「変動金利ローンは落とし穴がいっぱい!」の落とし穴 | 池上秀司のブログ

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ファイナンシャルプランニングに関することを中心に、好き勝手に書きます。

先日、ブックオフで「住宅ローンはこうして借りなさい」の改訂4版(2012年12月発行)があったので、200円で買いました。著者は「変動金利は危険です」を生き甲斐にしている深田晶恵さんなので、軽く読んでみただけで明らかな欠陥箇所がありました。表紙に

大人気の変動金利ローンは落とし穴がいっぱい!

とありますが、著者本人が落とし穴にハマっています





P.48の見出しには「10年固定金利がオススメ」、P.49には「金利を約束する期間が6ヶ月の変動金利より割安ですね!」と書いてあります。そもそも、「割安」の基準がよくわかりません。10年固定は金利を固定する期間が6ヶ月の20倍だから、変動金利の20倍の金利が妥当だとでもいうのでしょうか。意味不明です。

今はその10年固定が0.8%で借り入れできるのですから、1.4%は「割高」ではないでしょうか。これでわかるのは、彼女は今のようなさらなる低金利にはならないと思い込んでいたということです。未来は不確定なのですから、断定してはいけないという基本中の基本が欠けています。



そして、P.49には、10年固定と変動金利の借入当初の金利比較があります。10年固定は3.6%の店頭金利から金利引き下げが2.2%。実際にお客様が使う金利(適用金利)は1.4%。変動金利は店頭金利2.475%から1.6%引き下げられて、適用金利は0.875%。確かに金利引き下げ幅は10年固定の方が大きいですが、店頭金利が違うので実際に使う金利は変動金利の方が低くなっています。それでも、10年固定を勧めるという理由も理解不能です。

続いてP.50の「おいしいとこ取り金利ミックス返済を活用してラクラク返済」では、冒頭に

30ページで「変動金利は危険」と書きました

とあり、P.122に

変動金利で借りていい額は最大1,000万円~1,500万円。残りは固定金利で
超低金利の今、変動金利のまま10~15年くらいで返済を負えられるくらいの金額だったら利用可能

と記載されています。では、整理して考えてみましょう。では、ここでの落とし穴はなんでしょうか。それは

10年固定の11年目以降

です。

まず、P49に関連して、10年固定の11年目以降、金利タイプはどうなるでしょうか。当ブログを読んでいただいている皆さんであれば、「基本中の基本でしょ」と思いますね。そうです、自動的に変動金利に移行します。固定しているのは10年間だけなのですから「10年固定」なのです。一定期間金利を固定するのは「特約」であり、主契約は「変動金利」と理解してください。特約がなくなれば主契約になるのは当然のこと。

次に、10年固定の11年目以降の「金利引き下げ幅」はどうなるでしょうか。調べてみたところ、2012年末に借り入れした場合は「その時点の店頭金利から▲1.4%」とあります(最初から変動金利で借り入れしている場合は、完済まで▲1.6%は変わりません)。

つまり、

■11年目からは「落とし穴がいっぱい」の変動金利になる
■その変動金利は、最初から変動金利で借りている場合よりも適用金利は高い


ということ。それを、P.51の下図で考えます。





ここでは、変動金利と10年固定を組み合わせた「ミックス返済」を推していますが、これは「3,000万円を10年で完済した場合」の図です。しかし、それは多くの方には当てはまりませんし、本文にも「10年で完済」という空気は一切ありません。正しい図は以下です(35年返済の場合)。



11年目以降は変動金利になりますね。当初の10年を比較しました。



10年固定は11年目から、1,525万円・25年返済・変動金利で再スタートするということです。仮に現在から10年間、金利の変更がなかったとすると、11年目以降の適用金利は2.475%-1.4%=1.075%。最初から変動金利で借りていれば、2.475%-1.6%=0.875%。つまり、最初から変動金利で借りていた場合よりも、その後の25年間は0.2%高い変動金利を使います。なにより、11年目開始時点ではP.122に記載してある、借入残高1,500万円以上、返済年数は15年以上、彼女のいう「利用可能」な範囲を超えています。アウトですね。

そして、「ミックス返済で変動金利の方から繰上返済する」とありますが、深田さんの論調で考えるならば、10年固定は「11年目から金利が高く、残高も多い変動金利」になるのですから、10年固定を繰上返済するべきです。最初から変動金利で借りている1,000万円分を「変動金利(A)」、10年固定の11年目以降を「変動金利(B)」として、10年経過後の121ヶ月目の比較表を作りました。どちらの返済に注力すべきかは一目瞭然です。



当初10年間、1,000万円しか借りていない変動金利が危険ならば、11年目以降はもっと危険になるはずです。その対策のために、残高の減る繰上返済を活用するべきでしょう。それとも、11年目以降は危険ではないという明確な根拠でもあるのでしょうか(あるはずがない)。

もちろん、変動金利で借り入れしている間は、お客様が申し出をすれば、固定金利へ移行できます。しかし、現状とはいえ、同じ10年固定で店頭金利は3.0%。それをそのまま採用したとして、11年目以降の適用金利は3.0-1.4%=1.6%と変動金利よりも高く、当初の10年よりも返済額が上がります。こういった点も欠落しています。

この本は、大切な情報が抜け落ちている「欠陥商品」レベルであるという証明は、この数ページだけで十分です。

このように、「変動金利は危険です」という偏見にのめり込んだ結果、10年固定の11年目以降が見えなくなる=落とし穴にハマっているのは明らかに深田さん本人。利息も、元金も、残高も、まったく見えていません。それによって損をするのは一般消費者の皆さんです。

彼女や発行元のダイヤモンド社は、このような明らかな間違いに対して、本の返品を受け付けることもしなければ、実際ローン返済で発生した損失の補填もしません。もちろん、私も同様です。だからこそ、偏ることなく公平に情報を提供し、お客様と一緒に考えていくことが我々FPに求められます。おかしなプロパガンダで片方に誘導することなど、あってはいけません。

深田さんのツイッターのプロフィールには

買い手寄りのマネー情報を発信

とあります。ですから、この本の表紙には「銀行も不動産会社も教えてくれない!正しいローンの選び方」とありますし、第一章の一番最初のP.24には、

売り手側にだまされるな

と書いてあります。しかし、こういう「モノを売る人=悪」というレッテル貼りをする人間は、消費者の味方を気取った偽善者で、実際は「本の売り手」なので注意が必要です。本が売れさえすればいいのです(自称保険コンサルタント後田亨さんも同類)。下衆の極みです。

このようなトンデモ解説で消費者に損失を与えてきたのですから、だましてきたのは深田さん本人。銀行や不動産会社の方達に対して非常に失礼極まりない物言いです。彼女は現場の皆さんにナメた口をきける立場ではないと自覚するべきです。

今回は2012年末から今の事例なので、これから借り入れする皆さんには直接的には関係がないような話かもしれません。しかし、こういった不適切な事例をこのように記録しておくことで、同じ過ちを繰り返さないうようにするのも、FPの仕事ではないかと考えています。