なんだかんだと言っても、原発が稼働するかどうか、プロメテウスの火をどう操るかの最終判断は、彼が握っているからだ。
その点、静岡県は今のところよい知事に恵まれたと言えるかもしれない。
静岡県知事、川勝平太さんと言う。
2009年夏の選挙で自民党系の女性候補と大接戦を演じ、辛勝した。
昨年3月11日の大地震と津波で福島第一原発がもろくも崩壊した様を見ている僕らとしては、あの夏、川勝さんが勝っていたことを天に向かって感謝したくなる。
もし女性候補が知事になっていたら、今ごろ浜岡原発再稼働に向けてひそかに(そして着々と)根回しを始めていただろうから。
6月25日、静岡県庁で知事の定例会見があった。
夕方のNHKニュースでかなり長く報じていたので、それを観た。
重要な発言が多かった。記憶する限り拾ってみると──
まず、9月までに設置することが決まった国の原子力規制委員会について、
「成功するかどうかは(委員長などの)人選にかかっている」
と、信用と独立性を保った組織にするよう強く求めた。
お手盛り委員では国民の命にかかわるからだ。
委員会は今後、5人の専門家により原発再稼働に向けた安全基準を作る。
これまでのような専門バカ、推進者側におもねた誤魔化し、おざなりな基準にされてはたまらない。
だから川勝さんは、「国際的な監視の目にもかなう安全基準の策定」を求めた。
大飯原発では野田首相が、急ごしらえの「暫定基準」でもって再稼働を一方的に決めた。
だから知事は、ここでもクギを刺しておかなければならなかった。
「大飯以降の原発再稼働は規制委が策定する安全基準の適用を要求する」
さらに浜岡原発の再稼動の判断については、
「停止要請をした政府が(※それほど切迫した危険あり、と判断した)『特別だ』と言っている。専門家や県民に透明性を確保した形で、なぜ安全と言えるのかまでの説明が求められる」と述べた。
数値か何かに基づいて「安全です」と言うのは簡単だ。
しかし「その数値だからなぜ安全と言えるの?」と問われると、数値自体の根拠を説明しなければならなくなる。
実験や過去の知見、歴史的事実などを総動員しなければならないだろう。
過去、それを疎かにしてきた。
しかし知事は言うのである。
「安全の根拠まで示さなければ再稼働はありえない」と。
一方、中電が取り組んでいる18mの防波壁を作る津波対策についても「不十分」と明言した。
18mでなぜ安全と言えるのか、根拠が明解でないからだ。
さらに、『これはよく言ってくれた!』と思ったのは、浜岡原発の使用済み核燃料についてだ。
浜岡原発敷地内の燃料プールには現在、6625本の燃料集合体、ウラン量にして1126トンが貯蔵されている。
これを「中電の自費で他に移さなければ再稼働できるという話にはならない」と、
極めて高いハードルを設けた!!
使用済み核燃料の処理については先日、政府の原子力委員会が「全量再処理ではなく“直接処分”も」と妥協的な選択肢を提示した。
これにも川勝さんは咬みついた。
「火山帯が地下にあるわが国では、直接処分はやるべきではない」
一連の原発問題に対する会見は、「妥協しない」「あいまいにしない」姿勢が明確で、小気味よかった。
だが翌日の朝刊紙面は、どの新聞も原発に対する知事発言に大きなスペースを割いていない。
会見では教育など他の重要案件についても言及しているから、原発一辺倒にしない各紙の編集方針も一応は「合理的」に見える。
しかし夕方のニュース帯でていねいに報道したNHKと差が目立った。
テレビでも、もちろん「編集」はする。
この場合、NHK静岡支局はあえて原発に対する川勝さんの会見に長時間を割いたのだろう。
だから新聞メディアではぼかされてしまった知事の「不退転の決意」が画面からはっきりうかがえた。
『テレビもなかなかやるもんだ』
地方支局にジャーナリズムを感じ、僕はうれしくなった。
だが、喜んでばかりもいられない。
「知事の決意」は反対勢力から言えば明確な障害であろう。
来年夏の選挙は、死に物狂いで川勝つぶしに来るに違いない。
今、静岡県では「浜岡原発の再稼働を県民投票で決めよう」という署名活動が行われている。
日曜日、青葉通りで署名活動をしていた。
多くの人が素通りしていく……。
ある意味、当たり前の光景である。
Facebookの投票では9割までが再稼働に疑念を持っている。
しかし「疑念」は、怒りのうねりになるほど人々の心を揺すぶってはいない。
直接投票のための署名より、街歩きを楽しみたい人の方が圧倒的に多い。
僕らはこの現実を肝に銘じておかなければならない。
僕は、いま目の前にある危機として原発をとらえ、
最善の同居法を模索しているこの静岡県知事を守りたいと思っている。
来夏の静岡県知事選は旧勢力の激しい巻き返しが予想される。
川勝さんは民主党の支持を受けた知事だ。
当然、逆風が予想される。
それでも県民の安全、国民の安全のために勝ち抜いてほしい。
無関心層に声を届けなければならない。
そのために自分は何ができるか、考え、行動していきたい。
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