰ったら…、今度は、ジャンケンじゃなく…、本気で、喧嘩─タイマン─だからな…)
チームホルモンの他のメンバーも、必死で、闘っていた。
そんな
仲間たちの気持ちをしっかりと受け止め、前田は、ディーヴァ総帥のいる船に、向かおうとする。本当の決着をつけるために。
アヤメは、
そんな前田に、『目を閉じろ』と囁くと、
「戦場での教訓。その8、無用な争いは避けるべし」
という言葉とともに、何かを地面に投げつけた。
白煙が、辺りをもくもくと、満たしていく。
数秒後。
前田とアヤメふたりの姿は、その場から、忽然と消えてしまっていた。
マジすか学園F☆#3ー2☆
カツ…コツ…と、地下への階段を下りていく足音。
鉄製の階段、そして、コンクリートの壁に、
一定のリズムを刻み、歩を進めるフード付パーカーを纏った少女の表情は、影になって、よくわからない。唯一、視認できる小さな口元がわずかに開く。
「……すまないな、ジュリナ」
ネズミは、先程までのジュリナとの通話を思い返す。前田がいなくなり、目の前で、仲間たちが次々と傷つき倒れていき、焦るジュリナ。
『矢場久根のアジトはどこだ?市川ミオリは、どこにいる?』
「ジュリナ…、矢場久根には手を出すなと言っただろう。奴等とは表向き、休戦協定が結ばれてる。それに…」
『それに?』
「いまのお前じゃ、市川には勝てない…、いや、『マジ女』の中の誰にもな…」
『あのときは、邪魔が入っただけだ!今度こそは勝つ!』
「眩しいな…」
『えっ?』
「お前は、眩しすぎるんだよ…」
通話が途切れる。
大島優子。前田敦子。
ネズミにとっては、皆─。
輝く(ヒカル)者たち。
自分は、それに対し、ただの影でしかなかった。
(あっしには…、“ここ”がお似合いっス)
慣れた様子で、暗い
地下室へと入っていくネズミ。
ここは、矢場久根の秘密のアジトだった。
「なんだ、お前か…、何しに来やがった?」
矢場久根の生徒が、数人、たむろしている。そのうちの頭に、黄色いターバンを巻いたひとりが、ネズミに声をかけてきたのだった。
「市川は…、いないみたいっスねぇ」
「うちの総長、気安く、呼び捨てにしてんじゃねーぞ!コラ!いくら、裏で繋がってるっつっても、礼儀ってものが…」
「雑魚が!」
ネズミの拳が、ターバンの少女に、次の言葉を言わせなかった。
「てめーッ!裏の協定、破るつもりか?」
その場に、緊張が走る。矢場久根の生徒が、いまにも、襲いかかりそうになっていた。
「前田のいない『マジ女』に、“意味”なんて、ないんスよ」
「はぁ?何言ってんだ!」
容赦なく、殴りかかってくる生徒たちを、ひらりとかわし続けるネズミ。
けっして、頭脳だけではなかった。
(それに、“あいつ”が…
きっと、無茶をする…)
そのとき。
「こうなることは…わかってたよ」
地獄の底から響くような声が、入口の方から聞こえた。
「わかって…いたんだよ、ネズミ」
そこに、現れたのは、
矢場久根商業新総長、市川ミオリ。悪魔のような笑みをたたえ、
「協定を破棄するつもりか…、せっかく、お前には、マジ女の“てっぺん”の座を用意してやったというのに…、残念だ」
情報と引き換えのお膳立てだった。
「物心がついた頃っスかねぇ…」
ネズミが、話を続ける。
「国会議員を父親に持つと…、欲しいものは、何でも簡単に、手に入ったっス…、『欲しい』とひとこと言えば、どんなものでも、すべて、与えられてきた…」
視線は、市川を捉えたまま。
「小遣いだって、使い放題…、だけど…、簡単に手に入った、それらのものに…、それほど、『価値』は無かったんスよね…」
「何が言いたい?」
「そんな、あっしが、初めて、自分のちからを以て、どうしても、欲しいものが、出来たんスよ。“あいつ”と一緒に、どうしても欲しいものが」
「それは?」
「それが、マジ女の“てっぺん”だ!」
噛んでいたガムを、吐き出し、
「“てっぺん”は、与えられて、なるものじゃない…、“てっぺん”を倒し、“てっぺん”に認められてなるものだ…、だから…」
ネズミが、市川に向かって、走る。
「前田のいない『マジ女』は…、あっしが守るっス!」
鉄製の階段、そして、コンクリートの壁に、
一定のリズムを刻み、歩を進めるフード付パーカーを纏った少女の表情は、影になって、よくわからない。唯一、視認できる小さな口元がわずかに開く。
「……すまないな、ジュリナ」
ネズミは、先程までのジュリナとの通話を思い返す。前田がいなくなり、目の前で、仲間たちが次々と傷つき倒れていき、焦るジュリナ。
『矢場久根のアジトはどこだ?市川ミオリは、どこにいる?』
「ジュリナ…、矢場久根には手を出すなと言っただろう。奴等とは表向き、休戦協定が結ばれてる。それに…」
『それに?』
「いまのお前じゃ、市川には勝てない…、いや、『マジ女』の中の誰にもな…」
『あのときは、邪魔が入っただけだ!今度こそは勝つ!』
「眩しいな…」
『えっ?』
「お前は、眩しすぎるんだよ…」
通話が途切れる。
大島優子。前田敦子。
ネズミにとっては、皆─。
輝く(ヒカル)者たち。
自分は、それに対し、ただの影でしかなかった。
(あっしには…、“ここ”がお似合いっス)
慣れた様子で、暗い
地下室へと入っていくネズミ。
ここは、矢場久根の秘密のアジトだった。
「なんだ、お前か…、何しに来やがった?」
矢場久根の生徒が、数人、たむろしている。そのうちの頭に、黄色いターバンを巻いたひとりが、ネズミに声をかけてきたのだった。
「市川は…、いないみたいっスねぇ」
「うちの総長、気安く、呼び捨てにしてんじゃねーぞ!コラ!いくら、裏で繋がってるっつっても、礼儀ってものが…」
「雑魚が!」
ネズミの拳が、ターバンの少女に、次の言葉を言わせなかった。
「てめーッ!裏の協定、破るつもりか?」
その場に、緊張が走る。矢場久根の生徒が、いまにも、襲いかかりそうになっていた。
「前田のいない『マジ女』に、“意味”なんて、ないんスよ」
「はぁ?何言ってんだ!」
容赦なく、殴りかかってくる生徒たちを、ひらりとかわし続けるネズミ。
けっして、頭脳だけではなかった。
(それに、“あいつ”が…
きっと、無茶をする…)
そのとき。
「こうなることは…わかってたよ」
地獄の底から響くような声が、入口の方から聞こえた。
「わかって…いたんだよ、ネズミ」
そこに、現れたのは、
矢場久根商業新総長、市川ミオリ。悪魔のような笑みをたたえ、
「協定を破棄するつもりか…、せっかく、お前には、マジ女の“てっぺん”の座を用意してやったというのに…、残念だ」
情報と引き換えのお膳立てだった。
「物心がついた頃っスかねぇ…」
ネズミが、話を続ける。
「国会議員を父親に持つと…、欲しいものは、何でも簡単に、手に入ったっス…、『欲しい』とひとこと言えば、どんなものでも、すべて、与えられてきた…」
視線は、市川を捉えたまま。
「小遣いだって、使い放題…、だけど…、簡単に手に入った、それらのものに…、それほど、『価値』は無かったんスよね…」
「何が言いたい?」
「そんな、あっしが、初めて、自分のちからを以て、どうしても、欲しいものが、出来たんスよ。“あいつ”と一緒に、どうしても欲しいものが」
「それは?」
「それが、マジ女の“てっぺん”だ!」
噛んでいたガムを、吐き出し、
「“てっぺん”は、与えられて、なるものじゃない…、“てっぺん”を倒し、“てっぺん”に認められてなるものだ…、だから…」
ネズミが、市川に向かって、走る。
「前田のいない『マジ女』は…、あっしが守るっス!」
マジすか学園F☆#3ー1☆
………
『まだまだ、甘口だな』
『どうしたら…、激辛になれる…?』
『おめぇは、“痛み”を感じないんだってな』
『………』
『“痛み”を知らないうちは、強くはなれない…、自分が受ける“痛み”、相手に与える“痛み”、相手が受ける“痛み”、それらを知ったとき、そのとき…、初めて、激辛を超えることが、出来るのかも…な』
【エリアB】では、優勢に見えていたゲキカラだったが、
本人も気づかない内に、一瞬、意識を失っていたようだった。
波動をまとった拳の威力は、一発で、脳を激しく揺さぶる一撃を有する。
波動を自由自在に操ることのできる者と、初めて、波動に触れた者。
全身に凶器と防具を装備した者と、何も身に付けていない者との闘いにも似ている。
長期戦となると、自在に波動を操ることの出来ないゲキカラにとって、不利というほかなかった。
「なんのしがらみもなく、お前と、殴り合いしたかったわ」
勝利を確信するディーヴァ将軍─弐将福本アイナ。
上から命令されたり、時間稼ぎをしたりするのではなく。真っ直ぐに。
「しがらみ…?そんなものが…、闘う理由か…」
「なんでもいいんや。お前を、【エリアK】(前田のとこ)に行かせんかったらな」
ふらつくゲキカラに、アイナは、波動を纏った拳を大きくふりかぶり、叩きつけた。
その拳に、無謀にも自らの拳をぶつけていくゲキカラ。
「ぐぁっ!」
ダメージを受けたのは、ゲキカラのほうだけだった。コンクリートの壁をただ殴っているようにゲキカラには感じた。
「やめとけ…、拳、痛めるだけや」
「やめ…ない、」
「そんなら…、拳もろとも、つぶさせてもらうわ」
またしても、アイナは、結果のわかりきった拳を振るう。
ふたつの拳が激突する。
今度は、
骨の砕ける音がした。
「ぐ…、あああああああっ!」
(優子さん…)
両膝をつき、
右手を掴み、
苦痛に歪む表情をみせるゲキカラ。もちろん、右拳の骨が砕けたのはゲキカラのほうだった。
(これが、『痛み』…)
初めての激痛に、意識も遠のいていく。
(『痛いか?痛いだろ?それが、“痛み”ってやつだ。その苦痛を受け止め、乗り越えたとしても、おめぇの過去が、清算されていくわけじゃねぇ。そんなに簡単じゃねぇんだ…、それでも、おめぇは、生きていかなきゃいけねぇ、負けちゃダメなんだ…、それが、贖罪ってやつだ』)
優子の声がする。
(『お前が、お前であるために…、お前であり続けるために…
ゲキカラ…、絶対、負けんじゃねぇぞ!』)
頭の中で、
優子の檄が飛ぶ。
どんなときでも、どんなに苦しくても、優子の声が、自分を奮い立たせてくれた。絶対に負けられない。
遠くで、汽笛が鳴る。
「時間稼ぎは、ここまでやな」
その言葉を聞いて、ゲキカラが笑う。
「フフ…、ハハハハハハ…ハハハハハハハハハハハハハハハハ…」
「何が、おかしいんや?」
「こっちも…、十分、時間稼ぎができた…、将軍のなかでも…、最強と呼ばれるお前を…、ここに、とどめておくことが…できた」
「負け惜しみやろ!それに、いまから、行ったら、まだ間に合う!」
「行かせない…」
眼光鋭く、ゲキカラが、立ち上がる。
「わたしは…、負けられ…ない、負けたら…、怒られる…」
「これで、引導わたしたるわ!」
アイナの波動を纏ったトドメの一撃が、半死半生のゲキカラを襲う。ゲキカラも、左の拳を突き出す。
一瞬の後。
ふたたび、
絶叫が、響き渡った。
「ぐぅああああああああああああっ!」
拳の砕けた音と共に。
しかし、拳が砕けたのは、
今度は、
仕掛けたアイナのほうだった。
「な…、なん…で…?」
同じだった。
先程までと。拳と拳がぶつかり合い、波動をまとった自分の拳が、なぜ、逆に、砕けたのか。
「波動…か…?」
アイナが問う。
「“マジ”…だよ」
涼しげな表情で、ゲキカラが、ぽつりと答えた。
その後、二人は、傷を負ったまま、さらに、殴りあいを続けた。果てしなく─。
果てしなく。
そして─
最後に、その場に立っていたのは、傷だらけの血にまみれた、いまにも倒れそうな、ゲキカラただひとりだけだった。
「優子さん…、終わったよ…、フフ…、また、怒られる…かな?……、でも…、こんな…、わたしでも…、超えること…、出来たかな…?」
ゲキカラが、顔を上げる。
「いままでの…、わたしを─」
見上げる空には、
優子の笑顔のように眩しい太陽があった。
『まだまだ、甘口だな』
『どうしたら…、激辛になれる…?』
『おめぇは、“痛み”を感じないんだってな』
『………』
『“痛み”を知らないうちは、強くはなれない…、自分が受ける“痛み”、相手に与える“痛み”、相手が受ける“痛み”、それらを知ったとき、そのとき…、初めて、激辛を超えることが、出来るのかも…な』
【エリアB】では、優勢に見えていたゲキカラだったが、
本人も気づかない内に、一瞬、意識を失っていたようだった。
波動をまとった拳の威力は、一発で、脳を激しく揺さぶる一撃を有する。
波動を自由自在に操ることのできる者と、初めて、波動に触れた者。
全身に凶器と防具を装備した者と、何も身に付けていない者との闘いにも似ている。
長期戦となると、自在に波動を操ることの出来ないゲキカラにとって、不利というほかなかった。
「なんのしがらみもなく、お前と、殴り合いしたかったわ」
勝利を確信するディーヴァ将軍─弐将福本アイナ。
上から命令されたり、時間稼ぎをしたりするのではなく。真っ直ぐに。
「しがらみ…?そんなものが…、闘う理由か…」
「なんでもいいんや。お前を、【エリアK】(前田のとこ)に行かせんかったらな」
ふらつくゲキカラに、アイナは、波動を纏った拳を大きくふりかぶり、叩きつけた。
その拳に、無謀にも自らの拳をぶつけていくゲキカラ。
「ぐぁっ!」
ダメージを受けたのは、ゲキカラのほうだけだった。コンクリートの壁をただ殴っているようにゲキカラには感じた。
「やめとけ…、拳、痛めるだけや」
「やめ…ない、」
「そんなら…、拳もろとも、つぶさせてもらうわ」
またしても、アイナは、結果のわかりきった拳を振るう。
ふたつの拳が激突する。
今度は、
骨の砕ける音がした。
「ぐ…、あああああああっ!」
(優子さん…)
両膝をつき、
右手を掴み、
苦痛に歪む表情をみせるゲキカラ。もちろん、右拳の骨が砕けたのはゲキカラのほうだった。
(これが、『痛み』…)
初めての激痛に、意識も遠のいていく。
(『痛いか?痛いだろ?それが、“痛み”ってやつだ。その苦痛を受け止め、乗り越えたとしても、おめぇの過去が、清算されていくわけじゃねぇ。そんなに簡単じゃねぇんだ…、それでも、おめぇは、生きていかなきゃいけねぇ、負けちゃダメなんだ…、それが、贖罪ってやつだ』)
優子の声がする。
(『お前が、お前であるために…、お前であり続けるために…
ゲキカラ…、絶対、負けんじゃねぇぞ!』)
頭の中で、
優子の檄が飛ぶ。
どんなときでも、どんなに苦しくても、優子の声が、自分を奮い立たせてくれた。絶対に負けられない。
遠くで、汽笛が鳴る。
「時間稼ぎは、ここまでやな」
その言葉を聞いて、ゲキカラが笑う。
「フフ…、ハハハハハハ…ハハハハハハハハハハハハハハハハ…」
「何が、おかしいんや?」
「こっちも…、十分、時間稼ぎができた…、将軍のなかでも…、最強と呼ばれるお前を…、ここに、とどめておくことが…できた」
「負け惜しみやろ!それに、いまから、行ったら、まだ間に合う!」
「行かせない…」
眼光鋭く、ゲキカラが、立ち上がる。
「わたしは…、負けられ…ない、負けたら…、怒られる…」
「これで、引導わたしたるわ!」
アイナの波動を纏ったトドメの一撃が、半死半生のゲキカラを襲う。ゲキカラも、左の拳を突き出す。
一瞬の後。
ふたたび、
絶叫が、響き渡った。
「ぐぅああああああああああああっ!」
拳の砕けた音と共に。
しかし、拳が砕けたのは、
今度は、
仕掛けたアイナのほうだった。
「な…、なん…で…?」
同じだった。
先程までと。拳と拳がぶつかり合い、波動をまとった自分の拳が、なぜ、逆に、砕けたのか。
「波動…か…?」
アイナが問う。
「“マジ”…だよ」
涼しげな表情で、ゲキカラが、ぽつりと答えた。
その後、二人は、傷を負ったまま、さらに、殴りあいを続けた。果てしなく─。
果てしなく。
そして─
最後に、その場に立っていたのは、傷だらけの血にまみれた、いまにも倒れそうな、ゲキカラただひとりだけだった。
「優子さん…、終わったよ…、フフ…、また、怒られる…かな?……、でも…、こんな…、わたしでも…、超えること…、出来たかな…?」
ゲキカラが、顔を上げる。
「いままでの…、わたしを─」
見上げる空には、
優子の笑顔のように眩しい太陽があった。