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ファイナンシャルプランニングに関することを中心に、好き勝手に書きます。

本日発売の週刊朝日に住宅ローンに関する記事がありますが、私のコメントが掲載されています。

週刊朝日2013年12月27日号

同じ誌面にここのところ私が取り上げている淡河範明さんのコメントもあったりして興味深いのですが、相変わらずツッコミどころ満載でした。その中でも「変動金利はリスクが大きい」という指摘は的外れです。

変動金利を考えるときには、以下3点を考慮する必要があります。

・不確実性
・日銀の役割
・残高

淡河さんは「将来金利が上がる可能性がある」という「可能性の有無」だけでリスクを考えています。ですから、将来金利の上がる可能性のある変動金利はリスクが高く、その可能性がない全期間固定はリスクが低いという解釈です。

しかし、リスクは「不確実性」を無視して考えられません。不確実性が高い(実現する可能性が低い)とリスクは高くなりますし、不確実性が低い(実現する可能性が高い)のであればリスクは低いという感じですね。宝くじの一等と末等では当選する可能性が違いますから、普段から私達はそういうことを考えて生活しています。

変動金利のリスクが高くなる状態(わかりやすくいえば「金利が上がる」)になるには2つのハードルがあります。

一つは景気回復。もう一つは日銀の金融政策です。

景気回復という観点で考えた場合、「変動金利の金利が上がって大変」とはいい方を変えれば「日本にバブルが再来する」ということ。これの可能性が高いか、低いかで考えてみてください。今、日本は大規模金融緩和中ですから、バブル再来の可能性は低いと考えるのが妥当です。淡河さんはその低い可能性を前提に物事を考えるのですから、宝くじであれば高額当選をあてにするようなもの。どう考えても、そちらの方がリスクの高い選択です。

「リスクのない選択」というのはほとんど世の中に存在せず、例えば道を歩いていて鉄骨が落ちてくる可能性も、横断歩道で信号待ちをしていたら車が突っ込んでくる可能性も「ゼロ」ではありません。世の中なにかしらのリスクと常に隣り合わせです。ですから、リスクは「有無」でなく「高低」で考え、可能性の高い方を優先して考えればリスクは軽減できます(可能性の低い方を優先すればリスクが高くなる)。

そうすると、「将来はわからない」という反論が返ってくるでしょうが、いずれ景気回復したとしても日銀が金融政策を実施する際は日銀法で「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもってその理念とする」と規程されているのですから、いきなり何%も上昇する可能性はやはり低いと考えるのが妥当でしょう。

淡河さんは日経電子版のコラムを見ても変動金利がある日突然2%、3%と金利上昇するという思考のようですが、その可能性は日銀法から鑑みれば著しく低く、それを前提に物事を考える方がリスクが高い選択といえるでしょう。

利息負担という面から考えても、借入残高の多い時期に変動金利の2倍以上の金利である全期間固定を選べば利息負担は膨大です(これは本誌に図が掲載されています)。変動金利の金利急騰の可能性は低いのに、より多くの利息を支払う全期間固定の方がリスクが低いというのには「利息負担」「残高の減少」という観点が欠落しています。

変動金利で借り入れすれば全期間固定に比べて少ない返済額で元金返済が進むので、黙っていても将来の金利上昇の影響を小さくしています。将来変動金利の金利は上昇するでしょうが、将来ならば残高は減っています

一方、全期間固定金利型は「日本にバブルが再来して、その高金利がずっと続かないと変動金利より有利にならない金利タイプ」といえ、普通に考えればこれがリスクが低いとはいえないでしょう。ですから、全期間固定の方がリスクの高い選択なのです。

記事中淡河さんの
ただし、『変動型』は『全期間固定型』よりもリスクが大きく、管理しなければならない商品だということは間違いない

というコメントがありますが、「金利が変わる」=「リスク」という短絡的な思考の人達は、専門家を気取らずにできれば黙っていて欲しいと思います。

【追記】
他にも損益分岐レートというのがありますが、金利は変わるといいつつ「35年返済中、途中で1回だけ急上昇してあとはそのまま」という100%あり得ない前提条件による試算なので、一切役に立ちません。実際の変動金利の動きは0.2%とか0.25%ずつになります。リーマンショック前でも今より0.4%しか高くないのです。実際の金利の動きと著しく乖離しています。

文中「FCF」という固有名詞が出てきますが、淡河さんお手製の理屈なので説得力がなく信用性に欠けます。世間には通用しません。4%の金利上昇を想定して資金計画を云々というのも、その可能性はありますが根拠がありませんので、それを前提にする方が危険です。その理屈には残高の減少が欠落していますのでまともに扱えません。よくわからない机上論です。

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