「固定金利は貸し手が、変動金利は借り手が金利上昇リスクを受ける」という都市伝説 | 池上秀司のブログ

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住宅ローンの解説には「低金利時代は固定金利、高金利時代は変動金利」という都市伝説がありますが、最近では「固定金利は貸し手が、変動金利がは借り手が金利上昇リスクを受ける」という都市伝説を聞くことがあります。しかし、実態として固定金利は変動金利よりも金利が高いのですから、「変動金利がその金利(もしくは返済額)になるまでのリスクは借り手が引き受けた」ということの方が正確ではないでしょうか。

では、借入額4,000万円、返済年数35年、変動金利を0.45%、全期間固定金利を1.35%として、経過年数ごとに変動金利が全期間固定金利の金利になった場合の返済額を見てみましょう(変動金利は5年ルールがありますが、ここではわかりやすくするため、1年後、3年後も返済額が変化したとして計算しています)。



このように、経過年数ごとに返済額は下がっていきます。なぜかというと、利息の計算式は

その時点の借入残高 × 金利

で表され、経過年数ごとに借入残高が減少しているからです。

そこで、次に「変動金利が、経過年数ごとに当初から全期間固定金利で借りていた場合の返済額(119,559円)に到達する金利は何%か」を見てみたいと思います。現実にはこのような急上昇は考えにくいですが、金利に与える残高の減少を理解するための数値としてご理解ください。



時間が経過すると、当初から全期間固定金利で借りていた場合の返済額に到達する金利は高くなります。ここでも「残高」が大きく影響しています。つまり、「変動金利の返済額が全期間固定金利の返済額になるまでの金利上昇リスクは借り手が引き受けた」ということになり、「将来は借入当初の金利以上の金利上昇を引き受け、時間の経過に伴い、変動金利の返済額が全期間固定金利の返済額を上回るハードルは高くなる」といえます。

せっかくなので、初回の返済の内訳も見てみましょう。



返済額の差は16,603円、利息の差は30,000円、元金充当額の差は13,397円になります。ここで気にしていただきたいのは、返済額が少ない方が、実際の借入を多く返済している(元金充当額が多い)ということです。元金充当額が多いということは、借入残高がどんどん減っていく=将来の金利上昇の影響が小さくなるということです。

そして、利息の額がちょうど3倍になっていますが、それは金利が3倍違うからです。初回の利息の計算は以下の通りです。

変動金利:4,000万円×0.45%÷12=15,000円
全期間固定金利:4,000万円×1.35%÷12=45,000円

「固定金利の返済額は変動金利が上昇した場合の保険料」と表現されることがありますが、こうして返済額の内訳、利息や元金を見てみると、印象が変わる方もいらっしゃるかと思います。利息や残高という観点から見ると、「借入当初は保険料が高く、時間の経過(残高の減少)によって、保険料は低くなる」といえるのではないでしょうか。

 

固定金利で借りて多くの返済額(利息)を支払うことも金利上昇対策ですが、変動金利で借りて「残高を減らすことも金利上昇対策」といえ、どちらを選ぶかは、借り手の皆さんがこういった数値を把握して、ご自身の生き方、考え方に合っている方を選んでいただければと思います。

 

令和になっても、多くの専門家(?)から「残高を減らして金利上昇対策をする」は語られず、日銀が金融緩和継続を明言しているのに「金利上昇があぁぁーーー」ばかりが繰り返されている現状は、憂うべき事態といえるでしょう。