ウソのウソ | 池上秀司のブログ

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ファイナンシャルプランニングに関することを中心に、好き勝手に書きます。

以下について考えてみます。

「住宅ローンの頭金は多いほどよい」説のウソ
じつは多様な選択肢がある


「頭金は多いほどよい」ということを「ウソ」と言っています。私も頭金は多くなくてもいいということがありますが、これは受け入れがたい論調でした。この手の記事には「自分の論調に都合の悪い部分が欠落する」という特徴があります。

記事ではケース①(頭金2割:借入金額3,200万円)の場合と、ケース③(頭金1割:借入金額3,600万円)を比較して、「ケース③(頭金1割:借入金額3,600万円にして5年後に400万円繰上返済)の方がトクだ」といっています。書いてある数字の部分は間違っていませんが、この記事では大切なことが欠けています。それは

返済額の差額

です。

ケース①の場合、月々の返済額は99,238円。ケース③は111,643円。差は月12,405円。ケース①を選択し、ケース③との返済額の差額を5年間貯めると約74万円になります。その74万円を5年毎に繰上返済した場合どうなるでしょうか(ケース④とします)。総返済額は4,843万円。ケース③(総返済額4,870万円)よりも、総額では27万円程度少なくなります(以下償還表参照)。



というか、中嶋よしふみさんというFPは常に「リスク、リスク」といっています。記事でも

頭金を減らしてライフプランの波を乗り越えてから残しておいた資金で繰り上げ返済をすると

とあります。では、彼のいう「ライフプランの波」とは、借り入れから最初の5年を過ぎたら発生しないのでしょうか。文末を読むとそういう感じを受けませんが、6年目以降はリスクを考えないでいい理由は示されていません。借入金額を少なくした方が5年後に一気に繰上返済をしてしまうより、6年目以降も25年という長い期間に渡り、手元に現金が確保できます。

これは「頭金2割で30年ローンを組む」という状況に近い

とあります。「これ」とはケース③を表していますが、頭金2割=借入金額3,200万円・1.58%・30年の場合、月々の返済額が111,671円。総返済額は約4,820万円なので、ケース③との差は50万円程度。これが近いか、遠いかを決めるのはあくまでも借主なので、数字を出すことなく「近い」という言葉を使うことは理解しかねます。



それと、

利息は金利・借入額・返済期間の3つの要素で決まる

とありますが、利息の計算式は

その時点の借入残高 × 金利

なので、返済期間は直接関係しません。返済期間よりも見るべきは「元金充当額」です。返済年数を35年と10年で比較した場合、1回目の利息額はどちらも同額です。なにが異なるかというと「元金充当額」です。なぜ、10年で終わるのか、なぜ利息の支払が少ないのかというと「元金充当額が多い」からです。これらはローン償還表(以下画像)で確認できます。



返済額や返済期間というのは表面的な話であって、「利息」「元金」「残高」がその根幹に関わっています。

「繰上返済は早い方がいいか、遅くてもいいか」「頭金は多い方がいいか、少なくてもいいか」ということは損得で考えるとわかりやすいので、知っていて損はありません。その上で、実際の返済プランはその先でお客様のご要望、ご都合、生き方、考え方に合わせて作っていくので、損得で解決しないこともあります。ですから、「多様な選択肢」という部分は同意します。

しかし、この記事は「じつは多様な選択肢がある」といいつつ、自分の論調に不利な選択肢(ケース④)は提示していません。FPであり、多様な選択肢があるならば、私がここに記載したような選択肢(ケース④)も示して当然ですが、それでは「ウソ」という言葉が使えなくなり記事にインパクトがなくなります。ブログアクセスを目的にしている書き手はそういう選択はしない(できない)でしょう。

このように、いわゆるセオリーの逆張りをして目立とうとすると、都合よく考えて大事な視点が抜け落ちるケースがあるので、安易に「ウソ」などという言葉を使う輩にはご注意ください。