ミックスプラン信仰にだまされるな その① | 池上秀司のブログ

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日経電子版で住宅ローンについて高田晶子さんと深田晶恵さんという二人のFPが相変わらず変動金利のネガティブキャンペーンしていました。いつまでも進歩がありません。

住宅ローンで迷ったら 金利や期間に「二刀流」

いわゆるミックスプランについて記載していますが、仮にも専門家を名乗る人達が都合のいい一面しか見ておらず、デメリットを完全に見落としているというあまりにもお粗末な記事です。今回はまず高田さんのコメントの不適切な部分について記載します(以下引用)。

ファイナンシャルプランナー(FP)の高田晶子氏は「変動金利の比率が高いほど金利上昇時の返済額が増える点に要注意」と指摘する。総額3000万円を変動2100万円、固定900万円で借り、金利が2%上昇すれば、毎月の返済額は1万6500円多い11万8025円になる。
 このため変動金利の借入額を少なくし、繰り上げ返済をするのが重要だという。繰り上げ返済は通常、金利の高いローンから返済するのが原則だが、将来の金利上昇の可能性を踏まえると「変動金利から返済した方がいい」と高田氏は助言する。

最初は安易に「金利が2%上昇すれば」と書いてある部分。当ブログでは何度も指摘しましたが、変動金利は日銀の金融政策(政策金利:無担保コールレート・オーバーナイト物の誘導金利)の影響を受けます。現在日銀は大規模金融緩和中。無根拠に変動金利が2%上昇するという予測を前提条件として採用することの妥当性がありません(以下は無担保コールレート・オーバーナイト物、短期プライムレート、変動金利の推移をグラフ化)。



未だに「変動金利が2%上昇したらどうなるか」だけで終わらせ「変動金利が2%上がるのかどうか」という観点を欠落させているのは思考停止を招いている証拠です。現在2%上昇が見込まれるのは変動金利ではなく消費税です。消費増税により景気が冷え込むのではと懸念されています。当然、消費が冷え込めば低金利が続く(金利は上がりにくくなる)と考えられるのに、あっさり「変動金利が2%上昇」など記載できるのは、はさすが日本経済(音痴)新聞の本領発揮ともいえるでしょう。

これは「将来の金利上昇の可能性を踏まえると」という記述から察するに、高田さんは「変動金利は急上昇する」ということ懸念していると推測します。しかし、日銀が金融政策を行う際は「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもってその理念とする」と日銀法で規定されています。つまり、急激な変化は法律で禁じられています。これを高田さんが知らないので高田さん自身が不安なのです。

次に「変動金利の借入額を少なくし、繰り上げ返済をするのが重要」とありますが、

・変動金利だけで借りれば、毎月の返済ではミックスより元金返済が進む
・ミックスよりも返済額が少ないので繰上返済資金が作りやすい
・よって元金返済が進むので金利上昇の影響が小さくできる

という点がやはり欠落しているので説得力に欠けますというより理解ができません。以下3通りのローン償還表を見ればそれは明らかです(金利は紙面に合わせ変動金利:0.875%、固定金利2.4%で試算)。

①変動金利のみ3,000万円


②変動金利2,100万円+固定金利900万円


③変動金利900万円+固定金利2,100万円


高田さんのいう通り変動金利の割合を少なくした場合(③)、変動金利だけのとき(①)より返済額が月15,543円増加します。これだけ繰上返済の原資に差が出ます。そして、1回目の返済では返済額が15,543円多く返済するのに、元金返済は11,144円減ります。さらに利息を見てみると、変動金利だけであれば21,875円ですがミックスプランは48,563円。+26,688円と2倍以上になります(←たった一回の返済です)。

つまり、変動金利だけ(①)の場合、一年で186,516円の繰上返済資金が作れ、一年後③よりも借入残高が130,895円も少なくなっているところにそれを投入するので、一年後の借入残高は単純計算では317,411円もの差になります。高田さんの見立てとは、繰上返済が重要といっておきながら、繰上返済資金は作りにくく毎月の返済でも元金が減らないということ。繰上返済を考えた場合は明らかに非効率です。

直近一年で変動金利の金利上昇の可能性が高いか低いかの判断も必要ですが、常識で考えればそんなに気にすることもありません。この試算では金利差が非常に大きいのですからミックスしてもなんの意味もないどころか、高い金利を組み入れることで利息が増え元金返済が滞ります。この点をご理解ください。

変動金利が将来2%上昇すると118,025円とありますが、いつの時点で2%上昇するのかによってその影響は違います。その記載がないので議論する価値もありません。なによりそれを回避しようと固定の割合を多くすればかり初めから11万円台に突入です。それはなんともないのでしょうか?

将来の金利上昇を回避させるために変動金利を減らし固定金利を増やせば残高の多い借入当初に金利上昇します。将来金利上昇しないのは、借入時に将来の金利上昇を顕在化させているだけのことです。将来の金利上昇だけを見て借り初めの金利上昇の意味を見落としては専門家を名乗る資格がありません(そんなFPばかりですが…)。

実は私は以前、高田さんと同じ誌面に登場してます。以下は2012年1月の記事ですが、どちらの考えが「間違いだらけ」だったかは事実が証明しています(しかし、私の似顔絵は痛々しい)。

間違いだらけの〝住宅ローン返済術〟

最近、雑誌かなにかの「2020年までになくなる職業」という記事にFPが入っていたそうです。その特集自体も大変くだらないのですが、それに反応したFP達が徒党を組んだそうで、そのfacebookページを拝見しましたが、あまりに見当はずれでビックリしました。まず、住宅ローンの助言において具体的に利息、元金、残高を示すことができず、変動金利のネガティブキャンペーンしかできないFPは、2020年を待たずに今すぐいなくなっていいと認識してください。

次回はもう一人、住宅ローンアドバイスの第一人者(非公式)である深田さんのコメントについて触れます。