間違いが蔓延してしまう恐れが!


 私はバレrinaさんと云う方のブログをフォローしています。 彼女はとても聡明でプロダンサーや指導者でも解っていない様な事まで研究して理解する様な方なのですが、最近のブログの第5ポジションの作り方に関して誤りがありました。 結構発信力の強いブログなので放置すると誤りが蔓延する恐れを感じていますし、実際に他のブロガーの方も正しい方向に使っているのにバレrinaさんのブログに影響されて誤った方向に軌道修正されている方もいるみたいなので私の方でちょっと解説して置きたいなと思いました。 勘違いして欲しくないのはバレrinaさんを非難している訳ではないと言う事です。 考え方の元になる物を少しでも間違うと違う結果が導き出されてしまうだけで、そこを理解してくれれば正しい方向に考えが改まり正しい答えが出て来ます。 その様にしてより正しいバレエへの理解が深まれば良いなと願っての上の事ですのでバレrinaさんの事は私も素晴らしい方だと尊敬しています。




軸脚はどっち?


 先ずバレrinaさんのブログを要約すると『軸足(後ろ足)と膝と骨盤を理想的な角度に(真横向き)開いてから前足を頑張って開こうとすれば両脚が確りとアンドゥオールされる!』と云う様な内容です。https://ameblo.jp/bishkek/entry-12793657103.html 



 これは先ず『軸脚ありき!』と云う教えに基づいて考えられています。

 『軸脚ありき!』本当にその通りで一分の隙もない正論で正しい考え方です。 でも、ここに間違いの落とし穴があり多くの指導者もその穴に落ちてしまっています。

 その落とし穴とは何か?

 それは第5ポジションの軸脚とは一体どちらの脚か?と云う事です。 皆さんは軸脚とは後ろ脚、若しくはバー側の脚と勝手に思い込んでいませんか?
 それは何故そう思っているのですか?
 本当に後ろ脚は軸脚で正しいですか?
 この『後ろ脚が軸脚!』と云う思い込みが誤りの出発点なのです。 前脚か後ろ脚の何方が軸脚なのかはとても大切な事なのに熟考せずに後ろ脚が軸脚だと盲信してしまう事が一番良くないのです。
 軸脚が前か後ろかと云うのは正しい立ち方が出来るかどうかの分水嶺(ぶんすいれい)です。

 『軸脚ありき』は大正解ですが、その軸脚がどちらの脚かと云う事を間違ったら結果が正しくなくなってしまうのです。

 結論を言うと第5ポジションでの軸脚は前脚です。

 ですから第5ポジションは前脚を完璧に開いてから後ろ脚を前脚に寄せてアンドゥオールしながら締めて行くのが正解なのです。


後ろ脚軸では何が駄目なのか?


 では何故後ろ脚は軸脚では無いのか?という事はプリエをしてみれば解ります。

 後ろ脚を軸にしてプリエをすると前足が浮いてしまうので自然と骨盤が前傾して前足でも床を踏もうとします。 すると頭が前に倒れるのでバランスを取ろうとお尻が後ろに抜けて前傾姿勢が酷くなります。 これで腰を下げるとしゃがみ込む様になり、垂直に床を押せなくなります。 プリエは上体が垂直に上下しなければならないので、この段階で正しいプリエではなくなります。 またこのやり方ではプリエのバネの機能も失われてしまうので単なるスクワット運動になるのです。

 また上体が垂直でない為に安定したプリエは出来なくなります。 試しにセンターで後ろ脚軸でグランプリエをしてみると全く動きの制御が出来ない事に気付く筈です。

 更に第5、第4ポジションのプリエは両膝が骨盤の真横に並ぶのが理想的ですが、後ろ脚軸では両膝が前後に離れてしまいます。

 第5ポジションに真っ直ぐに立っている時にも後ろ脚が軸では前脚の付け根がくの字になってしまいますが、「付け根は真っ直ぐに伸ばす」と教えられている事と相反する事になってしまいますよね。 後ろ脚軸になっているのに軸を変えずに付け根を伸ばそうとする時に皆がやるのが“タックイン”と言われる物で、これは尾てい骨を前方に巻き込む様にする事で、骨盤が後傾して背中が丸くなってしまいます。 他にも前脚を後ろ脚に寄せて第5ポジションを作ると後ろ脚の膝の出っ張りが邪魔になり無意識に膝を緩めてしまいます。 つまり脚を伸ばしていないと云う事です。 これでは第5ポジションとは言えませんよね。

 後ろ脚軸では、上記の様に沢山のデメリットが出て来てアンドゥオールしたいのに出来ない、第5ポジションにしたいのに出来ないと云う負のスパイラルにはまって行くのです。




第5ポジションの足はフの字になっている!


 後ろ脚が軸ではデメリットしか無いと云う事が理解されたかと思いますが、もう一つ知って置かなければならない事があります。 それは『第5ポジションの両足のつま先は第1ポジションの時の様に同じ方向には向かない』と云う事です。 どれだけ人間離れしたアンドゥオールが出来るダンサーでも前後に重ねた足のつま先が何方も真横を向く事等あり得ないのです。 もし「私は出来る」と云う人が居るなら、その人は膝を緩めているか骨盤がズレている事に気付いていないだけです。


 第5ポジションとは前後に開いた脚を極限まで閉じて来た物ですので前バットマンタンデュと後ろバットマンタンデュのアンドゥオールの状態を比べてみれば第5ポジションとはどう云う状態が正しいのかが解ります。


 バットマンタンデュでは後ろの方がアンドゥオールし難い事から、それを閉じて来ると前足と比べて後ろ足はつま先が少し前向きになるのです。 つまり若干フの字形になっているのが普通なのです。 両腿を極限まで締めて行く事で両足も出来るだけ平行に近い形にしているだけで完璧に平行にはなっていないのです。 これを理解していれば間違った答えにはたどり着かない筈です。

 ですから前足は横向きに出来るけど後ろ足が開かないと悩んでいる人はそれでも良いのです。 その状態から骨盤を動かさずに後ろ脚の大腿骨をアンドゥオールする訓練をすればより正しくアンドゥオール出来る様になりますから決して両足を同じ様に開こうとしないで下さい。 それをすると骨盤が斜めに動いて体幹が崩れます。 これは間違って教えている指導者の方達も気をつけて頂きたいです。 身体全体を俯瞰して見れば間違った指導で体幹が歪む事が分かる筈なので局部的に見て指導しない様に勉強して下さい。



 追記、第4、第5ポジションの時に骨盤は両足の中央に垂直に立たせなければならないと習っている人は多いと思います。 実際に正しく立っているダンサーの姿を見ると本当に両足の中央に骨盤が来ています。 しかしダンサー本人は両足の中央に骨盤を持って来るとは考えてコントロールしていません。 全力で前脚に立とうと骨盤を前足の上に引き上げています。 そうする事で初めて両脚が同じ引っ張り方になり骨盤が両足の中央に来るのです。 「両足の中央に骨盤」と考えてコントロールすると必ず骨盤は後ろに外れるので「前脚に完全に立つ」と考えてコントロールして下さい。


 この様に結果としての位置を教える事が全然違う結果を導き出してしまう事が殆どなので指導するにはどの様な過程を通ってそこに至ったのかを見抜く資質が必要なのです。 誰でもが教えられる様な物ではないと知り研鑽を積む事を怠ってはなりません。