週刊文春のデタラメ | 池上秀司のブログ

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ファイナンシャルプランニングに関することを中心に、好き勝手に書きます。

先日、とある飲食店でたまたま週刊文春7月23日号を手に取ったのですが、

中国ショックで蘇る 「バブル崩壊」の悪夢

という特集を見た途端、食事どころではなくなりました。この記事で、変動金利の不安を煽る連中のインチキ具合がよくわかります。

まぁ、見出しの時点でアウトです。『蘇る「バブル崩壊」』の隣に「住宅ローン金利増」と書いてありますが、日本ではバブルが崩壊して金利は下がりました。冒頭から事実を捻じ曲げています。

そして、33ページに住宅ローンに関する記述があります。(以下引用)

当然、長期金利と連動している住宅ローン金利にもその影響は波及する。
「四千万円を三十五年ローンで借りたとします。年0・七七五%の変動金利だと、毎月の支払い額は十一万円弱ですが、金利が今より二%上昇しただけで、十五万円前後にまで跳ね上がる。銀行はたいてい『しばらく金利は低いままだから変動金利でも大丈夫』と言いますが、信用してはいけません」(ファイナンシャルプランナー)



たったこれだけの文章に、間違いだけが書いてあります。この記事こそ、信用してはいけません。

■間違いその1
変動金利は長期金利と連動していません。変動金利は短期金利=政策金利(無担保コールレート・オーバーナイト物の誘導値)に連動しています。ですから、2013年5月に長期金利が急上昇したときも、微動だにしていません。
【参考】
メディアが教えてくれない本当の住宅ローンの話① 【金利の指標編】
メディアが教えてくれない本当の住宅ローンの話② 【変動金利編】
メディアが教えてくれない本当の住宅ローンの話③ 【利息・元金・残高編】

■間違いその2
前述の通り、変動金利は日銀の金融政策の影響を受けます。現在「大規模金融緩和」の真っ最中。金融緩和とは、金利を下げることか、下げることかといえば「下げること」。金利は下げようがなくなったので量的緩和政策に移行し、昨年10月にその量的緩和を拡大しました。ですから、政策金利の上昇は、可能性がゼロでないというだけで、常識ではあり得ません。

■間違いその3
仮に政策金利を上げるにしても、「金融調節を行うにあたっては物価の安定図ること」と日銀法(第一章二条)で規定されています。2000年代半ばの「ミニバブル」と呼ばれた時期でさえ、変動金利(店頭金利)は2.875%で今より0.4%しか高くありません(当時の政策金利は0.5%)。それから考えれば、2%というのはとてつもない上昇幅。それを「2%上昇しただけで」と軽く考えているのはただの経済音痴です。

■間違いその4
そして、百万歩譲って変動金利が2%上昇しても、返済額は15万円に跳ね上がりません。変動金利を借りている方は圧倒的に元利均等返済が多く、その場合

・返済額は5年間一定
・5年毎の見直しの際、金利が上昇していても、返済額はそれまで5年間の返済額の1.25倍が上限

だからです。4,000万円・0.775%・35年返済だと返済額は108,768円。1.25倍は135,960円です。つまり、この額が6年目から10年目までの返済額の上限となります。

以上より、この記事はただの欠陥です。今すぐ変動金利が2%上昇し、返済額が15万円に跳ね上がるというのは、地球と火星が衝突するというレベルの話。こんなデタラメで消費者を不安に陥れるなど、仮面ライダーのショッカー級の悪の組織といっていいでしょう。

そして、こんなことをいうファイナンシャルプランナーが本当にいるなら、今すぐ資格を剥奪し、業界から追放するべきです。