今話題の?佐々木俊尚氏の著作を2冊続けて読了。

3年ほど前に購入して途中で挫折していた「フラット革命」と最新刊の「電子書籍の衝撃」の2冊だ。「フラット革命」の方は主にネットジャーナリズムの話で、それはそれで悩ましくも面白いテーマなので、これに 対する考えもちゃんと書いておきたいと思うのだが、今回は、やはり一番旬な話題として電子書籍のことについて書いておきたい。

この本の感想を一言で述べるなら、お陰で色々と考えることができました、ってことになる。(これは私にとっては良書の基準の最も重要な点である。)

今、 出版業界と直接関係のある仕事をしていて、色々な情報や経験をしている中で、書かれている多くの情報は既にある程度は知っていたりもするが、文章になって読むと再認識もでき、なによりも文章を読みながら色々と思いを巡らせることができた。

「本」は言ってみれば、書いてある中身、つまりコンテントを読んで楽しむような形にまとめたパッケージだ。本を一つのパッケージとして楽しみたい人は今後も確実にいるし、本でないと生み出せない価値も多くの本には確実にある。一方で、書いてある中身だけ楽しめれば良いと思う人もいるし、普段はそうでない人にでも中身だけで十分という作品も多くあるはずだ。そのよう な場合は、本は今の本の形では色々と不効率であり、その不効率な部分には何の価値も見いだせてもらえないことになるので、今の本の形を取る必要はなくなる。

「電子書籍」と言うときには、キンドルやiPadのような端末(佐々木さんはタブレットと読んでいる)のことを主に指す訳だが、そこで読まれるコンテンツの制作(ここでデジタルの形であれ、ある種のパッケージングがされる)や販売、流通、サービスといったことを含んだプラットフォームも含めて考える必要があるが、純粋にコンテンツだけを楽しむのであれば、電子書籍すら必要なく、PCとある種のテキストリーダー、あるいはウェブブラウザがあれば良い。ケータイも コンテンツを楽しむのに十分使える。

コンテントだけを楽しむのに加えて、見た目の読みやすさだとか、読む体勢が快適であることや、読む時 や場所、シーン、ライフスタイルとかに色々と心地良くフィットできることを求める時に、電子書籍や汎用デバイス+ブックリーダーのような幅広い意味でのパッケージングの意味が出てくる。コンテントがデジタル信号化されているので、これが様々な形で可能になり、様々な「電子書籍」と呼べるパッケージングがされよう としている。私が携わっているPSPコミックも、マンガというコンテントをPSPという端末で読めるパッケージングをしてユーザーに届けるプラットフォームである。(ちなみに、その意味でPSPはある読み方やライフスタイルに於いてマンガを楽しむのには非常に適していて魅力があると言える。)

佐々木さんは、電子書籍(こ こではマンガではなくてテキスト系書籍の話で、電子書籍は主にキンドルやiPadなどのこと)の登場で、パッケージングの多くを担っている出版社の果たす役割に余り価値がなくなって来ていることを指摘している。パッケージングには本という形の商品にする事以外に、装丁を施し、帯をつけ、マーケティングや宣伝をし、流通に押し込んで書店で平積みにしてもらうようなことが含まれる。確かにこれらの事項は、電子書籍に於いては余り意味がないように思えるし、あったとしても従来の手法とは全く異なることになるので、従来型の出版社がこれを行うことが最適であるとは限らないだろう。そこで、セルフパブリッシングが広がるし、出版社は小規模に分割されて360度契約に基づいたエージェント化してゆくのだという。この点も、方向性としてはある程度そうなって行くのだろう。ただ、時間はそれなりにかかることだろうが。

そ して、電子書籍の衝撃の最後のピースは、ソーシャルメディアなどインターネットが最も有効に機能するツールと連携して、コンテキスト(文脈)を介した本 との出会い、へとつながる。この点も方向としては異論はないし、電子書籍うんぬんの前に既に多くのネットユーザーが本との付き合い方として始めている ことでもあるように思う。すなわち、SNSやブログを駆使して色々な人達とネット上で語り合い、参照し、色々な本を知っては、アマゾンや楽天ブックスで購入する、そんな人も多くいるはずだ。だから、コンテキストを介した本との出会いそれ自体は電子書籍の衝撃ではないのだろが、電子書籍の登場で、セルフパブリッシングや、従来のマスマーケティングに頼らない本との接し方が広がってくること予見しているのだと解釈した。さらには作品の中には著作中のコンテキストにもソーシャルメディアが関わることも指摘されているようだが、これは限定的な作品だけだろう。

色々な可能性がある中で、確実に言える事があるとすると、次のようなことだ。すなわち、どんな理由であれ電子書籍は普及してゆく。そしてそこで出版社が果たす役割は大きく変わり、出版業界も変わらざるを得なくなる。

マー ケティングや流通を含めたプラットフォームが重要な意味を持つことは言うまでもないが、読者が作品を手にして(物理的に手にしないことも含め)読むために作品の内容を有形無形のまとまりに収めるパッケージングを如何に読みやすく快適なものにするのかという点が重要で、快適なパッケージングと快適なプラットフォームとを組み合わせることが、ここでの勝者につながる。

出版業界はどう動き、私たちはどう動くのか。考えただけでも楽しいではないか。



前回のエントリーの、ある意味、続き。

佐々木俊尚さんの周辺だけと言うわけではないと思うが、もう一つ話題になっているのが、日経新聞の リンクに対するポリシーだ。日経新聞へのリンクの禁止、とまでは言わないまでも、制限やら、脅しやら。

まぁ、先に宣言しておかないと後か ら面倒なことになるとでも思ったのだろうが、どうも、逆に、いきなり先に面倒なことになったようだ。

確かにこんな制約を恥ずかしげもなく 打ち出すと、ネット社会を敵に回すことになることも気がつかないのか。まさかとは思うが、意図的だとすれば、相当なチャレンジャー。でも、考えてみれば、 日経新聞ネット版の価格といい、そこで展開している金の取れるマスメディアの主張といい、日経新聞はネット社会に喧嘩を売っているように見えなくもない。

ま、 それはさておき、佐々木さんが言うように、こう言う姿勢を見ていると、改めて日経新聞の記事を信じて良いものかと、考えてしまうのは当然かもしれない。

そ んな折、ソフトバンクの松本副社長が、SIMロック解除問題に関する日経新聞を含む各社の報道に対して、詳細な、しかも当事者のコラム がネット論断「アゴ ラ」に掲載された。2回に渡りSIMロック解除問題に深く立ち入っているコラム で、どちらも内容も素晴らしいので携帯ビジネスやSIMロック解除の件に興味がある 人は是非読むべきなのだが、それと同時に、この件を扱ったマスメディア、新聞記事の限界を益々もって見せつけられてしまう。

テレビは時間 が限られるし、新聞も紙面に限りがある。その中で色々な記事や情報を扱おうとすると、一つの記事に割けるスペースはどうしても小さくなる。本当は”プロ” の記者さん達が集めた優良な情報が大量にあるかもしれないのに。それをあえてネットで一般に提供して、読む人たちに判断させることは、どうして出来ないの だろう?

そして、その限られたスペースで、あえて伝える情報がどこまで正確なのか、少なくともネットユーザーは疑問を持っている。また、 そこで展開する主張がいったい誰の主張なのかが不明瞭であることも、ネット的な視点から言えば奇異なことでしかない。

今改めて思うのは、 マスメディアとはそういうものなのだと冷静に受け止め、それなりの疑問を持った適切な距離感で、正しいつきあい方をするべきだということである。
ツイッターを始めてしばらくして、「ツイッターノミクス」を偶然本屋で見つけ、ウッフィーのことを知り、刺激を受け、そしたらNHKで「激震マスメディア」の放送があり、出演していた佐々木俊尚さんをフォローし始め、他の色々な人たちの声を聞き、ネットコミュニティの事をより深く考えるようになり、メディアの変革も実感している。

電子書籍に直接関わりを持つ今、これらの事に接して自分がどう化学変化して行くのか、どう行動して行くのか。考えないわけにはいかない。

マスメディアの批判はネットで常識化しているし、対立構造のように言うのも、多くはマスメディアだろう。

一方で、あの番組のお陰で、明らかに佐々木さんの知名度は上がり、番組内での彼の発言やその後のツイットなどによって彼のウッフィーは飛躍的に増えているはずだ。(ウッフィーのことをまだずっと考えている。)恐らく、彼の著作は放送以来、相当見直されているだろうし、まもなく発売の「電子書籍の衝撃」はiPad発売のタイミングもあってベストセラー間違いないだろう。マスメディアの威力は否定できない。

ただ、私も含め多くの人がそうであると思うのだが、今回の佐々木さんの例でも、決してテレビ出演だけでウッフィーが増えたわけではない。むしろ、その後のネット上での発言もそうだし、それ以前の著作や、ネット上での発言が評価となっているのだろう。

佐々木さんの3年ほど前の著作「フラット革命」の中で、これからは「誰が言ったのか」が問われるのではなく、「何を言ったのか」という内容が問われる、という趣旨のことを書かれている。まさに、佐々木さん自ら体現している。

さらに言うなら、「何を言った人なのか」が結果として重視されるということであろう。

と、ここまで書いていたら、佐々木さんがiPod版の「電子書籍の衝撃」を先行販売するという話がTwitterで流れてきて、先着1万件だったこともあってか、販売サイトのサーバーが大量アクセスでダウンしたとのこと。こりゃ、マスコミの威力ではないですな。

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