秋の休日、ゴルフと嫁と、妻の気遣い | ジャーナリスト 石川秀樹

ジャーナリスト 石川秀樹

ちょっと辛口、時どきホロリ……。理性と感情満載、世の常識をうのみにせず、これはと思えばズバッと持論で直球勝負。
3本のブログとFacebook、ツイッターを駆使して情報発信するジャーナリスト。
相続に強い行政書士、「ミーツ出版」社長としても活動中。



秋の3連休2日目(10月9日)、妻とゴルフ観戦に出掛けた。
東京にいる次男が1ヶ月前に誘いの電話をくれた。
11月の試験が迫っているこの時期、正直言って気乗りはしなかったが…。


受話器を握って「どうする?」という妻の顔が『行きたい』と言っていた。
それで、「たまには頭を解放するか」と答えた。
キヤノンオープン最終日である。


♪♪東戸塚駅で次男夫婦と合流

さて当日、今期未勝利の石川遼君が3日目まで首位にいる。
『これは混みそうだ』
同居している長男も行くはずだったが、折悪しく腸炎をこじらせ入院した。
命には別状なさそうなので、朝から妻と車で出掛けた。


午前10時半、東戸塚駅(横須賀線)で次男夫婦と合流。
次男のお嫁さんは5ヶ月の身重である。
僕ら夫婦にとっては初孫に当たる。
安定期に入ったとはいえ、『大丈夫か』と思わないでもなかったが…。


会場の戸塚カントリーCCへのバス乗り場は超満員だった。
座席をしっかり確保するため、1バスをやり過ごす。
次のバスはすぐにやってきた、まさにピストン輸送。


予想した通り、会場は人でごった返している。
バス下車からここまで、平坦に見える道も案外にデコボコしている。
コース手前の広場では屋台が出て、ほとんどお祭りのようだ。

hidekidos かく語り記-とつか


次男らはここで昼食を摂るらしく、さっさと列に並んだ。
『大丈夫かな』と思いつつ、テントで席を確保して待つことにした。
ほどなくやってきた2人、次男は構わず焼きそばをパクパク食べ、
お嫁さんは時々「食べる?」などと言いながら次男にバーガーを差し出す。
仲がよい。


♪♪身重の妻を後ろに、さっさと歩く次男

さて、これからどのように観戦?
次男がさっさと歩く。
家内がそれについていく。
お嫁さんはさすがに早足では歩けない。
僕は気になるので、彼女を振り返り振り返りしながら歩く。


ゴルフでフェアウェイ歩きは慣れているが、カート道はけっこう荒れているし、
コースとコースの間の道は「道なき道」だ。
アップダウンがあり、穴のようなものまであいている。
嫁さんが転びはしないかと、気になって仕方ない。


遼君は8番ホールあたりでプレイしているらしい。
先回りしてインの10番ティーグラウンドで待つことに決める。
今いるところからだと、ロングホールを縦にさかのぼらなければならない。
例によって次男はわが妻と先を急ぐ。


次第に距離が離れていくので、後を追うのはやめた。
お嫁さんとゆっくりゆっくり歩く。
途中、遠目に遼君らしき選手がグリーンサイドからアプローチするのを見た。
『あっ、ダフった!』
プロでも力を緩めて打つのは難しいんだね、などとにわか講釈。


また歩きはじめてしばらくすると、人波が急に動き始めた。
僕らが見たのは9番ホールだったらしい。
とすれば、さすがに急がなければならない。
近道して芝のスロープを下りていくと、背の高い次男の姿が見えた。
次男と家内はティーグラウンドの10㍍ほど手前のコース横に陣取っていた。


♪♪プロのボールは消え「音」だけがよぎっていく

ほどなくして選手が現れる。
遼君もその中にいた。
前の前のホールで1打縮めていたが、さっき失敗したから…。
ところが第1番にショットするのは遼君だった。
「リカバリーしたらしいね」頼まれもしないのに嫁さんに状況説明。


遼君のショットはさすがに豪快だった。
ポコともパコとも何とも表現しようのない(しかし快音ではない)音がしたかと思うと、
ヒュルルというボールの風切り音が聞こえた。
無論、ボールなど見えない。
拍手が大きいからナイスショットだったのだろう。
さえないと思った音は、ボールをつぶすくらいにヘッドが早い証拠なのかも。


3選手がショットし終わると、観客が動き出す。
今度もその波に乗り遅れた。
次男と家内は人波と共に動き始め、はやグリーン方向に消えた。


お嫁さんと共に、またゆっくり歩き出す。
途中、はるか向こうのフェアウェーで遼君の姿が見える。
第2打はどうやらバンカーからとなるらしい。
木陰から見ていたが、ショットの結果はよく分からない。
遼君がショット地点からそれほど離れていないところからもう1度打った。
プロでも失敗があることの、本日2度目の”目撃”である。


♪♪先回りして待つ作戦、でも難行苦行だった

グリーンには行かずに次男たちを待って合流。
このまま最終組を追い掛けるのは到底無理に思えた。
そこで次男は、縦に進まず横に11、13番を越えて行くことに決めた。


これはある意味、難行苦行である。
コース横の急なスロープを下り、またコースに向かって登るを繰り返すのだから。
フェアウェーはおおむね平坦だが、一歩OB帯に踏み込めばかなりの丘、林である。
それをいくつも横切ることになる。


とりあえずこの急なスロープを下るため、僕は家内を振り返り、手を握った。
次男にもお嫁さんをエスコートするよう目で合図する。
今度は手をつないで歩いていく。
『やれやれ、気が疲れるな…』


だいぶ歩いた。
秋の日差しは存外強く汗だくになったので、上着を脱いだ。
13番ティーグラウンドを望める丘に出て、遼君らを待つことにした。
その向こうには12番グリーンが見える。
『やれやれ』ようやく一息つけた。


♪♪18番グリーンサイドは人、人、人…

40分以上も待っただろうか、最終組がやって来た。
遼君は12番で、よい位置に付けたがカップに嫌われバーディーを逃している。
13番、それでもティーショットは冴えていた。
この日2回目の雄姿を間近に見て、妻は大満足の様子だ。
しばし2人で会話がはずんだ。


この丘の上は18番グリーンであるらしい。
しかし、ここもかなりの急傾斜。
遠回りして平坦な道をグルッと回る手もあるのに、次男はさっさと登り始める。
「おい、手をつないであげないと無理だぞ」いらぬお節介をやく。
こちらも妻の背中を支えながら、押し込むように先を歩かせた。


やっと18番グリーンサイドにたどり着いたが、はや人、人、人である。
座りたいが、スタンドは超満員でとても無理。
グリーンがやや登った地点にあるので、ここからはパッティングが見にくい。
そこで次男は迷わず「向こう側に行こう」と言った。


『おいおい、またかよ』舌打ちしたい気分。
今度は一応、道のついているところを行くわけだから、平坦ではある。
が、人がいる。最終グリーンの周りである、尋常な数ではない。


用事があって、ちょっと座を外した次男の嫁さんを尻目に、
次男はさっさと人ごみの中に突っ込んでいった。
僕も、家内が将棋倒しにでもなったら大変だから、後を追った。


10分の余かかって18番グリーンをグルリと回った。
お嫁さんは?
次男が電話している。「後から来るって」


♪♪妻は熱戦を堪能、お嫁さんもニコニコ

『こいつ、案外冷たいな』と思いつつ、18番フェアウェイを見つめる。
遠くかすかに選手の姿が見える。
やがてボールがグリーンにポーンと落ちてきた。
弾道は全く見えないが『あの距離から、見事なものだ』


熱戦である(多分)。
遼君は優勝圏内にいるのかどうか。
スコアボードのこちら側に来てしまったから、現況がさっぱり分からない。
ツイッターで「優勝争いの行方」を聞いているうち、お嫁さんが姿を現した。
何ごともないように、ニコニコ笑っている。
僕は『案外タフなんだな』と彼女を見直した。


妻はと言えば、グリーン上を熱心に見ている。
ゲームそのものを堪能しているようだ。
書道の仕事に追われているうえに、同居している母の介護にも神経を使う日々。
秋空の下、好きなゴルフ場で観戦に熱中し、心の洗濯をしているのだろう。


優勝はベテランの久保谷選手。
最後のパットを沈めた瞬間、小さな女の子と男の子が飛び出し抱きついた。
『お子さんかぁー』父の勝利の瞬間を目にするなんて、なんと幸せなことだろう。
かたわらの妻が、心をこめて拍手を送っていた。


♪♪バスを待つ間、初孫談義

『いい日になったな』と思った。
優勝が決まると、観客がドッと動き出した。
つられてこちらも動き出す。が、早くは歩けない。
またお嫁さんと連れ立って、バスを待つ列に付く。
と言っても、長い長い列である。
1㌔ほどもあったのではないだろうか。


「ご両親、お慶びだろう」
「父は『また女かァー』と言ってました」
お嫁さんは3人姉妹の末っ子。それでお父さんのセリフ…。
しかし、同年輩の彼の照れ笑いが見えるようだ。
向こう様にとっても初孫、うれしくない訳がない。


僕はと言えば、生まれてくれればどちらでも…。
模範解答のようだが、本心である。
子どもと言うものは、どこかで自分の力で生きていてくれれば100点満点。
その上、次の世代を産んでくれれば、200点あげてもいい。


30分の余もかかってバスに乗り込んだ。
帰りはかなりの渋滞。
駅に着き、お嫁さんはコンコースのお店でバーガーを買って食べていた。
午後3時、順調にお腹がすいたのだろう。


♪♪超音波診断の写真に写る”彼女”

それぞれの車に乗って横浜・中華街に。
ここもずいぶん混み合っている。
午後5時、「萬珍楼」に席を取り次男夫婦とあらためて向き合った。

hidekidos かく語り記-まんちん


家内とお嫁さんは、何やら出産にまつわる話を熱心にしている。
その中に、「胎児の写真がある」というのがあった。
超音波診断をするとき、写したものらしい。
患者さんにも分けてくれるものとは知らなかった。


家内は「見たい、見たい」と言う。
その写真はお嫁さんの携帯電話に入れてあるらしい。
食事が終わって帰るとき、次男夫婦が見せてくれた。


確かに子どもの姿がカラーで写っている。
お腹の中、目をつむり、小さな手が顔の両側に見える。
僕にとっては『なるほどね』という感じだったが、家内は
「その写真、あとからメールで送ってね」
次回診断でも、もっとはっきりした写真が撮れるらしい。
「それも送ってね」と頼んでいた。


♪♪やっと気づいた家内の気遣い

その姿を見ながら、僕は一つ得心した。
ゴルフ会場で妻はお嫁さんに声をあまり掛けず、観戦に熱中していたのだが、
『ああ、それはお嫁さんに気を使っていたのだな』


30年以上も僕の両親と同居し、姑の一言ひとことがお嫁さんにどう響くか、
彼女は誰よりも知っていたのだ。
だからこそ、余計な会話はしないで若い二人に任せていたのだ。


この点、お嫁さんによい顔しようと頑張ってしまう男親との違いである。
次男にしても「冷たい」のではなく、つかず離れず気遣っていたのだろう。
みんな結構、”大人”だったわけだ。


よい日曜日だったね。
いろいろ勉強になったし…。
帰路、東名を走りながらそんな考えが浮かんだ。




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